(元記事)
https://gizmodo.com/a-medieval-potion-proves-its-worth-as-an-effective-bact-1844559464  by George Dvorsky  Jul 30 2020
 

(内容

Image: University of Warwick
 

眼の感染症に効くとされた1000年前のレシピが耐性菌との闘いで型破りな方法に繋がるかもしれない。

ニンニク、玉ねぎ、ワイン、牛胆汁を少々。これが魔女の秘薬。
Scientific Reportsに掲載された論文によれば、この「Bald’s eyesalve」と呼ばれる中世のレシピは、抗生物質耐性菌など、たちのわるい細菌に効果があるようだ。

ウォーリック大学 Life SciencesスクールのFreya Harrisonが主導したこの新たな論文では、抗菌化合物をつくる上で過小評価されていた方法に注目している。細菌は抗生物質への新たな防御機構を進化させているので、これまで有効だった多くの抗生物質がもはや効かなくなっており、代替策を開発するすることが重要となっている。中世のテキストは医療情報に関する出所は怪しいものだが、この点について役立つ可能性がある。

「数千年にわたり、植物は感染症に有効な薬として使われてきましたが、植物の真のポテンシャルを理解する上で、ほんの表面をこすった程度でしかありません」と、エモリー大学の民族植物学者であるCassandra Quaveは言っている(今回の論文には無関係)。
「この論文はエキサイティングなものです。なぜなら、感染症と闘う上で、「Bald’s eyesalve」で見つかったような特定の植物成分の混合物が、時として個別成分よりも効果がある可能性があることを示しているからです」

実際のところ、今回の研究が示すように「Bald’s eyesalve」の有効性は単一成分に分離することはできなかったようだ。それが機能するためには、すべての成分が必要であり、調合の組み合わせの重要性が注目されている。

今回の新論文は、ノッティンガム大学スクール・オブ・イングリッシュのChristina Leeが指揮した以前の研究の続編である。Leeは、薬や水薬(軟膏)のレシピ、治療法などが記載された初期アングロ・サクソンの医療テキスト「Bald’s Leechbook」について研究してきた。CE905年頃に書かれたこの本は英国図書館で発見されたものである。Leeは「Bald’s eyesalve」に興味を持ち、他の専門家の助けを借りて、この水薬が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対して驚くほど効果がある抗菌化合物であることを発見した。

この論文によれば、Harrisonと共同執筆者はこの秘薬を再化合し、浮遊細菌やバイオフィルム(抗菌薬耐性を備えることの多い複合細菌コロニー)などを含む5つの細菌株で実験した。

とりわけ「Bald’s eyesalve」は、Acinetobacter baumanii(戦争による傷で多い)感染や、Stenotrophomonas maltophilia(一般的に肺感染しやすい)、Staphylococcus aureus(外科感染で多い)、
Staphylococcus epidermidis(扁桃腺炎、猩紅熱、蜂巣炎、リウマチ熱)など、軟部組織感染のケースに適用されていた。これらの細菌は、糖尿病性足部潰瘍にも見られ、標準的な抗生物質には多様な耐性を見せている。

上記医学誌によれば、「Bald’s eyesalve」の実験では、浮遊状であろうと、バイオフィルム状であろうと、こうした細菌に対する有効な抗菌性が認められているようだ。この中世の混合物は、人間の細胞やマウスに有害性はなく、感染症の有効な治療薬になる可能性が示唆されている。

玉ねぎ、ニンニク、ワイン、牛胆汁の混合液が上記のように効くかもしれないという発見は驚くべきことであり、これを発見した人に先見の明があったことは明らかである。しかし、どうして効くかについては、いまだに謎めいている。

ニンニクにはアリシンが含まれており、これは浮遊細菌には効果があるが、足部潰瘍に見られるようなバイオフィルムにはあまり有効ではない。そのため「Bald’s eyesalve」は総力を結集して効果を発揮していると研究者は言っている。

「Bald’s eyesalve」の潜在的な抗バイオフィルム性は、単一成分が原因ではなく、すべての成分の組み合わせが必要であるとわかりました」と研究者は書いている。

ウォーリック大学プレスリリースでHarrisonが説明しているように、
今回の研究では、複数食材の抗菌成分を合わせることの重要性が示されている。

「今日、私達が使っている殆どの抗生物質が、天然成分由来ですが、バイオフィルム感染症の治療には、単一成分だけでなく、天然産物の混合を開発していく必要性を私達の研究は強調しています」と、Harrisonは説明している。「天然産物由来の抗生物質を今後発見していくためには、単一の植物や成分というよりも、成分の組み合わせを研究することで発展していくかもしれないと考えています。まず第一に、こうした組み合わせは、糖尿病性の足部潰瘍など、感染創の新たな治療法を示唆する可能性があると思います」

科学者が昔懐かしい薬に新たな価値を見つけるのは、今回が初めてではない。昨年、Quaveは、アメリカ南北戦争で使われた医療用植物を調査した論文を共同執筆している。「Confederate Civil War」フィールド・ガイドで見つかったこの治療薬は、3つの植物をベースとした局部療法だが、その全てが抗微生物の可能性を示している。

(nature.com)
 

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