法廷内は一気に静まりかえった。
「ちょ…カオルぅ…やってもないこと認めてどうすんのぉ?」
「気は確かか?逮捕状が出たらお前は10年ここに閉じ込められるんだぞ」
「カオル!!分かった!!お腹がすいたんだね!!ここに裂けるチーズがあるからこれを食べて正気に戻って」
「ギャハハハハハハハハハハ!!!おいカオル!!なんのジョークだよ!!」
レイア達は必死にカオルに訴えたが彼の目はもう悟りを開いてしまっていた。
「いいんだ。俺…十分だよ。ミズキがこんなに立派になって後輩達にも慕われて…。俺といた頃のミズキはほんと子どもでお寿司屋さんで高い皿を食べたいなんて言ってて…。それが別人みたいに逞しくなって」
カオルは天を仰いだ。
「それに…10年経てばここでもしかしたらミズキと暮らせるかもって思ってさ。そう考えたら刑務所生活も悪かないかなって」
「カオル…」
「俺の目的は生きてまたミズキに会うことだから。それが達成された今、捕まるとか捕まらないとか些細なことのように思えてきたんだ」
誰も何も言えなかった。確かにカオルはミズキに会うためにカミセブン号に乗り込んだ。そして今、こうして再会できた。達成されてしまったと言えばそうかもしれない。
「では被告人が認めたので今から逮捕状を作成…」
「ちょっと待ったぁー!!!」
法廷の扉が勢いよく開いた。そこにいたのは全員プルプル足下を震えさせながら必死にローラーブレードに乗ってきたキシ君、ジン、ゲンキ、そしてタニムラだった。
「カオル!!お前の気持ちは分かるがやってもいないことを認めてそれで人生を棒に振ったら…その間違いを正すことができなかったミズキが一生苦しむぞ!!」
キシ君の叫びが法廷内に響き渡る。
「それに…俺はお前の雇い主なんだから従業員が犯罪を犯したなんてキャプテンとして失格だから…お前の潔白は俺が死ぬ気で証明してみせる!!」
「キシ君…かっこいい…」
目をキラキラさせているのはしかしフウだけだった。勢いよく現れたはずのジンとゲンキも焦っている。
「ちょっとキシ君、さっき言ってた計画と違うよ?僕たちが気を引いている間にアムの煙玉でみんなを文字通り煙にまいて逃走って…」
「そうだぜ。俺とアムがさっき携帯でやりとりしたじゃんよ!!運良くローラーブレードに乗れて辿り着けそうだからって」
「後頭部が痛い…」
タニムラは初めの衝撃でかなりフラフラだった。生まれたての子鹿のようになっている。
「あ、いやまあそうなんだけど…なんか黙ってられなくって…」
「なんだ君たちは。今裁判中だ。部外者は進入禁止だ」
「部外者じゃねえ!!俺たちゃカミセブン号の仲間なんだよ!!」
ジンがそう叫んだのを皮切りに、レイアも叫んだ。
「そうだよぉ!!危うくカオルの決意に傾くとこだったけどぉ…カオルがいなくなったらうちの栄養管理やら何やら死活問題なんだよぉ!!カオルは失うわけにはいかない仲間なんだよぉ!!」
「そうだ。仲間だ。こんな冷蔵庫みたいな見た目をしていてもいなくなったらカミセブン号は崩壊する」
「ギャハハハハハハハハハハ!!!まーどうしよーもねー食いしん坊だけどよ!!いなくなると困るわ!!」
「カオルは大事な仲間だよ!!でないと俺が料理することになって皆の栄養状態がゆゆしき状態になるからね!」
「仲間…」
そのフレーズに、カオルとミズキが同時にそう呟き、そして…
目が合った。
「クラモっちゃん…」
「ミズキ…」
ミズキは何かを決意したかのように大きな溜息をついた。そしてローラーブレード脱ぎ、それを…
「!!!」
叩き割った。当然、中のメモリーは全て無に帰す。証明するものはレシートのみとなった。
「正気か?イノウエ巡査。そんなことをすれば君は犯人隠匿の罪に問われることに…」
「ミズキ君…」
後ろのビーショウネン達も心配そうにミズキを見つめていた。ユウトもさすがに立ち上がり、ソウヤの手は将棋盤から離れた。
「クラモっちゃん…」
ミズキはゆっくりとカオルの元に歩み寄る。止める者は誰もいなかった。
真っ直ぐにカオルを見据えながら、ミズキはその水晶のような瞳を濡らし、絞り上げるような声でこう言った。
「ごめん…信じてあげられなくって…俺…正義の使命をまっとうしようとして何か大切なもの見失ってたみたい…」
「ミズキ…」
カオルもまたうるうるとその大きな瞳を潤した。そこから大粒の涙が零れると同時にまるでたがが外れたように強くミズキを抱きしめると涙混じりの声でこう叫んだ。
「いいってことよ!!ミズキが早とちりっけがあるのも真面目すぎてたまに周りが見えなくなることも全部俺は知ってるし!!こんなの想定の範囲内だからな!!だから謝んなよ!!いいって!!いいってうわああああああああああああああああ」
あとは子どものように泣きじゃくるカオルとミズキ…幼馴染みの二人のちょっと遠回りな再会の感動的シーンに皆も「良かったねぇ…」とほっこりして法廷を後にする。
後始末はアムとゲンキがセレブパワーを駆使してミズキの業務上の過失のペナルティを最小限に抑えた。日頃の真面目な働きぶりが評価されて上層部も温情を見せ、減俸一ヶ月だけで済んだという。
「一件落着だよぉ。指名手配されなくて良かったぁ」
「ほんとだねレイア。また逃げ回る生活はゴメンだよね俺たち」
レイアとフウはカミセブン号でアフタヌーンティーをしながらしみじみ語る。その後ろでメロンにワサビが塗られていたことに勘づいたアムがそれをこっそりジンの皿に盛っていた。
「カオルは?」
「ミズキが非番だから一緒に買い物とご飯行くんだって。ルンルンで行ったよ」
「そっか…良かったな…」
「けど、カオル…カミセブン号に戻ってきてくれるかな…」
ぼそっとタニムラが呟いた。確かにそれはキシ君も気になっていることだった。それをゲンキが代弁する。
「確かに…カオルの目的はミズキと再会することだもんね…ミズキがゴッドセブン星の金持ちに飼われているかもしれないって思ったからゴッドセブン星まで行くカミセブン号に乗った。でももうミズキはここにいるって分かったから…」
「…」
船内が沈黙に包まれる。カオルはもしかしたらもう戻って来ないかもしれない。それはそれで彼の出した決断だし、この星でミズキと幸せに暮らした方がいい。それは分かっているのだが…
「あーーーーーーーーーもうあれこれ考えても仕方ねー!!おい皆でオンラインゲームすんぞ!!負けた奴ジュース奢りな!!」
クリタが皆の気分を切り替えようと殊更大声を張り上げる。彼なりの気遣いを微笑ましく思いながらカオルの連絡があるまで皆でテトリス大会に興じた。そして敗者はキシ君になり、近くのスーパーまでジュースを買いに走らされてしまった。
「へーこれがハイハイ星最大のデパートか…広すぎてみんなローラーブレードで走ってら」
カオルはミズキの案内でハイハイ星で一番大きなデパートに来ていた。客も店員もローラーブレードで店内を移動している。まるでかつてのカル○―ルを思わせる。
「クラモっちゃんも練習した方がいいよ。この星でローラーブレードに乗れないのは歩けないのと同じくらい不便だから」
ミズキは笑って1台のローラーブレードをカオルに手渡した。
「これは俺からのお詫び。初心者でも乗りやすい機能付きだから大丈夫だよ」
「おお…ありがと、ミズキ」
カオルは早速履いてみた。最初こそふらついたがすぐにスイスイと乗れるようになる。移動スピードが上がったことであちこち見て回るのにそう時間は要さなかった。何より、ミズキと一緒にいるとカオルは時の経つのも忘れる思いなのだ。
二人はミズキの案内で展望公園にやってきた。そこで屋台のホットドッグを頬張りながら昔話に花を咲かせた。
「そういやミズキは木登りとかで高いとこ好きだったなー。俺は重いから登れなかったけどスイスイ登ってったっけ」
「うん。ここお気に入りなんだ。ハイハイ警察の奴らも誘ったことあるけどあんまり反応良くなくて。忙しかったし暫く来てなかったけど」
「そっか…やっぱ警察って忙しいんだ?」
「うん。何かあったら非番でも出動しなきゃいけないし…だから中々他の星に旅行とかもできなくて」
ミズキは笑って話す。三日月のようなその懐かしい目にカオルはほっとすると同時にどこか寂しくもあった。
それをミズキが鋭く察知する。
「どうしたのクラモっちゃん?」
「ん…いや、俺の知らないミズキがあるんだなーってちょっと寂しくなっただけ。数ヶ月とはいえ離れてた期間がこんなに長く感じるなんてなー」
ホットドッグの残りを口に入れ、モグモグしながらカオルは空を仰いだ。真っ青な色が目に染みる。
「そうだね。なんか…振り返ってみれば凄く長かった気がする…」
ミズキも同じように空を見上げた。
「でも…もしかしたらもう会えないかもって思ってたから…クラモっちゃんに会えた時…俺は凄く嬉しかったよ」
「そっか…」
「それに…こうやって再会できたんだしクラモっちゃんさえ良ければこの星にいて俺と同じようにハイハイ警察で働いてみるのもいいかもしれないよね。ちょうどもうすぐ採用試験の募集が始まるし」
「ちょ…俺に警察とか無理だろ…何せ俺はカミセブン号に乗る前の星で定職に就くまでさんざん無銭飲食やらかしてきたし」
「あはは。クラモっちゃんらしいね。でも俺も密航してきた身だからなんとも言えないけど。あ、警察食堂の調理師とかもあるよ」
「それならいけそうだな…けどつまみ食いとかしたらやっぱしょっぴかれるのかな…廃棄食材をくすねるのも出来なさそうだし…」
カオルは真剣に悩む。その姿を見てミズキはくすっと笑った。
「すぐそうやって真剣に考え込むの変わってないね」
ようやくホットドッグを食べ終えたミズキは親指についたケチャップをペロリと舐めながら
「なんでもいいよ。クラモっちゃんが納得して働ける場所見つけられたらそれが一番だと思うし」
と微笑んでいた。
「カオル遅いね…」
午後七時を回ってもカオルはカミセブン号に戻って来ない。送り出すときは皆で「夕飯ぐらいどうにかするから思う存分ミズキと遊んでこい」と言ったもんだがいざいないとなるとカップラーメンをすする有様である。
なんか虚しい。麵をすする音だけが狭い室内にこだましてそれを増幅していた。
「もしカオルがカミセブン号降りたら毎日カップラーメンなのかな…」
ゲンキがぼそっと呟いた。
「それはさすがに…代わる代わる料理しようよ。少しぐらいはできるでしょ皆…」
キシ君がスープを呷りながら訊いてみたが返事はすぐに返ってこない。
「フウにだけはさせちゃダメだよぉ。おにぎりに砂糖まぶすんだからねぇ。皆お腹壊すよぉ」
「そう言うレイアだってタマネギの皮をピーラーで剥くじゃん」
「ギャハハハハハハハハハハ!!!俺料理とかやったことねーけどおめーらがどーしてもって言うんならやってやってもいーぜ!」
「…クリタにだけはやめさせた方が…食べ物じゃないものも入ってそうで…」
「あ!?なんか言ったかタニムラ!!」
「痛い!!スープがこぼれ…熱い!!」
クリタが蹴りを入れたはずみでタニムラの持っていたカップ麵からスープがこぼれ、それが太ももにかかって彼はのたうち回る。それを冷ややかな目でレイアが見た。
「やだちょっとタニムラぁスープ零したらシミになるじゃん。後で掃除しといてよねぇ」
「カオルがもし戻って来なかったら全員栄養失調になりそうだぜ…」
ジンの大きな溜息と共に船内は再び静まりかえる。全員がガリガリになって朦朧とカミセブン号内を彷徨う妄想が駆け巡った。
「大丈夫だって皆!そうなったら俺がお料理教室通うから!」
純粋なフウが挙手するもアムが小首を傾げながら
「宇宙船内にいてどうやって通うと言うんだ。まあ料理は女の仕事だからゲンキとレイアがやるのが妥当だな」
「えぇ~僕は忙しいの。ゲンキやってぇ」
「忙しいって…レイアの仕事と言えば警報鳴らすくらいじゃない…僕は一応整備士としての仕事があるから…」
「忙しいんだよぉ。いつ水泳部のオファー来てもいいようにスイミングの練習あるしぃ」
「どこの世界のなんの話をしてるの…とにかく僕は今の仕事以上に業務が増えたら過労死しちゃう…日に3回はレイアやクリタが警報鳴らすから大変なんだよ」
「じゃあジンがやりなよぉ。今の時代男も家事出来ないとモテないよぉ」
突如自分に矢が当たりジンはすすっていたスープを吹きかけてむせかえる。
「ゲッホ…何言ってんだお前。俺は料理なんかできなくても全宇宙の彼氏なんだから十分だよ!俺のソロ聴いたか?マッタリとした音程の外し具合に絶妙なリズムのズレに喉に負担しかかけていない発声法…昔の映像編集してた作者の手が止まるくらいなんだからな!」
「うむ。確かにジンは料理よりもまずヴォイストレーニングが必要だ」
「なんか言ったかアム?とにかく俺に料理なんて不要だね!見ろこの鍛え抜かれた肉体美!」
「うわぁポッキーが歩いてるのかと思ったぁ」
「あぁ!?ホントおめーは可愛くねーな!東京ドームでのじぐれあ愛の逃避行とか全て幻だチキショウめ!!」
「落ち着きなってジン…全くもう…」
呆れたゲンキが深い溜息をつくと、突然バタン!と派手な音を立ててドアが開いた。そこに立っていたのは…
「カオル!!」
食材の入った袋を何個も抱えたカオルだった。きょとんとした表情で船内の皆を見渡すと、
「なんだお前ら?カップラーメンとか勝手に食って。それは俺が夜中に空腹で目覚めた時用に備蓄してたやつなのに」
「カオル…戻ってきてくれたのか…?」
キシ君がその大きな瞳をうるうると潤ませると、その横でジンが訝しげな表情になる。
「いや…キシ君よ、もしかしたら最後のお別れを言いにきたのかもしれねえ…」
「カオルぅ」
レイア達も固唾を飲んで見守る中、どさっと袋を降ろしてカオルは腕まくりをした。
「さ、ちょっと帰り遅くなっちまったけど今から俺がご馳走作るから待っとけ。今夜は奮発したぜ!!ほら、イセービが安かったから買ってきたぜ!!」
ガサゴソと袋からどでかい海老を取りだして見せるとカオルはにっこり笑った。
「カオルううううううううううううううううううううう戻ってきてくれたんだね!!!!!」
感激して泣き叫び、昂ぶってヘッドスピンをしようとするフウを必死に止めながら、タニムラはぼそっと呟く。
「カオル、ミズキは…?」
「え?あ、ミズキは明日俺の見送りに宙港に来てくれるからな。皆邪魔すんなよ」
海老を豪快にさばきながら、あっけらかんとカオルは言い放った。皆は顔を見合わせる。
「カオルぅ、いいのぉ?せっかく運命の再会ができたのにぃ。ミズキはなんて?」
レイアのその問いにはすぐには返事せず、海老の殻をむしりながらカオルは浅い溜息とともにややあって答えた。
「ミズキが言ってくれたからさ…俺が納得して働ける場所が一番いいって」
「…」
「俺も正直、迷ったんだよ。ミズキとこの星で一緒に働いて暮らして…それが一番俺にとって幸せなんだろうなってぼんやりと思ったんだけど…けどさ」
カオルはむき出しの海老の身に胡椒を振った。
「思った通り、俺がいなきゃお前らは夕飯一つロクに食べることも出来やしないしこれじゃ三日で栄養失調で遭難船になりかねないからな。ま、ちょっとの間とは言え一緒に旅した仲間がそんなことになると俺も夢見が悪いからゴッドセブン星までは付き合ってやろうかなって」
「カオル…」
カオルの気持ちが皆は嬉しかった。無理をしている感じもないし本心からそう言ってくれていることが十分伝わったから返す言葉は一つ…
「おかえり、カオル!!」
キシ君がそう言ったのを皮切りに、ワイワイと皆がカオルを取り囲んだ。
「ギャハハハハハハハハハハ!!!やっぱカップラーメンじゃ飯食った気がしねー!!一発デカいの頼むわ!!」
「僕オムライスが食べたいよぉ。ひじき入りでお願いねぇ」
「カオル俺も手伝うよ!!凄いねこれ、イセービって言うの?あ、まだ生きてる」
フウはぴちぴち跳ねるイセービを手に取る。それを見ながらアムも顎に手を当てた。
「イセービか…久しぶりだな。母星にいる時はしょっちゅう食ったもんだが。フォアグラとかはないのか?」
「あ、こっちには生きた蛸が壺に入ってる。よくこんなの手に入れたね。僕は蛸が大好物だからお刺身にしてほしいな」
「俺はたこ焼きにして欲しいな。オーサカ星ってとこの名物らしいんで気になってたし」
ジンは蛸をつつこうとして指にからみつかれて焦っている。タニムラは青ざめながらそれを眺めていた。
そして1時間後…テーブルに豪華なご馳走が並び、皆で一斉に「いただきます!!」をした後、何かに気付いたキシ君がイセービのソテーを口にしながらこう呟いた。
「ちょっと待って…これのお金はどこから…?」
キシ君は家計のやりくりに頭を悩ませながら夜を明かし、その日の朝は早くに宙港に来てくれたミズキとカオルは出発カウンター前で仲むつまじげに会話をしていた。
「やっぱ幼馴染みっていいもんだねぇ…クリちゃん」
「ギャハハハハハハハハハハ!!!俺とレイアは幼馴染み以上だかんな!!銀河の果てまで一緒だぜギャハハハハハハハハハハ!!!」
いちゃつくレアクリを横目にタニムラは憔悴しきっていた。キシ君が家計の計算に夜通し入っていたため操縦全般を任されたから半徹夜状態だった。目が半分閉じている。
「お…そろそろ出発の時間だぞ」
腕時計を見ながらアムがそう言うと、ジンとゲンキがカオルを呼びに行く。
「クラモっちゃん。これ」
ミズキは別れ際に一つの古びたコインをカオルに差し出す。受け取ったカオルは目を丸くした。
「ミズキ、これ…」
「クラモっちゃんが持っててよ。また会えた時に返す約束で」
「…分かった。じゃあな、ミズキ」
「うん。元気でね。食べ過ぎないでね。今度会った時相撲取りみたいになってたら俺他人のフリするから」
「わーってるって!俺は体型管理にはちょいと自信あんだよ!今度会う時は180センチ超えのナイスガイだぜ!驚くなよ!」
コインを握りしめ、カオルはその拳を高々と掲げてミズキに別れを告げた。
「カオルぅ、何それぇ。どっかのお金ぇ?」
「これ?これは俺たちの母星の通貨だよ。でもただの通貨じゃないんだ。ほら見てよ、印刷がズレてるだろ?俺がまだ施設にミズキといた頃に買い物でもらったお釣りに入ってたんだ。珍しくって二人の宝物にしてたんだよ。まさかまだミズキが持ってたなんて…」
「ほう。ミズキは星を脱出する時にそれだけはなんとしても持って行こうとしてたんだな」
アムが感心しながら言った。ゲンキも頷いている。
「へえ…そんな大事なもの、ちゃんと返さないとね」
「おおよ!!この仕事やり遂げてまた絶対ミズキに会いにいくから今度は俺がこれを死守しないとな!ミズキ待ってろよ!!婚約指輪代わりにこれ持ってまた会いにくるからな!!会いに…」
そこで初めてカオルの大きな瞳から何かが落ちた。ぽたぽたとそれは床を濡らす。
「さ、出発だ。ほれハンカチ」
キシ君がハンカチを差し出すと、「おう」とそれを受け取ってカオルは思いっきり鼻をかんだ。
「ちょ…後でちゃんと洗濯してくれよ?」
「わーってるって!早く行こうぜ!!」
キシ君のハンカチがカオルの鼻水でべとべとになった頃、カミセブン号は離陸準備に入る。キシ君が操縦席に座り、タニムラとフウがそれをサポートする。レイアとクリタは携帯ゲーム機で遊び、ジンはセクシー本を読みながらアムとY談に花を咲かせてゲンキに思い切り耳をひっぱられた。
カオルはというと、そのコインをアムにお裾分けしてもらったシルバーのチェーンに通し、手製のペンダントにして厨房へと向かう。
「お前ら今日のメシは節約メニューだからな。とはいえ味と量はちゃんと保証するから安心しろ!」
腕まくりをして宣言するカオルに、皆は歓声をあげる。
こうしてカミセブン号はまた愉快な仲間達と共に次の星へと向かった。
おわり