(元記事)
https://gizmodo.com/most-forensic-science-is-bogus-will-new-federal-rules-1823801909  by Nicole Wetsman  Mar 16 2018

 

(内容)

 

CSIのようなTVドラマの法医学はただの科学マジックである。血痕によって立ちどころに殺人パターンが判明し、指紋によって犯罪現場にいた人物が明らかになる。法医学が拠り所とする科学は実際はとても曖昧なもの。2009年、NRC(米国学術研究会議)が出した包括的レポートで、それがいかに役に立たないかを示しており、一般的な法医学技術の多くの部分で、厳格な科学的評価に依拠していないと記している。

 

Innocence Project(冤罪解明プロジェクト)は、不正確に用いられた法医学の証拠によって半分近くの不当有罪判決に寄与していると訴えている。2015年、毛髪分析による証拠が20年以上に渡り欠陥があったことをFBIが認めたDNAテストでさえも想像するほど完璧ではない。この10年間、法医学コミュニティはこの分野特有の問題に取組んできており、先月、司法省(DOJ)が、連邦研究所における法医学関連の諸基準を改正する新方針を発表した。

 

Jeff Sessions司法長官が全米法医学委員会(基準を司法省に助言する独立委員会)を刷新するつもりはないと発表した一年後に今回の発表となった。但し、法医学分野の改善やリフォームは、外部研究者からの情報に乏しい組織内の動きになるようだ。

 

新方針の下、証言や報告で用いる法医学用語を統一し、証拠のレベルや分類についての表現方法を企画化すると、司法省は発表した。例えば指紋分析レポートの場合、ガイドラインでは、連邦政府の科学者は「individualize(他と異なるとみなす)という言葉は使うべきでないとしている。その言葉には、結論が世界中の全ての指紋との比較に基づくという意味が含まれており、結論が100%確実と言うべきではないからだ。証拠には整合性も精査され、ラボでは品質管理書類の記録や検証研究を提示することになる。

 

新基準は正しい方向への一歩である一方、司法省外部の法医学者は、毎日の実務や法医学分析理解について大きな影響はないだろうと言っている。

 

ジョージア州立大学で法医学的証拠を研究するJessica Cinoは、司法省は法医学基準で一歩踏み出したことは期待できるが、連邦政府のラボにしか適用されないと言っている。アメリカで日常的に行われている法医学分析の大部分を占める州犯罪捜査ラボにまで波及するとは言いにくい。

 

「州のラボに持ち込まれる本物の歯なんて一つもありません。この仕事の殆どは州の担当になるのに、州のラボは今回の試みの外に置かれています。もし、私が州のラボにいれば、どうして一緒にやらないの?って言うでしょうね」と、Cinoは言っている。

 

連邦政府は州当局に対し、条件に補助金をつけることで連邦政府基準の適応を後押しすることはできる。しかし、新基準に適合させるには、分析者訓練、検証レポート更新、手順検証など、従来以上の資金とマンパワーが必要になると、Cinoは言っている。「言うだけなら簡単です。私達は連邦政府ラボの管轄なので、連邦ラボにやってもらいましょう」

 

今回の新言語基準は、連邦政府レベルの現行議論との間で一貫性が必要になるが、法医学問題の根本部分で研究員が事件で使っているツールが真の科学に基づいていないというわけでない。

 

新言語基準によって、より不確かな形で指紋分析を表現しようとしても、全員の指紋がユニークであると実際に証明する研究はないという事実を変えることはできない。指紋を比較する時、事件の背景が専門家の結論に影響することもある。かつては広く用いられていた歯型分析も、口に入れて同じ歯型をトレースできるという歯科医の信念に基づいて予測されていたが、それを支持する証拠は殆どない。指紋と同様、歯型の特異性に関する真の研究はない。DNA証拠の確実性についてさえ疑問がある。

 

 

法医学分析を用いる方法を研究するという差し迫った必要性がある。「基礎的信頼性に問題があることは確かです。そうした研究に連邦政府の補助金が必要です。線条痕パターンに基づいて被害者を殺したナイフはこれですと断定するには検証データを入手する必要があるのです」

 

新言語基準は、そうした科学探究への中間ステップにすぎないと、「Center for Statistics and Applications in Forensic Evidence」の部長Alicia Carriquiryは言っている。

 

「今回の司法省のメッセージは今日の科学の状況にふさわしいという意味だと思いますが、私達は科学を前進し続けなくてはなりません」と彼女は言っている。

 

また、司法省の法医学基準について行われる研究には独立系科学者も寄与するのを見たいとCarriquiryは思っている。「大きな科学者集団に属すれば、それだけ多くのことを学べます」と彼女は言っている。

 

司法省は2015年に言語基準の統一作業を始めたが、当時はCarriquiryのグループを含めて外部の科学者が携わっていた。しかし、昨年トランプ政権が政権についてから、小グループの研究者でしか研究せず、組織内だけに留まる方向へ後退していると、彼女は言っている。

 

そうした欠点はあるが、司法省が法医学を進行中の問題と捉えていることは勇気づけられると彼女は言っている。「しかし、将来的に最大の関心事は実際の履行がどうなるかでしょう。壮大な計画をもつのはいいことですが、最終的に行きつく先がどうなるのか分かればいいですね」

 

Innocence Projectによれば、DNA証拠によって、誤って有罪判決を受けた354人の冤罪が晴れることに結びついたようだ。法医学的証拠におけるミス、根拠のない方法、ミスリーディングがこれだけの冤罪を生んだのである。

 

欠陥のある法医学的証拠が覆った事件には、分析ツールの問題に注目が集まった有名事件がある。Steven Mark Chaneyは殺人罪で28年刑務所で過ごしたが、2015年、法医学歯科医が歯型分析の証拠は誤りだったと証言して釈放された。その後すぐに、テキサス州法医学委員会は歯型の証拠採用を停止するよう要請した。

 

将来的に科学が進歩し、誤った有罪判決を防止し、裁判所で用いられる科学が強化されることをCinoは望んでいる。「がん治療をしている訳じゃないけど、被疑者の命は今もあやふやな危険に晒されています」