ほのぼのしたタイトルを裏切る、サスペンスストーリー。

イヤミス作品になります。

 

 

下宿の管理人といえば、コミック『メゾン一刻』に登場する音無響子さんが有名。その男性バージョンのようなこちらの作品はさらに虚弱体質ゆえに会社勤めができず、再婚前提で新居へ引っ越した母の代理につき、コンプレックスがあります。

 

章立ての副題に、下宿『すみれ荘』に住まう新旧の住人たちの名前がついています。この並びは、若者順ですか?

ためし読みはプロローグの約半分。登場人物は、ほぼ出揃っています。

 

最初のふたつの章については、この10年ほどの間に社会認知を得た新しい現象になり、

それ以前の時代に社会生活を送っていた人は「ない時代」を知ってるから、なければないなりの暮らし方をして共感を得にくいかも。

 

そのひとつ、重度のPMSを患い、他の下宿人や管理人に八つ当たりが絶えないOL。同居のみなさんは理解者。

今でこそ声高に理解を求めますが、私が新入社員の頃は本能的な男性と理性的な男性で反応の違いが大きくてタブーの話題でした。自然界において血の匂いに寄る生物って、だいたい決まっています。それを消臭しても、口頭で喋ったら意味がありません。なので異性にも同性同様に告げる女性を、育ちのいい男性ほど「怖いもの知らず」って気味悪そうに敬遠していました。優しい理解者が善意から行っているばかりでないことは、現代のネット事情と同様です。

こういうことがあるので、更衣室や休憩室など女性だけが集う場所でヒソヒソ話すしかないのでして。それでも知識のある男性であれば、サイクルから察知して紳士的に対応なさいます。ただ、気づくまで時間がかかるので、待たねばならず。

 

このような事情があり、「時代は変わった」と思いつつ読んだ前半。

後半は、いよいよサスペンスムードが高まります。

管理人・一悟のそこはかとない不安は解消されるのか?!体調不良の原因は究明されるのか?!次々と明らかになる真相に翻弄される管理人。そうして「すみれ荘」は火の海になり、建物内に取り残される一悟と三年ぶりに再会した娘の一咲。

 

エピローグに、細々と小説家稼業を続けてきた芥が

「俺には理解できない濃い感情が渦巻く世界で生きてるんだろうなと思うだけだ」

周辺人物に対して、このように話しています。このひとことは深く共感したので、私自身もどちらかとなれば芥寄りになりそう。

濃い感情を持つと執念や嫉妬が起こり、自己感情を重んじて作品キャラクターのようなトラブルを起こすのかも。きっと、その濃さに慣れたら違和感はなく、温度差のある他者が冷淡に映りますます泥沼を招いた結果が、作品紹介にある「愛ゆえに、人は。」へ帰結するのでしょう。

 

再版だけに掲載された巻末の短編は、

再建中の「すみれ荘」に現れた怪奇現象。そこにまつわる人々の、それぞれの視点から描かれた、バタフライエフェクト。そうしてネタにされ、新しいプロットが生まれました!

編集者が取り出すミントタブレットのケース内で、ひとつだけ色の違う青い錠剤は、何を暗示だろう・・・オカルトもありました。