「で、どーする?配役」

HRで文化祭の出し物である生誕劇の配役について委員長が投げかけるが、積極的に発言する者は少ない。担任が出張で不在なのもあってだらけたムードが漂い始める。

「くじでいいんじゃね?」

誰かがそう言ったが一部の真面目な生徒が反対をする。というかもし自分が面倒な役になった時に納得できないからだろう。

「劇なんだからイメージっつーもんがあるだろ。マリアは岩橋か中村のどっちかだろ。女みたいなの方がしっくりくる」

突然の指名に玄樹と嶺亜は顔を見合わせた。

「僕は…そんな大役より小道具とかの方が…声量もないし」

玄樹は困惑した顔で神宮寺に助けを求める。それを受けてやれやれと神宮寺が発言した。

「そりゃよ、イメージが大事だけど玄樹はそういうの苦手だから。嶺亜やれよ」

「僕も無理。みんな僕がいい加減でズルいの知ってるでしょ?練習にろくに出ずに当日もすっぽかすかもよ?だったら真面目で責任感のある玄樹の方がいいでしょ」

「まあ確かに嶺亜より玄樹の方が安パイだな。イメージも聖女に近いし。嶺亜だとマリアが悪女になってしまう」

挙武の皮肉たっぷりの意見に嶺亜は睨んだが見ないふりをされた。

「じゃあ岩橋で決まりだな。んじゃヨセフは?」

「玄樹がマリアならヨセフは神宮寺じゃない?」

嶺亜がさっきの仕返しに神宮寺を指名する。しかし神宮寺はまんざらではない。照れたように頭を掻きながら

「ま、誰もやんねーなら俺がやってやってもいいぜ。そのかわりセリフは少な目でな」

「おーおー乗り気じゃん。じゃ、次は東方の三人の博士…」

一時間近くかけて配役や裏方を決めた頃には外から挿し込む夕陽が教室を照らし始めていた。天使のお告げをマリアに伝えるガブリエル役に就任した颯がふと見やると嶺亜の姿がなかった。

「また知らない間にこっそり抜け出して…しょうがないなあ嶺亜は」

「まったく…裏方にしといて良かったな。まあこの調子だと裏方としての作業も参加するかどうか…」

心底呆れたように挙武が吐き捨てる。どうも彼は嶺亜に対しては辛口だ。他のクラスメイトには冗談を言ったりウザ絡みをしてきてどちらかと言えばお調子者キャラなのに何故か嶺亜が絡むと少し人格が変わる。

「挙武、嶺亜はきっと美術室だよ。後で俺がちゃんと裏方の仕事について伝えとくから」

「お前は嶺亜を甘やかしすぎだ。だからあいつはこうやって面倒なことから逃げて好き勝手ばっかやってる。美術室には俺が行く。お前は台本のセリフの練習をちゃんとしとけ。ガブリエルなんて大役回って来たんだからな」

渡された台本を見て、颯はそのセリフの難しさとソロで歌う場面とがあり頭を悩ませた。こんなに大変だとは思っていなかったから安請け合いをしたが、どうりで皆が避けるわけだ。

若干後悔しかけていると教室のドアがガラリと開く。入って来たのは何やら大きな箱を抱えた岸だった。

「生誕劇の衣装持ってきたよー。よっぽど体型合わない奴以外は作り直ししないから。あと大道具は…」

「なんだよ、岸くんがサポートしてくれんの?うちのクラス」

台本を丸めながら神宮寺が問うと岸は汗を滲ませて頷く。そしてキラキラした目をあちこちに向けながらこう言った。

「まあ及ばずながら…なっつかしーな俺も高3の時の文化祭で生誕劇やったんだよ。自慢じゃないけど俺ガブリエルやったんだぜ!ガブリエル!誰がやんの?このクラス」