昼休みの食堂は戦場と化している。購買部のパン争奪戦、食堂の限定メニュー争奪戦、さらに場所取りとバーゲン会場さながらである。山奥に建てられた神7学院はコンビニに買いにいくこともできないから食堂が唯一の生命線なのである。

その喧騒の中、一人優雅にゆったりとオムライスとひじきの煮物を嶺亜は食している。混雑していても嶺亜の周りは誰も近寄らない。数人の例外を除いては。

「いやー大量大量!!今日もなんとか必要最低限確保できたぜー!!」

どさどさと惣菜パンやら菓子パンやらをテーブルの上に乗せながら倉本郁は満足げである。相変わらずの食欲に嶺亜は見ているだけで胸ヤケをおこしそうになった。

「食べ過ぎじゃないぃ?郁ぅ」

「そっかなー。これでも少ないくらいなんだけど。4限の化学が長引いて出遅れちゃったからさー。最後買い占めてきちゃった」

ばりっとコロッケパンの袋を破りながら倉本は得意げである。

「うわぁ迷惑ぅ…後ろに並んでた子可哀想ぉ」

「そっかなー。まぁそいつなんか汗だくで涙目になってたけどグリンピースおにぎり残してやったから俺いいことしたなーって。みずきも見直してくれるかな?」

そんな話をしているとラーメンを乗せたトレーを持ちながら谷村がウロウロしていた。その後ろをメロンパンを抱えた颯が歩いてくる。

「谷村ぁ、トカゲ捕まえられたぁ?」

「…はい、なんとか…」

谷村はそう答えてラーメンをすする。トッピングについていたはずのかまぼこが入っていないことに気付き若干テンションが落ちる。

「トカゲって何に使うの?観察日記でもつけるの?」

無邪気な颯がメロンパンをむしゃむしゃかじりながら問う。嶺亜は「んーん」と首を横に振った。

「儀式に使うのぉ。今日こそ上手くいくといいんだけどぉ…とりあえずトカゲを黒焼きにしてぇ…あとは諸々調合するから放課後化学室借りないとぉ」

「大変だね。何か手伝えることがあったら言って」

「颯はいい子ぉ。じゃあ森で山菜取ってきてぇ。それも調合するからぁ」

「ラジャー!!」

びしっと右手を額に当てながら颯は張り切りを見せる。こいつは何も考えないから気楽でいいよな…と谷村は思う。どうして助手をこっちにしないんだろうと思っていると嶺亜は谷村のラーメンについていたゆでたまごを食べながら言った。

「谷村はぁ魔法陣書く時に使う紫のチョーク10本調達してきてぇ。こないだみたくちびたやつじゃなくてちゃんと新品の長いのねぇ」

「また職員室に忍び込まないといけないの…こないだバレかけて大変だったんだけど…」

「必殺自我修復で乗り切れるでしょぉ。頼んだよぉ」

谷村はすっかり食欲がなくなってしまった。そのラーメンの残りを倉本がスープまで綺麗にたいらげた。