3月17日(日)に行われた大一番、農林水産大臣賞典第56回ばんえい記念(BG1)は、道中で先手を取ったメジロゴーリキ(牡10、松井)が第二障害を一腰で越えると、ゴールまで脚色衰えずに歩き切り後続を完封。一昨年に続き、二度目のばんえい記念制覇を遂げました。重賞は通算11勝目。
鈴木恵介騎手はばんえい記念5勝目で重賞通算99勝目。今季の重賞は11勝目で、金山明彦・元騎手(現調教師)が1980年度に記録した年間重賞最多勝利記録を更新。
松井浩文調教師は自身の持つ最多記録を更新するばんえい記念7勝目で、重賞通算78勝目。
雪が降る中で馬場水分1.9%、勝ち時計は2分55秒0。連覇を狙ったメムロボブサップ(牡8、坂本)が追い上げ及ばずの2着、しぶとく脚を伸ばしたコマサンエース(牡8、金田)が3着と続いています。

かなり遅ればせながらばんえい記念を振り返ります(;・∀・)
私はもちろん本場にいましたが、わりと気温も高く、本当に雪降るのかね? といった感じもありました。
ただ、天気予報のとおりに、一つ前の6R前から雪が舞い始め、それもこの時期なので水分をたっぷりと含んだ霙に近いようなもの、あっという間に今年も軽馬場が出来上がっての大臣賞となりました。

その中で示したメジロゴーリキのパフォーマンス、じつに素晴らしかった。完璧だったと思います。
第一障害こそややモタついたものの、道中で刻みつつ障害中間地点からジワリと前に出て先手を取りましたが、ここがやはり恵介の強かな点で、即座に馬場の変化および手綱から伝わる手ごたえを感じ取ったのでしょう。もう一歩前に行ける、前で下ろせる、下ろせば勝てる、と思ったはずです。
ついてこない明け8歳勢を離して前半約105秒でトップ付け、第二障害手前ではじっくりタメましたが、近走同様にカカリ良くスムーズに一腰で越えたところで、もう勝負あり、でしたね。
もっと重い馬場の厳しい流れの中でもオレノココロやコウシュハウンカイを相手にまわし、地の果てまで歩ける末脚をもって好勝負を演じてきたゴーリキを、1000キロを曳いて差せる馬などいるわけがない。終わってみれば、障害手前からの後半約70秒と、終いの速い競馬に持ち込んで悠々逃げ切り、もう圧勝と言って良いでしょう。

1000キロで障害一腰、かつ下りてからも一息で歩き切ったのは、もちろん凄いことです。
ただし、「メジロゴーリキ」という前提をもってすれば、結果としてこれだけ時計の出る馬場なのに、すんなり先手を取れて、十分に息を入れられる流れ、だったら全然驚くことじゃない。
実際の荷物が何キロかというのも当然重要なのだけど、馬場やペースの違いによって馬への負担は大きく変わる、とは何度も書いていますが、今回は明らかにマイナス側に振れています。
ましてや荷物に強く、二年前にも先行策からの前半約97秒-後半約70秒で、メムロボブサップとアオノブラックを封じているゴーリキです。恵介がインタビューで「ゴールに入るまで油断しないように」なんて言っていましたが、本音は障害天板くらいで勝利をほぼ確信していたと思いますね。
ヤマを上がれて長く脚を使える長所を活かし切った鈴木恵介、名手を招き入れる選択をしたうえで今季も完璧に仕上げた松井浩文、そしてそれに応えたメジロゴーリキと、三者の底力をまざまざと見せつける見事な勝利でした。

どうやらこれで引退のようですが、ダービーおよび天馬賞で世代の頂点に立ち、古馬になっては6歳シーズンから四季連続で重賞勝ち、そして最後に帯広記念とばんえい記念の二大巨峰を同一年制覇と、歴史的名馬の域と言っても過言ではありません。
四歳年上の二強に挑み、二歳年下の二強の前に立ちはだかり、その力と存在感を示し続けた競走生活に大きな拍手を送りたいと思います。


メムロボブサップは、障害で二腰、いや一腰半と表現しても良いほどですが、そこでわずかに後れを取ったことが直接の敗因とはなるでしょうか。
ただ、普段と比べるとちょっと集中力に欠くというか、障害下での反応も鈍かったようには見えた……かな。それが外コースの影響だったかどうかは、なんとも言えないのですが、馬場も含めて多少の誤算はあったかもしれません。
それでも2着と、十分に力は発揮しているのですが、今回は何よりゴーリキが百点満点でしたから。自身のわずかな綻びが結果に直結してしまった格好ですが、これも勝負のアヤと思います。
言うまでもなく来季も主役、また驚愕の姿を見せてくれることでしょう。

コマサンエースは軽馬場でも切れ味を求められない適条件で、今季の重賞同様に積んでの良さ、そして近走の好調ぶりを改めて示す好内容。やや決め手不足なのはたしかですが、今季は大きく成長し、結果も残しました。来季も真面目に動き、重賞でまた上位に顔を出す場面もあると思います。

アオノブラック(4着)は結果論ながらもストレートに言うと、馬場と流れにマッチしていない位置取り。自身が第二障害に付いたところで勝ち馬に仕掛けられているようでは、完全に後手に回っています。
ただ、グランプリと帯広記念では障害で乱れ、それを受けてか後半勝負に構えて結果を出したチャンピオンカップの直後。前走が素晴らしい勝ちっぷりだっただけになおさら、急なプラン変更を若い利貴騎手に望むのは酷というもので、最も雪が要らなかったのは本馬でしょう。
基本能力が非常に高いので、ある程度の荷物までなら馬場も流れも問いませんが、やはり重荷となると流れが落ち着いたほうが良く、少し難しい競馬となってしまいました。今季得た自信と悔恨を胸に、来季改めての期待です。

コウテイ(5着)は障害天板での腰の入り良く番手抜け、下りてからは地力の差が出ましたが、その登坂力と昨年からの成長は示しました。私は今回、本馬を軸にして馬券を買いましたが、納得の内容です。どこかで大きな仕事をしそうな予感はあるのですが、そのためにも来季は重賞出走圏内に定着したいところです。
インビクタ(6着)は道中で十分にタメを利かせながらも、障害は前に合わせた仕掛けで、このあたりの間の計り方、やはり新は上手い。結果的には障害でヒザを折ってアウトでしたが、立て直しは早かったですし、昨季からさらに成長しているのはたしかです。来季も変幻自在の姿を見せてくれることを期待します。

ミノルシャープ(7着)は結果はさておき、謙ちゃんのレース運びにはなかなか痺れました。
今季未勝利で今は1000キロも重く、単勝97倍の9番人気、私も馬券的にはノーマークでしたし、戦前の陣営コメントのトーンからも、そう攻めた競馬をせず大事に運ぶだろう、と考えていました。
それが、第一障害をモタモタと越えると、出して行って障害は番手付け。厳しいのは承知のうえで、雪を見てわずかな可能性に賭けたのでしょう。
そして実際に、超スローからの後半勝負で極端に終いが速くなり、前以外は用無し、しかも上位数頭は障害をすんなり越えて、かつ一息で歩き切るという、ばんえい記念では見たことがないような競馬になったのですから、これは馬場と展開を完全に読み切ってましたね。
残念ながら馬が応えることができずに障害で止まりましたが、この勝負手を放った謙ちゃんには拍手を送りたい。
加えて言うなら、色気を出せるほどに、馬場が軽いにも関わらず流れが緩かったということでしょう。


軽馬場でのばんえい記念は、これで四年連続(昨年も障害後が異常に軽かった)となりましたが、これはもう、天気なので仕方のないこと。
馬場が軽かろうが重かろうが、レースの権威と勝利の価値は、何ひとつ変わりません。
私は恵介の手綱捌きに感嘆し、松井先生の涙にもらい泣きしそうになり、メジロゴーリキはずっと評価してきた好きな馬でもあります。
そして今年も帯広競馬場に多くのファンが押し寄せ、大きな歓声と拍手の中でレースが行われました。

ただ、ばんえい記念の魅力は、年に一度しか見られない、1000キロを曳いての厳しく激しい攻防。障害で止まり、下りて止まり、その中で勝利を目指す人馬の姿こそが、見る者の心を揺さぶってきたというのは、疑いようのない事実です。
それが近年は、少し物足りないよね、という声もあると認識しています。
軽馬場じゃ面白くない、乾いた馬場での力勝負が見られてこそばんえい記念だ、と。

まあ私も同意気味ではあるのですが、それははたして馬場の違いだけによるものなのか。
競馬自体の変化による面もあるのではないか、と思っているのですが、ちょっと書いてみたら一気に長くなってしまったので、また機会があれば書くことといたします(^^;

全体の内容はともかく、天の時と人の和を得たメジロゴーリキが魅せた、王座奪回劇。
それはやはり見事で、じつに鮮やかなものでありました。