【鉱物言葉集】
モーリアック『テレーズ・デスケルウ』より
石に関する言葉
この作品を愛した
遠藤周作による訳。
タイトルの
『テレーズ・デスケルウ』は
主人公の女性の名前である。
物語は
裁判所の前から始まる。
テレーズは、
夫の毒殺未遂の容疑を
かけられていた。
夫は家の体面を守るため、
偽りの証言をする。
起訴を免れたテレーズは、
裁判所からの帰り道、
自分の過去をたどっていく。
この引用は、
テレーズが義理の妹アンヌからの手紙を
読む場面にある。
ある青年と恋に落ちたアンヌは、
手紙にこんなことを書いていた。
…わたしはまだ知らないあの線を越えたいと思っているの。(中略)でも彼のいうことを聞いていると、いつも、こちら側にとどまっていなければならないようだわ。(同書より)
アンヌの手紙は
テレーズの人生に欠けたものを
突きつけてくるようだ。
このあと
テレーズは手紙を破り
「石の淵」をのぞきこむ。
(Wikimedia Commons)
家同士で決められた結婚。
家名と世間体を守るための暮らし。
テレーズは、
そんな硬く冷たい石の檻に
閉じ込められている。
私はこの作品を読んで、
息苦しくてたまらなくなった。
テレーズは、
生きたまま
石に閉じ込められている。
外から見れば静かでも、
内側ではずっと苦しい。
石のなかにいる人の言葉は、
誰にも届かない場所に落ちて
消えてゆく。


