Timor et tremor venerunt super me, et caligo cecidit super me
miserere mei Domine,quoniam in te confidit anima mea
(恐れと戦きがわたしの上で1つとなり私は深い闇につつまれた 主よ憐れみたまえ 私は魂をあなたにゆだねます)
「どうしたんだよ颯、緊張か?まあ残念ではあったけど、お前の歌良かったって俺らはちゃんと分かってるし、えっと…」
終演し、顔面蒼白で蹲る颯にクラスメイトは皆彼を気遣う言葉をかけてくる。だが本人の耳には届いていないようだ。
「やっぱ緊張するよな…あんな大勢の前だもんな…」
誰かが言ったが、そうではないことは嶺亜だけが知っていた。
嶺亜は見た。ガブリエルの歌が始まり、見上げた颯の顔を
「…」
僕のせいだ
その顔を見て嶺亜は痛感した。颯はもう今にも泣き出しそうな顔で嶺亜を見下ろしていた。怒りというよりも、悲しみ…昨日、手をあげてしまったことに対する悔悟…恐れと戦きがそこにあった。
挙武が機転を利かせて颯を舞台上から降ろしてくれなかったら、生誕劇自体破綻していただろう。実際に嶺亜も立ち位置も何もかもちぐはぐになってしまい、谷村のフォローで乗り切ったにすぎない。
なんであんなことを言ってしまったんだろう。しかも、あのタイミングで
生誕劇が終わってからでも良かったし、そもそもわざわざ告白することでもない。そうしたことで颯を更に傷つけただけだ。
だが…
嶺亜は確信していた。きっと、ああすることしか出来なかったと。
何故ならば、嶺亜は颯に罰して欲しかった。己の過ちを。
それこそ身勝手な願いだったが、それでもそうせずにはいられなかった。弱さ故に。
「颯」
岸が颯に駆け寄った。だが今の颯に岸の声は何よりも酷だ。だから嶺亜は止めようとしたが…
「悪いが岸くん、颯のことは今はそっとしといてくれ」
まるで機関銃のような目をした挙武が立ちはだかった。そこには剥き出しの怒りが宿っている。彼が何故こんな行動に出たのか…それを疑問に思う前に颯の肩を抱いて挙武は控え室を出て行った。
岸と目が合った。どうしていいのか分からない、といった混乱をその瞳は宿している。
嶺亜に説明は出来なかった。