「…厄介な時に厄介なよそ者がまぎれこんだな…しかしどこから来たというのだ…」

しわがれ声を後ろに聞きながら、嶺亜はアイスティーを淹れる。真っ赤な液体がカップに注がれるのを無機質な心で見た。

「けど良かったね、今夜が雨で。晴れてたら…後始末が大変だっただろうから」

「よりによってこんな時に来るとは運のない連中だ…いや、無事にここに辿り着いたのだから幸運の持ち主と言うべきか…」

「明日には帰るんじゃない?こんなとこにいたって面白くもないだろうし」

「うろちょろされると厄介だ。村の連中に言っておくから嶺亜、お前は奴らを道祖神方面の道へ案内しろ。体調の方は大丈夫だな?」

「そんな暇があるかな…明日は早くに挙武を迎えに行って、送り届けてまたあそこに連れて行かなきゃ。お父さんじゃ無理でしょ?」

父はもう80近い。数年前から足を悪くしており体調も優れない日が多い。だから嶺亜が彼の仕事を手伝うことが多くなり、今では殆どこなしている。

「そうだったな…では…岩橋家の者にでも頼むか。確か倅が似たような年頃だったな」

「玄樹は人見知りだからそんな役可哀想だよ。…あ、でも神宮寺がいるか。後で頼んでみる」

嶺亜はアイスティーのカップに口をつける。独特の苦みと冷たさが味覚を刺激する。砂糖もミルクも入れずストレートで飲むのが好きだ。

「明日は…恐らく晴れるだろう。日没までに出て行ってもらわんとな」

「そうだね」

「今日は早く眠るがいい。最近何やら夜更かしをしているようだが、この時期は用心せねばいかん」

「うん。分かってる」

嶺亜の淹れたお茶を父は飲まなかった。年寄りにはこの苦みが合わないと頑として飲まない。砂糖やミルクの類いは入れたくないというから彼は専らブラックコーヒーのみだ。村の特産品なのに肩身が狭くないのかなと思わなくもないが、神父として尊敬を集める彼にはそんなものは無縁だろう。

「でも、なんか面白そうな子たちだったなあ…」

嶺亜の呟きに、父は答えない。もう半分眠りかけだ。老人は眠るのが早い代わりに朝も早起きだ。明日はきっと早くに起こされるだろう。

早くに寝たいのは山々だったがやることがあった。寝不足と連日の暑さで少し体調が下がり気味だが仕方がない。

本棚の端の、読みかけの冊子を手に取りながら嶺亜は独り言を呟いた。

「挙武の奴、明日行ってやっても素っ気ない態度なんだろうな…」