農林水産大臣賞典ばんえい記念を二度制すなど、長きにわたって活躍したメジロゴーリキ(牡10、松井)が、競走馬を引退、種牡馬入りすることが先日発表されました。
通算成績は195戦26勝。重賞はばんえい記念のほか、ばんえいダービー、天馬賞、帯広記念など、通算11勝を挙げています。

3月17日に行われたばんえい記念は記憶に新しいところでしょうが、今回はメジロゴーリキについて語ります。

といっても、ただでさえ競走生活が長く数を使うばん馬、その中でも一線級に居続けたゴーリキ。一つ一つを取り上げるわけにもいかないため、いわゆる「名馬列伝」的なものではなく、単なる私の思い出話でございます(^^;


 2017年12月のばんえいダービーで重賞初制覇を遂げたメジロゴーリキは、翌シーズンも、岡田定一調教師の死去に伴い松井浩文厩舎へ転厩しての初戦となった2019年1月の天馬賞を勝利する。二季続けて三冠ロード最後の大一番を制し、世代最強を高らかにアピールしたが、何よりも光ったのはその勝ちっぷりだった。
 先行力と登坂力を活かし、第二障害トップ付けからトップ抜け、遅れて障害を下りてきた世代屈指の切れ者ゴールデンフウジンに一旦は並ばれ交わされるかの場面もあったが、ゴールまで緩まず差し返し気味にわずか0秒1差で先に曳き切ったのはゴーリキ。障害で止まる馬、下りて詰まる馬もいる厳しい流れの中で見せた、登坂力と粘り腰に唸らされたことを覚えている。
 私は、特にトップ級の牡馬に関しては、こういったタイプの競走馬を高く評価する傾向がある。下りてズバッと突き抜けるような勝ち方に比べれば見た目のインパクトには欠けるかもしれないが、正攻法から障害が巧者で末も我慢できる本格派、この手の馬は荷が張っても対応できるし、首から肩にかけて厚みのある好馬体も相まって、来たるべき古馬(ばんえいでは5歳以上を指すのが一般的)との戦い、とりわけ高重量戦での活躍を予感させた。

 古馬になってからの初重賞は、6歳秋、2020年11月の北見記念。
 5着までが1秒5差に収まる大接戦となったが、障害を前めで下ろすと、末まで長く良い脚を使って歩き勝つという、かつての天馬賞で示した持ち味を存分に発揮してのものだった。
 しかも、2着オレノココロ、3着コウシュハウンカイと、一時代を築いた士幌二強を抑えてのもの。加えて言えば、センゴクエースも、ホクショウマサルもいた。
 この名だたる強豪を相手に回し、ややハンデをもらっていたとはいえ自身も850キロを曳く中で勝ち切るとは、たしかな地力と高重量戦への適性を備えていなければできない。単勝52倍の8番人気という穴駆けではあったが、フロックであろうはずがなかった。

 それをそう間を空けずに証明したのが2021年1月の帯広記念で、オレノココロから0秒4差の2着だったとはいえ、さらに重い900キロでも障害一腰、第二障害手前からゴールまで最も長く脚を使うという、ここも出色の内容だった。これはもう本物だ。
 私は馬券の取捨はともかく、ゴーリキのことをずっと高く評価していたつもりだが、この北見記念と帯広記念が、その論拠のほとんどを占めると言って良い。いま改めてレースを見返してみても、そう思う。
 その後に初めて挑戦したばんえい記念は6着に終わったが、異常な軽馬場の中で展開が合わなかっただけ。ラストランと表明していたオレノココロとコウシュハウンカイ(もちろん二頭ともS級評価)がいない来年は、メジロゴーリキ。そう一年後の本命を決めた。

 そして迎えた2022年3月のばんえい記念。
 大きな注目を集めたのは、二歳年下の二強、メムロボブサップとアオノブラックの初挑戦だった。普通に考えれば5歳シーズンでは厳しいレースだが、その二頭が常識を超え得る存在であることは、誰もが認めていた。
 とはいえ、ゴーリキも岩見沢記念を制し、帯広記念でも2着など、私が思っていたとおりの姿でシーズンを過ごしてきた。
 地力と、高重量戦の経験および適性で上回るのはどちらか。

 ゴーリキが、1000キロで5歳(明け6歳)に負けるかよ。

 一年前の予想を変える必要はない。ここは自信があった。

 前年同様に軽馬場となったが、今度は前も意識した位置取りから障害一腰でトップ抜けを果たしたゴーリキを、番手で下ったメムロボブサップが追う。
 すぐにソリ半分ほどの位置にまで迫ったものの、そこから差が詰まらない。詰めさせない。そのまま追い比べが続いたが、残り10mで世代八冠馬の脚が止まる。
 ゴーリキは、最後まで止まらなかった。

 私はこの時、ゴーリキの単勝馬券を持っていた。
 普段はもっぱら百円単位で馬券を楽しんでいる身としては、なかなかに大きい金額……中央競馬も含めた馬券キャリアの中で、一レースおよび一点に張った金額としては、自己最高のもの。
 それだけ自信があったということだが、多少儲けたところでいずれなくなる泡銭。それよりも、これはと見込んだ馬が実際にばんえい記念を勝ったことが嬉しく、大きな満足感を得られるものだった。

 その後の活躍に関しては省略するが、中央競馬ファンならば少し気になるであろう馬名の「メジロ」は、母メジロルビー、その父メジロショウリ、その母のメジロ、から連なるもの。
 ゴーリキの祖父であるメジロショウリは、通算10戦2勝と目立たない競走成績でありながらも、十勝管内幕別町の佐渡畜産で種牡馬となった。その産駒には「メジロ」から始まる名前を持つ馬も多いが、もちろん伊達や洞爺にあったメジロ牧場とは無関係だ。(個人的には、ゴーリキはマックイーンっぽいと思ったこともあるが笑)

 ゴーリキの生産者としてクレジットされているのは佐渡孝徳氏だが、馬産を実質的に行っている(と思われる)弟の佐渡誠氏は、ばんえい競馬の元騎手で、通算1158戦89勝という成績が残っている。
 元騎手が生産した大臣賞馬、というのは良いネタになりそうにも思えるが、それに触れた記事を目にしたことは、少なくとも私はない。
 やや不自然にも思え、あえて触れないようにしているのか、などとも思ってしまうが、私も佐渡誠氏の騎手時代を詳しく語ることができないためにスルーせざるを得ないのが少し残念ではある。

 そんな余談もあるが、改めて振り返ると、ばんえい記念2勝はもちろんのこと、3歳および4歳時に世代の頂点に立ち、6歳シーズンからは四季連続で重賞勝ち、さらに二大巨峰を同一年制覇と、歴史的名馬の域と言っても過言ではない。ダービー・天馬賞に加えて、ばんえい記念・帯広記念も制した馬など、過去にはオレノココロしかいない。
 重荷にへこたれず、障害でグイッと腰を入れ、下りてもじつに真面目に歩いた。ややトラディショナルな雰囲気すら漂わす、ばん馬らしいばん馬だった。連戦連勝タイプではなかったが、ここぞという場面で底力を示し、最後に二歳年下の二強を退けたことで、さらに評価を高めた。

 まだ詳しいことはわからないが、今後は種牡馬として過ごすという。
 どのような産駒を期待するか、の問いに対し、「ゴーリキみたいなタフな馬」と松井浩文は答えていたが、再び師の涙を誘う二世の誕生を望みたい。