『そや、そもそもそ受け渡しはどないするんや?
よく他のモン寄こすいう話があるやんか?大金やし怖いしN次郎が直接取りに来るんやろ?』
「お父さん、当たり前や。
こっちもやらなあかんこと片付けて向かうようにするから、まずはお金の準備なんとか頼むわな。」
重い重い受話器を置いて電話を切ると
父は側で不安にしている高齢の母へ伝えました。
『のう、母ちゃん。
N次郎が会社でヘマやって何とか金を都合せなあかんらしいんや。詐欺も多いしまだ疑っとんのやけどな、息子のN次郎が困っとるなら助けたるわ思うとんねん。
でもな、もし本人が取りにこんかったら、それは絶対詐欺や、間違うても金渡さんで。』
父は暑さと緊張でカラカラに乾いた喉を一杯の水で潤すと
キャビネットからカードの入った鞄を手に握りしめ
自転車に乗って現金の準備に出掛けました。
汗だくになり自宅に戻ると時刻は17時を大きく回っていました。
帰宅してしばらくすると2本目の電話が鳴ります。
《プルルル〜プルルル〜》
駆けずり回った父の額からは大粒の汗が滝のように流れ落ちていました。
「お父さん、お金はどうやった?」
『N次郎、金は用意できたで。』
「流石お父さんや、有難う!
ほんでな、さっき鉄道会社から連絡があってな、どうやら鞄が出てきたらしいんや!」
『なんやて、そりゃ良かったやないか!』
「そうなんや!ほんでな、鉄道会社からお父さんの所へ連絡が入ると思うんや。」
『なんでや?そんなん必要あらへんがな。』
「いや、本人確認ちゅうらしいんやけどな、細かくチェックせなアカンから、自宅へも連絡して諸々確認が必要やとか何とかいうとったわ。」
『そんなん、お前が本人なんやから、お前が話たったら十分やないかい。』
「まぁ、それがそうもいかないらしいんや。
ちゅうことでな、こっちもまだ取引先やらなんやら、やることあるからな、電話来たら対応したってや。」
『おぅ、わかったわ(ほんまかいな…)』
鉄道会社からの電話は数分でかかってきました。
《プルルル〜プルルル〜》
「こちら〇〇線の遺失物課のY岡と申しますが、N次郎様宅で宜しいでしょうか?
この度ご本人様の物として届いております持ち物の件でご連絡させていただきました。」
『(なんや、えらいタイミングええやんか…)
どうも息子が迷惑かけとりますな。』
「とんでもございません。
それではいくつか確認をさせていただきたいと思いますので、ご協力をお願いいたします。」
『ほな、頼みますわ。』
客観的に見れば出来すぎたストーリーですが
渦中の人間にはそんなことを冷静に考える余裕もありません。
そして、彼らは思考する隙を徹底的に排除するように狙ってきます。
5分でいいので、立ち止まって相談が出来ればよいのですが…
続く
