卑劣の高みから

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04Jul
- noteに引っ越ししました。
  タイトル通りです。noteに引っ越ししました。以前から気になっていたブログサイト？でしたので、興味本位でしばらくそちらで書いていましたら、こちらよりも読者の反応が良かったものですから、引っ越しすることにしました。僕の記事などは大して人の興味をそそらないことくらいは自覚していましたし、ほとんど閲覧数が伸びないのは気にしていませんでした。が、アメーバは芸能人や宣伝サイトの類が多い印象で、どうも僕の書くものとは相性が合っていないのではないかと常々思っていました。白状すれば、アメブロの記事のそのほとんどが僕にとってはまったく興味が惹かれないものばかりで、探せばきっと良質な記事があったはずですが、それを見つけるのさえ難しいのが一番の不満でした。しかし、noteをしばらく使っていると、実に良い記事がたくさんあって、それによく触れられるのにとても好感を持ちましたし、僕の記事もこちらよりも短期間であっという間に閲覧数を越えてしまったので引っ越ししようと決意するに至りました。読まれないとわかっていてもやっぱり自分の記事には愛着がありますし、こちらよりも読まれるとなればこちらに留まる理由がなくなってしまいました。それで、そのままフェードアウトしようと思っていたのですが、まさかとはおもうけれど、しかしひょっとしたら僕の読者がいらっしゃるかもしれないので、一応報告だけしておこうとおもいました。ほとんど読まれていないような記事は、少しずつそちらへ、多少筆を加えて移動します。わりと読まれている記事はそのまま残していくつもりです。雨野次薬｜noteかなりの閑人。お金より時間が大切だと考え、あまり働かないダメなおじさんです。余暇はアニメを観てるか漫画を読むかなどして暇をつぶしておりますが、叱らないでください。note.com上が僕のページです。報告が後になってすみません。よかったらそちらでまたお会いしましょう！それではごきげんよう。
24Jun
- 親方にキレてしまった話
  つい先日、僕は親方に対してこれまで溜まりに溜まっていた怒りをぶつけてしまった。どうしてそうなってしまったのか。思い返してみると、はて、なにが引き金になったか今ひとつ思い出せない。最初に無理な日程を聞いてムッとなり、それは無理があると抗議したことは覚えている。たぶんそこから怒りが一気に加速していったのだろう。気づいたら怒鳴り声をあげていた。狼狽えている親方を思い出すと、気の毒で今もまだ胸が痛む。とはいえ、そうなった一因は彼にもあるのだから、少しは反省してもらいたいという気持ちもあるせいか清々した気分と半々だろうか。それにしてもこれほど怒りを他人にぶつけたことは久しくなかったものだから、自分でも戸惑っている。自分の言い分を言わずに我慢を重ねて４、５年ほど経っただろうか、蓄積された怒りや不満が出口を見つけた途端に一気に噴出したような感じがする。僕は自分の性格がもともと激しやすいということを自覚しているので、なるべく感情、特に怒りに対しては警戒しているつもりだ。よく小出しにすればいいと助言をいただくけれど、そんな器用には感情を制御できない。いわば暴れ牛を腹の中で飼っているようなもので、大人しく寝ているか、そうでなければ鎖に繋いで拘束するかのどちらかしかできそうにない。僕がもし怒りを小出しにしていたなら、腹を立てる度に爆発しなければいけないかもしれない。そうなれば誰とも一緒に仕事はできないだろう。嫁さんが言うには僕はお地蔵さまのようだと言うけれど、それもさいきんの話で、以前はとても褒めらるようなものではなかった。それにしてもつくづくおもうのは、一体どこに完全なる自分のものがあるのかということだ。感情一つ自分の好きにならないのはどういうことだろう。思いのままに動かしているつもりの身体にしてもそうだ。トレーニングをしていればわかるとおもうけれど、意外に身体をイメージ通りに動かすことが難しいことに気づく。なに一つ思い通りにならない。自分の身体も意識も、なにもかもがそうだ。なにをどう感じるのかさえも自由にならないのが納得がいかないのだ。常に下流に押し流されているような感覚があって、それに逆らって上へ登りたいけれど、今回の件でまた流されてしまった気がする。いや、最初からちっとも上に進んでいなかったのかもしれない。とりあえず自分の未熟の痛感と再確認ができたのでよしとしたい。僕はややもすればすぐ増長する悪い癖がある。平穏に過ごしているとわからなくなるから、これでよかった。ところで、ふとおもったのだけれど、「三六五歩のマーチ」で三歩進んで二歩下がるという歌詞だけれど、これだと単純に三割以上も向上したことになるわけだ。けれど、一日一歩進むとして、二歩はどのように戻るのだろう？一日一歩で三日で三歩なら、二歩戻るのに二日かかって計五日かかるのだろうか？それとも三日間進みつつ二歩後退するのか。前者なら一日あたりの成長率は７％程度になるし、後者なら１１％にも及ぶ。どちらにしても経済に比すれば凄まじい成長率になるけれど、初期段階の成長ならいざ知らず、平均的に人間はそれほど成長できないだろう。他愛ないことを考えてしまった。それはいつものことか。それにしても僕の成長率はどれほどだろうか。控えめに見積もって年率２％成長としても、加齢による衰退率を加えるとマイナス成長になりそうで怖い。とりあえず明日も頑張るか。
18Jun
- 負けた者勝ち
  嫁さんがアニメの『ハイキュー』にハマっている。正確に言えば、どハマリしている。もともとバレーボール観戦が好きなのもあるだろうけれど、現在二周目だというからよほど面白いのだろう。かく言う僕はまったく観ていない。いや、２、３話ほど観たけれど、しばらく次の話を観るまでに間があってそれきりになっている。要するにそれほど興味を持てなかったわけだけれど、スポーツ漫画ははじめからあまり興味が薄いようだ。『SLAM DUNK』が人気を博していたころ、世間の興味と反比例するかのように僕は読まなくなった。なぜなら、とにかく一試合が長いのが耐えられなかったのだ。僕はバスケットボールにまったく興味がなく、しかし作者の井上雄彦さんはバスケットボールが好きなのだろう、一試合にバスケットボールの魅力をこれでもかと詰め込んでくる。興味がない僕にとってそれがほんとうに詰まらなくて、とうとう読まなくなったのだ。『ハイキュー』にもそういう作者のバレーへの思い入れがあるそうで、嫁さんは喜んで観ている。が、僕はますます興味を失ってしまった。そもそもスポーツ自体に関心がないのだから、しかたがない。まったくどうして共通のアニメという趣味を持ちながら、こうも観るアニメが違うのか。これじゃ共通の趣味を持っているとはとても言えない。そういえば高校野球も嫁さんは好きだけれど、僕はやはり興味がない。地元の高校から松井秀喜が出た当時、彼が甲子園で活躍していてもさっぱり応援する気になれなかった。甲子園に出場するまで頑張ってきた球児たちやその周囲の人びとのことまで想像が及んで、開催式からもう目が潤んでいる嫁さんとは好対照だ。もし僕が甲子園を観て感動するとすれば、それは決勝戦で守備側がランナーを抱えながらもあとワンストライクで優勝が決定するような場面だ。ピッチャーの背後を守る球児たちはもう勝利を目前にして堪えきれず懸命に涙を拭っている。ピッチャーが最後になるはずの球を投げたその直後、快音が響く。打球を追って振り返るピッチャーとそれを捕ろうと必死に走る外野の野手。しかし球はスタンドに消え逆転サヨナラホームラン。がっくりと項垂れるピッチャー、呆然とするチームメイトと応援スタンド。それを脇目にガッツポーズで走り去るバッター。ホームで歓声を上げながらヒーローを迎えるチームメイトたち。一瞬で入れ替わった明暗。ほんの先ほどまで勝利は自分たちの手の中にあった。それがこぼれ落ちてしまった。こんなことがあっていいのだろうか。なんという不条理！哀れな球児たちよ、その敗北を噛みしめるといい。これほど苦い敗北はそうあるものではない。悔しいに決まっているし、苦しいに違いない。けれど、君たちは必死に戦った。そして君たちは敵の勝利に捧げられた尊い犠牲なのだ。ああこの瞬間、彼らの涙ほど美しいものはない。間違いなく勝利よりずっと善いものを手に入れた。懸命に戦って、その正当な成果としての勝利に意味はない。ないこともないけれど、やっぱりない。あえて僕はそう言い切る。努力の成果を受け取ったとして、それはあたり前のことだからだ。必死に努力して、しかし及ばないところに言葉では尽くせない味わいがある。そこで腐ってしまっては意味がないけれど、もしそれが人をさらなる高みへ押し上げる契機になるのなら、勝利以上の意味を持つ。そしてそれを観る人の感動を呼ぶのだ。だから人生、勝つことより負けることのほうが善いのだ。
16Jun
- 女性に目が行く僕の下劣と変態性
  以前僕が街で見かける女性に、つい視線と意識を奪われるという話をした。あんまりジロジロ見るのも失礼だから、すぐ視線を外すように心がけているけれど、意識まではなかなか剥がせないのには我ながら困ったものだとおもっている。僕の仕事の親方は御年８１歳で、僕にとって人生の大先輩でありながら、しかしこの人もまた男の本能には逆らえないようだ。隣りでそれとなく見ていると、若い女性が通りすがる度に視界から外れるまで目で追っているようだ。じろじろ見られている女性にしてみればきっといい気分にはならないはずだから、僕はそんなことはよしたほうがいいとおもうけれど、我が身を省みて見たい気持ちを無理やり抑えつけて視線は外すが意識が残っているのと、本能の命じるままに見続けているのとどちらの罪が深いか。未練たらしく意識を残している僕のほうが恥ずかしい存在なのではないか。女性をじっくり観察したいという欲求が僕も親方も同じくらい強いものだとすれば、素直に、明け透けにその欲求に従ったほうがまだ罪が浅いか。女性に失礼だからと紳士ぶるだけでなく、さらに悪いことに、そうすることで親方のように自分の欲望を抑えられない連中を、僕より一段低い人間だと心のどこかで見下している。そうはなるまいと女性を覗き見する低劣な連中と距離を置いたつもりでいながら、一歩下がったところから自分も横目で女性を覗き見しているようなものだ。これは二重で罪を犯している。視線を女性に合わせていないというだけで、やはり女性を見たいという欲望に囚われて意識の焦点を女性に当てていること。そして、自分も同じ欲望を持っていながら、一歩下がっただけでなにか道徳的に高い位置に立ったかのように錯覚して彼らを見下していること。要するに、女性から目を離したくない自分を棚に上げて、女性から目が離せない男性に有罪判決を勝手に下しているのだ。裁かれるべきはどちらかなんて、考えるまでもない。まじまじと観察しているほうがいっそ清々しいか。ばかな、そんなことをすれば女性に嫌がられてしまう。なるほど、女性には嫌われなくない。けれど、じろじろと観察するような人間には堕ちたくない。なんて臆病なやつだ。そのうえ同類を蔑むなんて卑劣にもほどがある。じつにくだらない人間だ。女性を想像のなかででも犯せば実際に犯したのと同罪だと知らないのか？それで恥ずかしくないのか？恥ずかしいし、情けない。どうすればいいだろうか。女性を見ても心を動かされないようになりたい。気持ち悪い中年男だとおもわれたくない。そんな連中と同じだとおもわれなくない。そら、本音が出たぞ。要するにお前は人から、それも女から嫌われたくないだけなんだ。好かれたいだけだ。お前の頭を割って公衆に見せてやりたいものだ。きっと中から脳みその代わりに鼻が曲がるような臭い汚物が飛び散ることだろう。ああ僕を裁いてくれ。この世で考えられうる最悪の罰を僕に与えてくれ。僕は汚物だ。汚い蛆虫だ。生きる価値もない。おやおや、自己陶酔まで始めたぞ。どうしてそんなに汚くなれるのだ？お前には死すらもったいない。せいぜい自分で垂れ流す汚物を最期まで自身で片付け続けるがいい。それが唯一お前に許された償いだ。ごめんなさい。ごめんなさい。どうか許してください。見ろ、また汚物を垂れ流したぞ。今度は卑屈だ。もうなにも語るな。息をひそめていろ。誰もお前に用はない。それでも僕は、まだ自分が好きで、人から愛されたい。ならば孤独に生きて、赦しを待て。妄想好きな僕の脳内劇場、筆が滑って書いてしまった。消そうかともおもったけれど、そこは零細ブログの自由なところ。このまま投稿してしまえ。
14Jun
- 自由な動物園経済　winner takes it all
  経済学ほど当てにならない学問も珍しいとおもう。経済学者が１０人いれば、経済政策は１１も出てくると言われるほど学者によって世界観が異なる。他の学問と比べても、ここまで学者の意見が食い違う学問は珍しいだろう。２０世紀イギリスのある経済学者が、経済を学ぶのは経済学者に騙されないためだと言ったとかなんとか。自分の専門分野を否定するかのような言葉を残しているけれど、それほど経済学というものは混沌としているということだろう。大概の学問なら証明が難しいことでも有力な仮説なりがあって、それを叩き台に議論や検証を進めていくのだろうけれど、経済学で同じ科学的な検証を試みようとしても実体経済に与える影響があって、あまり大っぴらにできない制約があるうえに、政治との兼ね合いもあるから一層自由にならない。それにもかかわらず、近ごろの経済を見ているとずいぶん勝手にやっているという感が強くてしかたがない。今やむしろ経済に政治が後追いするかのような印象さえ受けてしまう。経済優先の政治は多くの規制という名の鎖を解いて経済活動に自由を与えたわけだけれど、僕から見れば動物園から檻を取っ払ったようにも見える。それまで檻の中は不自由だけれど安全で、しかし安心から生まれる自由もあった。今は自由だけれど危険で、不安なために呑気に暮らせない動物園になった。飼育員の数も飼料も減らして、あとは自助努力でよろしく頼むという話だ。巨大な肉食獣がのさばる園内で牙も爪も持たない動物は、弱肉強食の原理に従って肉食獣の胃袋に収まる日が来るのを震えながら待つだけだ。いや、生き残りをかけて戦わないのは自業自得だ。死にたくなければ頭を使って工夫せよと肉食獣が言うのならまだ話はわかるけれど、草食獣までそれを口にする。肉食獣の胃袋の中に入ってもまだ、しくじった、工夫が足らなかった、自分自身の責任だと言えるのなら天晴れな精神だけれど、多くの草食獣は御免被りたいとおもうはずだ。なので生活の改善を求めて園長に訴えるけれど、園長がすることは改革という名の規制のさらなる緩和だ。すると次は園外から巨大な肉食獣をわざわざ呼び寄せて、園内の肉食獣まで食われてしまうことだろう。それを見て園長はこれで園経営はスリム化されたと喜ぶけれど、あらかた食い尽くされた動物園には何匹かの巨大な獣だけが残る。まるまると太った巨大な獣はもう園長の言うことも聞かなくなって檻にも入らず、入れようとしても収まらない。そのうち園長自身も食われてしまうだろう。そうなってからこういうのだろうか？いや、言わねばならない。これも自己責任だ、と。
12Jun
- 義理の妹に避けられている
  僕の弟が１５以上も年下の娘さんと結婚したのが一昨年のことだ。それ以来何度か顔を合わせているけれど、どうやら僕のことが苦手のようだ。ひょっとしたら嫌われているのかもしれない。なぜなのか原因を考えてはみたけれど、思い当たる節があるような、ないような。嫁さんによると僕は、声が低く抑揚が少ないうえに表情もあまり変わらないから人に誤解されやすいかもしれないと言う。いや、自分では声が高く抑揚もあって表情も豊かだと思い込んでいたものだから信じていなかった。けれど、さいきんは便利な世の中で動画が簡単にスマホで撮れてしまう。それを観ると、なるほど認めよう、たしかに嫁さんが正しい。僕の吐く言葉がなんだか文章を棒読みでもしているかのように聞こえる。これが嫌われた原因か。いやいや、いくらなんでもそれくらいで避けられたりするものだろうか。彼女は断じてそんな小さなことで人を避けるような女性ではないはずだ。なぜなら彼女は若くして現実的だが高い目標を持ち、そして自立した立派な社会人だということを知っている。そんな人が義兄の声が少しだけ低いくらいで、あとちょっと表情に乏しいからといって嫌うはずがないのだ。ならば他に考えられる理由はなんだろうか。どこかでうっかり失礼なことを言ったのだろうか。それは十分ありそうだ。僕は自覚があるのだけれど、非常に迂闊なところがある。うっかりやらかすことがたまにある。いや、よくあるかもしれない。ありがたいことに、嫁さんも太鼓判を押してくれている。ああ、どこでなにをやらかしたのだろう。教えてほしい、謝るから。そして仲良くしておくれ。
11Jun
- 競争社会を生き抜く、唯一の方法
  タイトルを流行りに従ってセンセーショナルに書いてみたけれど、これから書くことはあまりに当たり前のことなので参考にならないかもしれない。とはいえ、じっくり人の話を聞いてみるのも、これから厳しさを増してくる社会で生き抜くヒントになるかもしれない。唯一の方法とは、単純に今の社会をよく見つめ直すことだ。そしてどういう時代に生きているのかという自覚の問題だ。明治時代から現代まで続くこの立身出世主義のなかに僕たちは生きていて、競争してサバイバルすることを礼賛してきた歴史があることは、まず知っておくべきだ。なんのために競争するのかと言えば、明治時代であれば西洋に追いつき追い越すためで、それが日本の独立を守るという明白々たる大義名分があった。けれど、今はもうそれがないわけで、ではなんのために競争するのかと問われれば、大抵の場合が自己実現で片がつくだろう。もっと平たく言えば、自分のためにやっているだけだ。今だけ、金だけ、自分だけという三だけ主義というやつだ。要するにエゴだ。じつにわかり易い。それだけに説得力もある。けれど、それで幸福になれるのか？なれる人は大いにけっこう、そのまま生きてください。だけど、僕の考えは違う。人はエゴだけでは幸せになれないと信じている。人は人のために頑張ったときに、いちばんやり甲斐や生き甲斐を感じる生き物だ。これは人間の本能で、これが軸になって人類は発展してきたとおもう。ならば、なぜ競争するのかと言えば、社会をよりよくするために違いない。競争することでよりよい物やサービスを生み出し、社会を発展させ、そして人びとが幸福になる。このための競争社会であって競争自体が目的じゃない。あくまでも手段に過ぎない。個人の間の競争にしても同じことだ。自分と他人が切磋琢磨することで、人としての成長を促す。そのための手段だ。これを忘れて競争に勝つことを目的としていては、どんな卑怯な手段も許されてしまうだろう。それが社会にとっても個人にとっても不幸にしかならない。生かじりの科学知識を引用して、適者生存の原理を社会にまで応用して考えている人も多いけれど、自然界は純然な競争世界ではない。まるで互いに争い合って生き残ることで全体の調和が生まれていると捉えているようだけれど、自然界には共存の原理も働いている。明らかに個体にとって不利益なのに、血縁者や共同体のためにリスクを犯す行動やその傾向は多くの動物に見られるわけで、人もその例に漏れない。なので優勝劣敗を必然とする競争原理主義は秩序の破壊、つまり人間の発展を阻害する誤った考えだと言える。百獣の王であるライオンだって、腹がふくれれば寝ているだけだ。俺は強者だ、もっと食ってやろうなんておもわない。そんな我利我利なライオンがいたら、食物連鎖が崩れてしまって、いずれ自分か自分の子孫の食う分まで狩り尽くしてしまうだろう。競争も協力もどちらも生存に欠かせないけれど、目的は調和と秩序だ。調和と秩序のない争いばかり社会は疲弊してしまう。そうなれば発展するどころか衰退してしまうに違いない。もうすでに日本人はそうとう疲れている。熾烈な競争社会に擦り切れてしまうまで付き合う義理はないのだから、誰になんと言われようと自分はどう生きたいのかを自覚することが大切だ。
04Jun
- 倹約と嫁さん
  私は熟読して、それから立って台所へ行き、何かむだは無いかと、むづかしき顔をして四方を見廻せども、足らぬものはあっても、むだのやうなものは一つも発見できなかった。上は太宰の「金銭の話」の一節だ。太宰の家には足らないものばかりで、無駄なものが見当たらないほど貧しいかったそうだ。本当かどうかは作家の書くことだから当てにはできないけれど、それを少しでも改善しようと井原西鶴の「日本永代蔵」や「世間胸算用」を熟読したそうだ。さっそく僕も真似をしてみれば、無駄なものが多いような気がする。足らぬ足らぬは工夫が足らぬというけれど、逆もまたしかり。僕には工夫が足りてないようだ。かといって捨てる気にもなれないのはどうしたことか。たとえば、このアニメのフィギュアだ。友人からいただいたものなので、捨てるわけにもいかない。他はないかと探してみても、これは要る、あれも要るとなんにも捨てられない。ということは、必要なものしかないということだろうか。やっぱり工夫が足らないのか。というより、そもそも、こんなことをしていること自体が無駄じゃないのか。どうやら太宰も僕と同じところに気づいたようだ。「自分の収入を忘れてゐるやうな人でなくちやお金が残らぬ。」要するに、お金に頓着してはいてはいけないのだ。お金の多寡で生活を変えているようじゃ、お金に使われているということになる。宵越しの銭は持たないくらいの気持ちでいれば、あとは勝手にお金の方から黙っていてもこちらへ来てくれるはずだ。なんて構えていようものなら、貧乏するより先に嫁さんが怒り出してしまいそうで怖い。そうだ、思い出した。僕にとって貧乏よりも嫁さんのほうが怖かったから真面目に働いていたんだった。伊達に嫁さんとは言わない。漢字それ自体が女偏に家なのだ。家の中で嫁に太刀打ちしようなんて土台無理な話だ。この漢字が差別の象徴だと言う人もいるけれど、きっと結婚したことのない人の意見だろう。そういえば、嫁さんはまた店を改装するそうだ。とうぜん費用は二人の財布から出る。僕はますます倹約に努めようと決意を新たにした。しかし、もっと働こうとはおもわない僕のこの性格よ。
28May
- 簡単な読書の習慣化
  先にポイントだけまとめておく。本は常に開いた状態にしておく　（置くと閉じてしまう本はブックストッパーを使う）目につくところに置いておく　（ブックスタンドがあればなお良し）目についたら文字を追うに留める気分が乗れば読むとりあえず解説しよう。読書というと、すぐに肩に力が入って身構えてしまう。さあ読むぞと決意する時点で、もう無理だ。それじゃ長続きしないことは目に見えている。集中力が求められる勉強じゃない限り、もっと気軽に読まなければいけない。まずなにが最大の難関かといえば、本を開くことの億劫さだ。気合がいる。それも、ものすごくに。他に楽しいことをすべて断念してまで、どうして本など開かなければいけないのか。だから、本は閉じてはいけない。読んだところまで、いつも開きっぱなしにしておくのがいい。読み始めなら、最初のページを開いておく。そして、いつも目につくところにポンと置いておくとなお良い。そうすれば、ふと目についたときなんとなく文字を追うだろう。そしてこれが一番のポイントで、読むのではなくて、この文字を追うというのが読み出すきっかけになってくれるのだ。読もうとするから、読まない原因になる。だから、最初から読もうとすることは諦めて、目についたときに文字を追う程度に留めておけばいい。気分が乗ればそのまま読み進めてよし。乗らなければそのページのまま開いておくといい。僕の机にはいつも本がブックスタンドに開いた状態で立ててあって、いつでも読める状態にある。今読んでいるのは河上徹太郎の全集なのだけれど、１頁に原稿用紙なら４枚ほどの細かい文字がびっしり並んでおり、全項で６００くらいあって、手に取るとずっしりとした手応えがあるほど厚みのある本だ。そんなものをわざわざ手にとって読もうなど、興味のない人なら絶対にしないはずだ。しかし、僕の嫁さんはこれを読むのだ。断っておくけれど、彼女は読書家ではない。本などほとんど手にしないし、いつも見ているのはインスタの記事ばかりだ。そんな人でも細かい文字を追う。なぜなら、本が立てて開いてあって、自然と目に入るからだ。本を読み始めるには、なにをおいてもきっかけが重要だから、この方法はそれを工夫もなく作ってくれる。どうにも読書が身につかないと悩んでいるのなら試してみてはどうだろうか。
24May
- 友達とのズレを感じるとき
  僕の数少ない知人のうち、はっきりと友人と言える人はさらに少ない。四十路にも入ると、新たに友人を得ることはなかなか難しいことのようにおもう。どうしても礼儀が先立って、同年代と出会っても酒抜きでは打ち解けることができないので、普段から肩が凝ってしかたがない。さて、そんな友達の少ない僕にとって貴重とも言えるほど親しい友人とも、１０年ほど前からズレを感じている。どのように感じるかと言えば、興味や関心もそうだけれど、生活のスタイルというより生き方について捉え方や考え方がはっきり違ってきたのだ。それにもかかわらずなぜ付き合うのかと言えば、お互いに義理堅いところがあって友人関係を解消したくないからだ。こう言うと、どうして価値観の合わない人と付き合い続ける必要があるのかと問われそうだけれど、僕にとって長年の付き合いは捨てがたいものだ。価値観が違ったのなら友達を続ける必要はないという意見が多いようだけれど、そんなに簡単にサヨウナラができるものだろうか。生きていれば付き合う友達は変わっていくという人もいるようだけれど、出会いに恵まれた環境にいたとしても昔からの友人ほどに気の置けない関係になれるものか疑問だ。そういった関係になれるのは、若い時期までの限られた間だけではないかと感じている。それは子供同士が楽しければその日に出会った誰とでも遊べる年代のように、限られた期間に仲良くなった友人としかいつまでも友達でいられないようにおもう。男性は特に年を取るほど人間は隙がなくなって、どうにも近づきがたくなる傾向がある。見栄もあるのだろうけれど、社会人として侮られまいと全身を鎧っているせいもある。女性にはない男性の社会性と言うと叱られそうだけれど、そういうところは僕のような社会の不適合者でもひしひしと感じることがある。女性の友人はそれが男の小さくてくだらないプライドだと吐き捨てるように僕によく旦那の愚痴をこぼす。ちょっと言い過ぎじゃないかと笑って流すけれど、男にとってプライドは捨てられないものだし、それのお陰でどうにか自分を支えているところもあるので、あまり責められると泣き所を蹴られる辛さがあるからお手柔らかにお願いしたい。旦那の愚痴をこぼしに電話をしてくるその友人も、考え方も意見もかなり距離を感じるけれど、だからといって関係を切るようなことはしたくない。価値観などが違うという理由だけで２０年以上の付き合いをやめたくはない。多少ズレたって、このまま生涯に渡って付き合いを続けていきたいとおもう。なので、まァ少しくらい意見が合わなくても、性格も多少相性が悪くても、気が置けないというだけでも付き合い続けるだけの価値はあるのではないか。なかには知的レベルが合わないという理由で付き合いをやめる人もいるようだけれど、その程度でやめてしまっていたら誰とも付き合えないのではないか。ひどいものになれば、損得勘定まで人付き合いに持ち込む輩もいるようだ。まァさすがにそこまでの人は少ないはずだろうけれど、とはいえ、性格、趣味、知的レベルなどで厳選していたら友達なんてできっこないし、いても極少数だろう。そもそも選べるご身分なのか。付き合いは選べというけれど、だからといって贅沢も言えないわけだし、それより選んでもらえるように務めるのが先じゃないか。付き合ってもらっているという気持ちは、いつもどこかに持っていたい。
23May
- 才能と努力について
  「才能なんかないよ。絵のこと考えてる時間が他の人より多いだけ」「それにね、あのね、褒めてくれるのはうれしいけど、やっぱり絵もやり方とか勉強することがあってね、手放しに才能って言われるとなにもやってないって言われてるみたいでちょっと…」上のセリフは『ブルーピリオド』という漫画に出てくる女子高生のものだけれど、なかなか考えさせられる。今回は僕が気になった才能についてさらっと書いてみたい。まず最初に、才能とはなんぞやということだ。いくつか辞書を開けば、素質もそうだけれど、訓練によって得られた能力も才能という言葉には含まれるようだ。僕たちがよく使う意味としては、先天性の高いものを指して言うわけだけれど、辞書に書いてあるとおりの意味では上のセリフも才能という言葉で片付けたとしても、あながち間違ってはいないわけだ。まァ、天才は別として、普通は才能と努力のどちらも必要なのは言うまでもないことで、磨いてみないことにはダイヤの原石か、路傍の石かさえわからない。才能の有無は努力によって確かめるものとして終わらせていいとおもうけれど、努力のするしないはどうなのだろう。誰だったか「天才とは努力する才能」だと言ったそうだけれど、なら「凡人とは努力しない才能」ということか。そんな才能はいらないけど。努力にも才能がいるということなら、つまり素質がなければ努力はできないということになる。なるほど、確かに努力するにもそれを続けるにも動機が必要だし、動機にしてもその原因が必要だ。素質が与えられるもののように、動機も得るものではないから同じだと言える。上の漫画に引き付ければ、絵が上手くなりたいという気持ちは絵を描きたいという動機がなければおもわないわけで、絵を描きたいとおもう動機はさまざまだ。絵が好きだから、一枚の絵に感銘を受けたから、人に褒められたから等々。なにかに対して興味を持とうとすることはできるけれど、実際に持てるか持てないかはその人の素質に依るところが大きいだろう。努力するにも条件が揃わないことにはできっこないので、するしないもできるできないも条件が揃わない証拠だと言える。ならば無理矢理にでも努力させるという条件を加えればなんとかなるかもしれないけれど、どっちにしたって続かないだろう。僕の努力も罪悪感や焦燥感、義務感などが働いていることを考えるなら、これは強制という条件がついた努力だ。放っておくと自分を責め出すという、なんとも消極的な才能だけれど。とはいえ、情熱は英語にするとPassionだけど、これには苦しむという意味もあるから、ある意味正しい情熱と言える、かもしれない。それにPassiveと語源が同じだそうだから、消極的、受動的という意味でも正しいかもしれない。いや、僕の場合PassiveというよりNegativeのほうが近そうだけれど。ともあれ、努力のするしないは他からの働きが原因ということだ。なんだか身も蓋もない話になってしまった。世の中はすべて偶然で成り立っているとは、なんとまあ味気ない。でも、それじゃああんまりだ。なぜといって、才能も努力も、その成果も、すべて偶然の賜物だと言われて納得できるならいいけれど、それじゃあ夢や目標に向かって流した汗と涙が偶然の、ある意味事故のようなものだと片付けられて黙っていられるものか。いや、これはあくまでそういう一面があるという話に過ぎないので、真に受けないでほしい。それに人の努力に意志が込めることができるということも忘れてはいけない。そして、そうあるように積極的に、これまで重ねてきた努力や成果に意味を持たせることはできる。それは価値のある有意義なもののはずで、物事になにか意味なり価値を与えられるのは人の意思しかない。ちなみにActiveは引き出すという意味を語源に持っているから、意味を物事から引き出す、価値を見出すという積極性を持つことは味わい深いことだろう。
21May
- 努力しすぎる馬鹿な人
  世の中には三種類の人間がいる。努力する者としない者、そして努力しすぎる者だ。努力する者は傍から見て、つい敬意を抱かずにはいられない。どんなことでも日課を自分に課している人は、それだけで自らを律する心を持っている、その証明だとおもう。逆に、努力しない者は怠惰に溺れ、現状の自分に満足してしまい、ただ馬齢を重ねるだけの存在に成り下がる。とまではさすがに言わない。いや、色いろ事情もあるだろうし、毎日の仕事だのなんだので疲れているのに、これ以上なにもできないという人も多いことくらい僕だって知っている。だから、そこまで厳しいことは言えないよ。そんな努力しない人びとでも、やはりなにかした方がいいだろうから、せめて身体の健康を保つための努力とまではいかなくても、先行投資とでも言えばいいか、将来の病気や不調を防ぐための運動などは勧めたい。身体も引き締まりますしね。さて、問題の努力しすぎる者だけれど、これは一種の心の病ではないかと勝手に想像する。かく言う僕もその一人だ。自慢して言うのでは断じてない。とか言いながら本音のところはどうなのだ？と訊かれれば、まァ、そこまで言われるとそんな気もする。僕は普段から健康のためと称しながら、筋トレを１０年以上続けている。お陰で身体が軽い。はずなのだけれど、実は重い。いや、重いどころではなくて痛いのだ。僕の仕事は繁忙期にはかなりの重労働になってしまうため、その間は筋トレを減らすか休むようにしているのだけれど、それでもやはり日課の筋トレを休むことに多少の罪悪感や焦燥感が生じてしまう。なので、つい疲れた身体に鞭して、先日、とうとうやってしまった。脚の方からプチッと音が聞こえたかとおもうと、その瞬間、激痛が走りその場で崩れ落ちてしまった。ああ、やってしまった。なんて馬鹿なんだ。疲労が溜まっていたことくらいわかっていたはずなのに、どうして……。一事が万事こんな感じで、日常生活においても休日には教養を深めるための読書に励む。遊ばないのかと言われれば、遊ばない、ようにしている。気分転換が必要なことくらいは承知しているが、僕のような未熟者がそんな事を言えるほど苦労も努力もしているのだろうか？努力はしている。しかし、果たして十分なのかわからない。歴史に名を残す偉人たちは日々研鑽の連続だったはずだ。自分がその列に加えてもらえるとは、露ほどにもおもわない。まるで才能が足らないのだ。だからこそ不足の分を埋めねばならぬ。せめて彼らの足元ほどには近づきたい。そうでなければ、世間にも顔向けできないほどの社会のお荷物になってしまう。走れはしれ。一時も足を止めるな。寝る間を惜しんで自分を磨け。なにを悠長に構えている。お前の人生すべてをかけても、まるで足らないのだ。という心の声がいつも僕を急き立てて来るので、とても困っている。うるせえ、そんなことは百も承知だ。そんなに走って息が切れてちゃ意味がない。先は長いんだ。スタミナ配分もできないようじゃ、完走だって難しい。賢く生きなければ、それこそ馬鹿だと自分に反論している。どうしてもっと器用に生きられないものか。どうしてもっと自分を赦してやれないものか。どうにも自信がないのがいけない。嫁さんが褒めてくれるので、ほんとうに救われている。彼女がいなかったら、今頃どうなっていたことやら。きっと疲れ果てて自ら命を断っていたに違いない。このように努力しすぎる人は、つまり自分に自信がないのが原因なのではないかと、僕の経験からおもうのだ。走り続けることが目的ではなく、走り切ることが目的なはずだから、休むことは必要不可欠だ。もっとクレバーに生きなければいけない。ほんとうにそうだ。というわけで、しかたがない、明日は遊ぼう！（笑）
19May
- 僕の親方、８１歳
  僕の仕事先の親方は、今年で８１歳という高齢でありながら、いまだに現役を貫いて働いているほどの猛者だ。もちろん、体も元気で、さいきんちょっと腰を痛めたけれど、それでも重い荷物も軽々と持てるし、よく走る。懸垂も３回くらいできてしまうほどのつわ者なのだ。離婚した娘の子供３人の、親方にとって孫だけれど、社会に出るまで親方が養ったのだから、僕は感心せざるを得ないのだ。ところで、僕の給料がいつまでも上がらないのは、そのせいだったのではないか？一度問い質してみてもいいような気がする。そんな偉丈夫とも言える親方だけれど、苦手なこともある。最たるものはスマホだろう。いつも電話がかかって来てはオタオタしている。「この青いの押せばいいんやろ？」と言いながら、無心に指でゴツゴツと叩いている。親方、もっとゆっくり、優しく押したらいいよと僕は何度も、本当に何度も言っているのだけれど、今日もやっぱりゴツゴツ叩いていた。僕にできることは、もう見守ることくらいだ。そう言えばこんなこともあった。以前、二人で出張した先のスーパーで買い物していたときに親方が、「おい、支払いってどうするんや？」僕は耳を疑った。スーパーで買い物したことないかと聞くと、あんまりないと答えた。あんまりと言っても２・３度来ればわかるはずではとおもったけれど、そうですかと答えるにとどめてそれ以上は立ち入らなかった。僕は呆れるよりも驚きのほうが強すぎて、むしろ世代の差異にある種の感動すら覚えたほどだ。それからしばらくしてわかったことだけれど、家事全般に渡って親方はまったくの無知なのだ。家庭でしなければいけない仕事のほとんど、特に料理に関して親方は無能力者だということだった。昔ながらのダイヤル式のレンジの使い方を尋ねられたときには、本当に目が点になった。それなのになぜかインスタントラーメンは作れるようで、なぜそれができてレンジの使い方がわからないのか。おもわず首をかしげてしまう。それでもさいきんではレンジの使い方をマスターしたようで、それを使ってレトルトご飯とカレーを温めて、旨そうに頬張っている。「ワシはカレーが好きなんや」いや、見ればわかりますよ。
18May
- 捨て犬を拾って、また捨てた話
  最後に泣いたのはいつだろうか。泣くと言ってもいろいろあるのはそうだけれど、おいおいと声を上げて泣くことは、人生でそれほど多くないだろうとおもう。つい悲しくなったり、感動して涙が溢れることは時どきあるのだろうけれど、人目も憚らず泣くということは滅多にないはずだ。数年前に祖母が肺炎で亡くなって、そのときには泣かなかった。けれど、しばらく後の夢のなかで祖母と再会したとき、久しぶりに見た祖母はずいぶん元気そうで、いつも僕に会うときのニコニコした表情を見て僕はすぐ後ろを振り返って「父ちゃん、母ちゃん！婆ちゃんが会いに来たよ！」と叫んで、続けて「すごく元気そうだよ」と言ったとたん涙が溢れた。それ以前に泣いたのは、ずいぶん時間を遡った中学生のころだ。飼っていた犬が交通事故に遭って、動物病院で死んでしまった。死んでしまったというのは安楽死したという意味で、正確には僕が自分が拾ってきた犬を見捨てたのだ。医者の説明では、犬が助かるためには手術が必要で、それにはかなりの費用がかかる。だから安楽死という選択肢もあるということだった。それを聞いて父は僕にどうする？と振ってきた。僕は父が決めてくれる、助けてくれると思っていたので狼狽えた。そんな高い費用を僕が払えるわけもなく、それを自分の判断で決めるには少々荷が重かった。それに父は元来、犬など所詮は畜生だとおもっている節があり、元より払う気がないのはなんとなくわかっていた。その頃の僕は父を恐れていたというよりも、大人を恐れていた。大人に逆らうことは僕のなかではとにかく間違ったことだという考えにも満たない、潜在的な”畏れ”の感情が常にあった。ここで助けてくださいと頼んだとしても、それは父の意志に反する気がして逡巡したのだ。情の深い人であれば、なんとか助けてほしいと頼んだのかも知れないけれど、僕にはそこまでの情はなかった。とうとう僕は「もういい」と言って安楽死を選んだ、と言えばまだマシだ。この「もういい」は考えたくない、判断したくないという意味の「もういい」であって、もういいので楽にしてやってくれという意味ではなかった。要するに、卑怯にも投げ出したわけだ。自分の飼い犬の生死を分ける判断を放棄したという、飼い主として、そしてその命を預かるものとして最低限の責任を投げ出すという、唾棄すべき選択。いや、選択というのもおこがましいくらいの、完全な逃避である。そして注射される犬を眺めながら、最期を看取ることもせずに、さっさと家路についた。なにか取り返しのつかない間違いをした気がしたけれど、それも早々に考えるのをやめてしまった。清々しいほどのクズっぷりである。次の朝、母が死んだ犬のために花を用意してくれた。それを持って弟と一緒に再び病院に向かった。応接してくれた女性が既に冷たくなった犬が入った箱を開いて見せてくれた。変わり果てた飼い犬を見て、僕はただ呆然としていた。箱の中に花を手向けて、しばらくぼんやり眺めていると、横にいた女性が「もう動かないんだね」と、当然のことを言った。それなのにその瞬間、僕は嗚咽を漏らして泣き出してしまった。後から後から涙が溢れてきて、もうどうにもならないほど泣き続けた。泣きながら病院を出て、帰り道も歩きながら泣き通した。家に着く頃には親の手前、泣くわけにもいかないという理性も働いて、どうにか涙を止めることができたけれど、自分では理解できない感情の激流にただ戸惑うばかりだった。隣りで無言を通した弟はどんな目で僕を見ていたのだろうか。しばらくしてそんな事があったことも、すっかり日常のなかに埋没して忘れかけていたくらいに、ふと父が病院を去る際のことを思い出して、「あいつ最期にこっちを振り返って見ていたなァ」と言った。それを聞いて僕は胸が締め付けられて苦しくなった。そして、あの涙の原因が罪悪感だったのだとようやく気付いた。あれから３０年、いまだに思い出す度に胸が締め付けられる。中学校の運動場で弁当の残りを与えてやったら、家までついてきてしまって、そのまま飼った初めての犬だった。拾ったとき赤くて丸い首輪がついていたから、捨て犬だったのがわかった。それなのに二度も捨てられるなんて。
13May
- 女性に目が行く僕の心理
  街なかを車で走るにしても、歩くにしても、健康な男である僕はついつい視界に入る女性を意識してしまう。女性は街で見かける男性に、目が行くことはあるのだろうか？と嫁さんに尋ねてみたけれど、今ひとつ要領を得ない。そりゃいい男が前から歩いてくれば気にもなるだろうけれど、そうでもなければ関心がなさそうに見える。つまり僕がいい男なあまり、周りの塵芥など眼中に入らないのだな、という妄想は置くとして、とにかく僕という男は女性を無視できない。女性というだけで、もう、僕の気持ちに何かしら影響を与えずにはいない。性欲というのもあるのだろうけれど、それだけではなくて、なにか関わりを持ちたくなるのだ。どう関わりたいのかと具体的に言えば、優しくしたい。そして優しい人だと信頼してもらいたいという気持ちがある。男性に対してもそう思う気持ちはあるけれど、やはり女性に対してのそれに比べればいささか貧弱なのは否めない。それでもし信頼されてどうしたいのか。あわよくば、という下心がないとは言わないけれど、もし万々が一にもそうなりかけても、基本なにもしない。これまで通り、佳き友人としてお付き合いしてもらいたいというのが偽りない本音だ。そんなバカなと思われるかもしれないけれど、しかし、ここは信じてもらうしかない。そう言えば結婚する前に、今の嫁さんとは別の、仲の良かった女性と何度か食事に行ったことがあった。あるとき、いつものように会話を楽しんでいたはずだったのだけれど、その女性が突然、「へぇ、キミってそんなふうに誘うんだ……」完全に不意打ちだった。そしてその瞬間、僕は猛烈に興奮した。そして自分自身の強烈な雄の本能に驚愕した。下品な表現で恐縮だけれど、「抱ける！」と思った瞬間のあの興奮と、彼女の雌としてのあの色気は１０年以上経った今でも忘れがたいものがある。部屋まで誘われたけれど、ああ、けっきょく僕は断った。あのとき彼女に恥をかかせてしまっただろうか。ごめんよ、僕には彼女がいたのだ。思い出して胸が苦しくなってしまった。とにかくそういう事があって、いちおうギリギリ彼女持ちとしての体裁は保ったという実績はあるのだ。少しは信じてもらえただろうか。それにしても、女性は想像以上に魅惑的な存在で、そして僕という男の中に獰猛なオオカミが潜んでいたということを思い知らされた出来事だった。それまでは自分は理性的な人間だと思いこんでいたけれど、でも違うのだと反省できたという意味でいい経験になったけれど、そんなことは結婚生活で嫌というほど味わうことになろうとは、このときの僕は知る由もなかったのであった……合掌。
11May
- モテたいオヤジの身だしなみ
  四十も過ぎると、さすがに見た目も若い頃に比べて劣ってくる。鏡の前に立つと、冴えない親父がこちらを見つめている。髪は薄くなり、皺も目立ってきている。わかっていたことだけれど、いざそうなってみるとなかなか受け入れ難いものがある。若返りたいという人類共通の願望も、この歳になってようやく理解する。まァいいさ、今さらモテたいわけじゃない。と言いたいところだけれど、やっぱりモテるほうがいいに決まっているし、この歳でも若い娘にカッコイイなんて言われたら、それだけで天にも登る気持ちになるはずだ。そこまではいかなくても、せめて不快に思われないように身嗜みには以前より気を配るようにしている。差し当たっては髪の薄さが気になるので、フィンペシアとミノキシジルを去年の冬頃から服用してみた。半信半疑だったけれど、四ヶ月くらいからだろうか、以前より髪が増えた。嫁さんもそれに気づいたようで、増えたと喜んでくれている、と思う。ただ、体毛も増えたようで、これは予想していた代償だから甘んじて受け入れるほかない。無駄毛は処理できるが、頭の毛がなくなってしまっては打つ手が何もないことを思えば安い代償だ。しかし、生来くせっ毛なので、髪が増えた分だけ収まりが悪くなってしまったから、髪型を整えることには気をつけなければいけないようにもなった。鼻毛はもちろん処理しているし、眉毛も整え、髭も生やしているから不潔感が出ないようにしっかり揃えている。ここまでしていると母が、今さらモテたいのかと冷やかしてくるけれど、モテたくない男なんてまずいないだろうし、だいたいモテたい相手が他人だけとは限るまい。僕がまずモテなければいけないのは嫁さんで、愛想を尽かされないように自分なりに最善を尽くしているだけだ。僕の嫁さんは僕の妻にしては気遣いの人だから、好きな顔だと言ってくれるけれど、それに甘えていては僕は際限なく見た目がだらしなくなるに決まっている。結婚にとって油断こそ最大の敵だ！と、僕は日頃自分に言い聞かせて生きている。だから僕は嫁さんの言葉を信じないようにしているのだ。それに、女性はよく見る顔に対して愛着を抱くという記事をどこかで見たことがある。僕の嫁さんもきっとそれで、決して男前でもない僕の顔が好きだという原因もそこにあるのかもしれない。男性は逆によく見る女性の顔に対して飽きを感じるそうだ。手に負えない生き物だと言って過言ではあるまい。それで思い出したけれど、鏡に写った自分が写真に写った自分と比べて良く見えるけれど、この乖離は主に主観が働いているためで、単純に最良の自分が印象に残っているに過ぎない。冷酷な客観である写真は、すべてとは言わないけれど、真実を写し取っているわけで、一番醜い自分をこそ心に刻みつけるべきだろう。ともかく、身だしなみは歳をとっても、いや、歳をとった分だけ気をつけなければいけない。時折、自分より若い人から自分の歳を言うと、若いですねと言ってもらえる。が、これも素直に信じてはいけない。気の利いた人ならそれくらいのお世辞は言ってくれるに決まっているし、むしろそんな気を使わせてしまったことを恥じねばならぬ。言われたときは「ありがとう（そんなわけはあるまい）」と一笑に付すべし、だ。と、ここまで偉そうに宣ってしまったけれど、さいきん家に遊びに来てくれた二十歳の女の子に理想の旦那さんだと言われて、恥ずかしい話だけれど、頑張ってきた自分のすべてが報われたような思いがして、心中舞い上がってしまった。女の子にちょっと褒められただけで、ここまで喜んでしまう僕。情けない。でも、嬉しい。ああもう、嬉しいよ！ちくしょう！
08May
- 文化破壊、ヴァンダリズムについて
  この間の投稿にもヴァンダリズムに触れたのだけれど、ヴァンダリズムと一言に言ってもその意味はわりと広い。公園や建物に落書きをするのもそうだけれど、僕がいちばん嫌うのは文化や文明の破壊という意味でのヴァンダリズムだ。バンクシーのようにある種のアートとしてならば、まだ理解はできる。というのも、これも一種の表現であり、一つの芸術だと言えるからだ。だからといって、どこにでも描いていいのかと訊かれると、良くはないが、そうは言っても彼の作品はむしろ書かれた物に高い付加価値まで生んでしまうのだから、単純に破壊とは言えないわけで、それならまあ許してもいいかという気分にもなる。できれば僕の家の壁にも描いてほしいくらいだ。話を戻すと、中国政府の行っている言論弾圧はもちろんだけれど、内モンゴルとウイグル、チベット、そしてイスラム教民らに対するヴァンダリズムは、どうしても容認できないし、断固反対すべきものだ。彼らの悪辣さは筆舌に尽くしがたいもので、原住民の言論の自由だけでなく、移動の自由、結婚の自由も厳しく取り締まり、さらに諸民族の言語や文化を奪って、歴史まで捏造し伝統を破壊している。要するに、現在の中国全土を漢民族一色に染め上げてしまおうという野蛮極まりない行為に手を染めているのだ。これは中国政府が共産主義を信奉しているからというよりも、彼ら流の統治方法に拠るのだろうとおもう。これが完成した暁には、端的に言えば、中国国内から多様な生活様式や思想や価値観が失われるということだ。中国にとって正義とは中国共産党の存続であり、それを脅かすものはすべて悪という、たった一つの価値観に統一された世界の完成はつまり、多様性の全否定なのだ。この世界ではすべてが平易で単調で、人間が持つ本来の生きいきとした生命力の横溢もなく、殺伐としたディストピアで人々は鬱々として暮らさなければならない。要するに、ただのファジズム国家なのだけれど、これは最近のポリコレにも共通するものだ。平和、平等、自由、どれも聞こえはいいけれど、どれも一面的だ。平和なら平和一辺倒で、戦争を全否定するあまり、防衛まで捨て去ってしまう。平等なら平等で、個性や性差までないことにしてしまう。自由は自由で、常識を束縛だといって好き勝手に振る舞うことが自由だと勘違いしている。その一面的な見方以外はすべて悪だと言う。平和も平等も、自由にしてもそれ自体が善でもなければ悪でもない価値中立なものなのに、それを善だと見なす。そこを指摘すれば、けしからん、なんて不道徳なやつだと怒って袋叩きにする。あちこちで有罪判決を下して、まるで社会全体で裁判官にでもなった気になっている。中国政府にせよ、ポリコレにせよ、共通するのは独善だ。無反省な正義は偽善なのだ。偽の善なら、それは悪ではないのか。みんなが好きなグローバリズムも同じだ。一つの普遍的な基準による統一、自由な貿易という諸国、諸民族の商習慣を無視し、あるいは軽視して無理やり資本主義という西欧型の、いやアメリカ型の商法で統一しようという思想だ。中国共産党もポリコレもグローバリズムも、目指すところは多様性の否定であり、唯一的な価値観の統一なのだ。これを文化破壊のヴァンダリズムと言わずして、なんと言えばいいのだろう。失礼します。正直に言わせてください。独善が大嫌いです。控えめに言って、反吐が出ます。
05May
- 中国との付き合い
  中国が嫌いな人は多いと思うけれど、僕もご多分に漏れず嫌いだ。どうして嫌っているのかと言えば、とても野蛮な国だからだ。野蛮と言えば西欧人も相当に野蛮なことをしてきたし、その遺伝子は今も引き継がれているようにおもう。つまり、僕はその国の伝統や文化を破壊するようなヴァンダリズムが反吐が出るほど嫌いなのだ。中国がアメリカなどが言うように、ジェノサイドをやっているかどうかはわからない。実はやっているのかもしれないけれど、いや、中国ならやりかねないわけだけれど、そして多数の証言もあるのだけれど、だからといって証拠が上がらないうちから有罪だと決めつけるのには抵抗がある。だとしても、もし本当にやっていたのなら、それを傍観していた僕たちの罪はどれほどのものだろうか。推定無罪という言葉には強い説得力があるけれど、主権国家に対してどの国も警察権は持っていないわけだから、中国にまで押し入って中をつぶさに調査するなんてことはできない。ならばどこかで中国が有罪だと決断しなければならない。もしかしたらジェノサイドのジェの字も出てこないで、こちらが赤っ恥を晒してしまうことになるかもしれない。それでも彼らのやっている文化的破壊、つまり諸民族の言語や宗教の禁止などの苛烈な弾圧は、文化文明に対する許しがたい蛮行だ。なるほど、そうでもしなければ中国は纏まらないのかもしれない。そして、そうすることで中国一国の安寧を得られるのかもしれない。事情はわかるけれど、それはすべてそちらの手前勝手な都合に過ぎない。それにしても、どうしてこんなにも中国は文化的に堕ちてしまったのだろう。清の時代にしても明の時代、その前の元の時代でもまだ文化があった。仏教を敬い、儒教を進めた。それが今はどうだろう。彼らにはなにもない。あるとすれば科学技術だけだ。まったく徳を失った下劣な国に落ちぶれたものだ。これが僕は悲しいやら情けないやら、残念でならない。やっぱり初代国家主席の毛沢東が、父親の代からの成り上がりで、文化などには触れてこなかったのが原因なのだろうか。いずれにせよ、金満な悪党のような国との付き合いは、いくらカネになるからと言っても自重しなければいけない。札束で頬を張られたからといって、ニヤニヤ笑って揉み手で近づくような国にはなりたくないものだけれど……。
19Apr
- マスクを着けないけしからん奴
  僕はあまりマスクをまじめに着けないのだけれど、幸い、いまだにマスク警察とやらに出くわしたことがないお陰で、着けてないからといって怒られたことがない。怒られるのが怖いので、怒られそうなところでは仕方なく着けているのだけれど、それ以外ではほとんど着けない。なぜ着けないのかと訊かれれば、まずそういう習慣がないということと、別にいいじゃないかと思っているからだ。そう書くと叱られそうでまた怖いのだけれど、目くじら立てて怒るほどでもないんじゃないか。たしかに感染して周りに迷惑がかかるのは不本意だけれど、とはいえ、それはコロナの前からも風邪やインフルエンザなどの感染症でもさんざん迷惑かけたりかけられたりしたのだから、今さらなんだという気持ちにもなる。毒性の強さが違うだの、感染力が高いだのとマスクを着ける理由と、マスクを着けない人を攻撃する理由に事欠かないほど情報が飛び交っているけれど、ただの風邪だって人によっては致命的なはずだから、どうしてこれまでこんなにも感染症に無頓着だったのかと問い質したくなるのは意地悪だろうか。マスク警察になっている人も、なっていないにしてもマスクを着けていない人を指弾する人も、これまでに誰かから病気を移され、そして誰かに移しているはずで、その度に移された相手に詫びを入れさせたり、移した相手に菓子箱を持って謝りに行ったことはないはずだ。これは単なる不幸な事故で、不本意にも自分が移した病気は、不運にも自分も移された病気なわけだから、誰にも罪は問えないのだ。自分から事故を起こしたいわけではないけれど、だからといって素直にマスクを着ける気になれないのは僕の我儘だと糾弾されてもしかたがない。それじゃあ、いつになったら外していいんだい。コロナ禍が終息するまでか。たぶんそうだろう。じゃあ、コロナ禍はいつ終わるのか。禍は災いという意味で使われているそうだけれど、この災いはつまりパンデミックということだろうから、少なくとも世界的に終息するまでは外せないということだろう。では、それ以降ならいいのか。おそらく”許される”かもしれない。そう、”許される”という状態にまでしか戻れないだろう。なぜなら、WHOなどが終息宣言を出したとしても、その後にマスクを外してもいいですよとは誰も言わないだろうからだ。もしそれを政治家なり専門家などが言ったとして、その後に人が病死すれば、まず間違いなく責任を問われるだろう。お前が外していいって言ったから外したら、あの人は死んだんだ。マスクを着けてさえいれば、あの人は助かった。あの人が死んだのは、お前のせいだ。そう糾弾する人の姿が容易に目に浮かぶ。誰も責任は取りたくないものだ。だからもうマスクは外せないかもしれない。外している人は、人に病気を移しても平気な人でなしだと言われかねない。ならいっそ外さないでおこうということになりかねない。色んな意味で息苦しい世の中だ。だから僕はマスクを着けたくないのだ。人はどこかでリスクを引き受けて、責任も取らなければいけない。マスクを着けずに感染するリスクを引き受け、感染させてしまうリスクを引き受け、移してしまったらごめんなさいをする。誤解のないよう言っておくけれど、僕が感染すればさすがにマスクは着けるし、外出もしない。家でおとなしく寝ているし、これまでだってそうしてきた。これまで通り、当たり前のことをして生活するだけだ。申し訳ないけれど、マスクは着けずに歩かせてもらうよ。どうせ誰もマスクを外していいなんて言わないんだろうから、自分で決めさせてらいます。けしからん奴なんです。世間の鼻つまみ者です。こんなのでよかったら、付き合ってやってください。
14Apr
- オリンピズムとアマチュアリズムの凋落
  五輪ではずいぶんと多くの避妊用ゴムが選手村で使われると聞いて、僕などには衝撃的な話なのだけれど、それをさいきん友人に話してみたところ、なんだそんなことかという反応をされた。彼女いわく、大人の男女が合意の上ですることだから個人の自由であり、外野が嘴を容れるようは話ではないというのだけれど、僕は賛成できない。そもそも、スポーツをしに五輪に出るわけで、しかも国費を使って行くとなれば、単に一個人として出場するのとは訳が違う。その国その国の国旗を背負っている代表選手であるわけだから、開催国が用意した宿泊施設で無節操な性行為はまずありえない話だ。だいたい大の大人であれば、そういった不道徳な行為を、たとえ互いに合意があったとしても控えるのが当然じゃないか。これが許されるなら、政治家が外交で訪れた他国の宿泊所で異性と性行為をしたとしても、個人の自由ということで済まされるというわけだ。正気を疑ってしまう。それにアマチュアの祭典である五輪という特質も考慮に入れるなら、まず選手に求められるのは品行方正な紳士たることだ。アマチュアリズムは職業的なプロスポーツ、つまり”労働”ではなく、自発的にプレイする自由な遊びであり、楽しむためにやるものだ。勝つために技術を高めるというより、よく闘うために技を磨くのであって、目指すところは勝利よりも、よりよく遊ぶということだ。だから、よりよく遊ぶためには、選手同士は公正で礼儀正しく、かつ相手に対して同じ競技の愛好家としての敬意と親愛の情を持っていなければいけない。つまり、スポーツマンとはお互いに気持ちよく付き合える仲間なのだ。その環をオリンピックという祭典によって国際的に広げようとするものだ。オリンピズムには肉体と意志と知性の資質を高揚させ、均衡のとれた全人のなかにこれを結合させることを目ざす人生哲学である。と書かれているし、文化や教育とスポーツを一体にし、努力のうちに見出されるよろこび、よい手本となる教育的価値、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重などをもとにした生き方の創造である。とも書いてある。こういうところがワールドカップなどのプロスポーツの大会との違いなわけだから、選手同士が下半身の親善を深める場ではないことは明々白々なのだ。にもかかわらず、選手村では乱れた関係が蔓延し、これを止めるべき立場のIOCが追認するかのように避妊用ゴムを配給している。もはやオリンピズムの精神も、地に落ちていると言わざるを得ない。加えて、アマチュアの祭典であるはずなのに、選手は完全に専業化し、企業のコマーシャルとなり、国威発揚として政治利用までされている。古代オリンピックと同じ道を敢え無く辿ったわけだけれど、理想を保つということが、いかに難しいかを思い知らされる。創始者のクーベルタンが投げ出したくなるわけだ。僕もはっきり言って、がっかりしている。日本人選手は違うと思いたいけれど、本当のところがわからない以上なんとも言えない。アマチュアリズムからもオリンピズムからも、いずれの理想からもすっかり乖離してしまったオリンピックに、僕はもうほとんど関心がなくなった。まァ、もともとスポーツ全般に興味が薄いのだけれど、今回の話を聞いてますます興味を失った。そうなれば僕は完全に外野だ。なら僕の友人が正しかったのかも知れない。オリンピック選手はもうプロ選手と選ぶところがないのなら、個人の自由でだいたい片付いてしまうのだから。

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