V | ラテックスは妄想中

ラテックスは妄想中

暴走ギミな妄想をチラカスBananaです。
甘味世界を目指し オリジナル小説書いてます。
腐 要素 多くなってきちゃいました。苦手な方ご注意ください。


『 永遠の命が欲しいの? 貴方 』


延命治療

無機質な機械と繋がれた有機体


その脳に届いたのか

私の声に


薄っすらと開かれる白濁したレンズ


『 それは YES? 』


ゆっくりと まばたきで返す


…永遠に 幸せな人…



枯れ枝の様に くすんだ肌は

出会った頃の 面影を留めず


歳月の残酷さを姿に宿す



熟れたものが腐りゆく様



『 欲しいなら あげる …でも 』




永遠の命


与える事で 終わるものなら


世界中の生きとし生けるものに


全て 与えたい



…その 意味が分かる?



光を網膜に届けているのか

定かではないレンズが


声の主を探し彷徨う




「 …ル…… 」



それは 私の名ではないよ


幸せな人










集中治療室で待機する患者

今夜は3人


昨夜 事故で運ばれた少年


オペ後の昏睡から目覚めなくて

麻酔科の先生が 呼ばれた


…嫌な時間



モニターチェック

引継ぎ用のカルテに

注意事項 記入


…担当医 


この先生は やばい


ミスが多いから 指示処置に

確認が必要


その暗号を隅に入れる



今夜はクロス…



『 十字架なんて 縁起が悪い 』


突然の声に跳ね上がる体


「 え?なんですか貴方 どこから… 」



この階は 一般の面会禁止

オペ後すぐに 身内だけ呼ばれるが


その時間もとっくに…


男?…なのか? 


白過ぎる肌に

黒い服


西洋風でユニセックスな顔立ち


たとえ 見紛う美女だとしても

この深夜 突然 背後に出現すれば


…恐怖でしかない 存在

まじまじと 観察してしまう



『 …そうだよね 

 美女でも そそらないよね 』


クスクスと笑って 首を傾げる

妖艶な所作



…なんだ どういうことだ


不法侵入? こんな場所に?

棺桶に片足突っ込んだ人間と


夜勤続きで 死人の様な人間しかいない

金目のものは 機械くらいで…


あんなの 普通必要ないしなぁ


…薬 目当てか?

わざわざ こんな 病院の奥まで?



『 ブゥー 』


人形の様な男が 突然唸った



何だ?!


『 …よく 頭回ってる うるさいくらい 』


男はゆっくり人差し指を唇に当てると


『 少し 黙って… 』




その一言で


…動かない 体 え?えっ?えぇっ?


『 …黙って …あぁ 違った 』



男が俺の額に触れた


…思考を止めて…


頭の中に響いた 声



揺り籠に 柔らかい布でくるまれ

寝かされたような 感覚


…凄く…












凄く


気持ちいい…



「 あぁ そう 良かったわね 」


聞き覚えのある声に

目を開ける


仮眠室 点滴の管が見え




「 貧血? 真っ白よ顔

 

 …ちゃんと食べてるの? 」





先輩看護師

手際よく処置してくれた?


こういう時 勤め先が病院だと

死ぬことは無いなぁ…なんて


へらへらと笑ってしまう




「 記憶はある?


 来たらここで寝てたのよ あなた 

 …全く 誰の処置? 

 

 手首から点滴なんて

 随分太めの針 使ったのね 」



え…誰の処置って?


テープでぐるぐる巻きの手首

オペ前の 麻酔入れる位置


起き上がろうとした 視界が揺れる




「 大丈夫? 

 このまま 寝てなさい 

 引継ぎやっとくから


 …点滴終ったら 帰っていいわよ 」




出て行こうとする

先輩看護師の背を

見送り 上体を起こすと


くらくらとする揺れは

やはり 治まらず


ベットに倒れ込む


痺れたような感覚

…麻酔が効いてるかの様



点滴パッドを見上げ


麻酔では無い事を確かめる



…何でこんな事に?


そんなにここ最近ハードだったっけ?


仕事内容思い出すも

何ら変わらない 日常


少々の寝不足位か 

気になるとすれば…





聞こえてくる モニターの音や

同僚の声に 耳を向けながら



外で起こっているであろう

喧噪な朝の様子を 思い描く




『 あなた…毎日 楽しい? 』


仮眠室奥の暗闇から

突然の声


ハッとして 目を向ける




人形の様な…


その姿を見た途端


頭の中の記憶が

キューブを回す様に 

目まぐるしく溢れ出す




…この男…



『 もう 私の事 怖くないでしょ? 』



記憶の刷り込み


手首の針は カムフラージュ


彼の唇が 触れた時に



送り込まれた 

彼の記憶


彼の歴史



その情報の代わりに

抜き取られたのは


血?



それとも



『 あなたの 思い描く

 頭の中のビジョンは

 鮮明で 綺麗だ 


 だから 私の…… 』





人形のように美しい男は


エマ と名乗った


名前までユニセックスだ




エマの送り込んだ記憶が

全て 本当だとして


その物語を


すんなり受け入れられた

俺を 選ぶあたり


エマの 人を見る目

人選力の高さが


どれ程の歳月

人を観察して来たかを


物語っているようで






綺麗な顔の エマが微笑む


太陽の下

人の姿では居られないと


俺の膝の上で

エマは 黒猫になる



…俺のマンションは

ペット禁止だったはず





有り得ない物語の幕開け


エマとの暮らしは

こんな風に 始まった





―――――――――



 》Next