「バッカじゃねーのおめー!!部長が遅刻してどーすんだよギャハハハハハハ!!」

いざ出発の日、岸くんは大幅に寝坊して出発が昼過ぎになってしまった。車を借りたのも、そのキーを持っているのも岸くんだから皆はとんだ待ちぼうけだ。

「いや面目ない…前の晩あれこれ考えてたら眠れなくなって…夜明けぐらいに寝落ちしてた…目覚ましのセットも忘れてて」

「ったくそんなんでよく部長が務まるな…あー腹減った」

ワゴンに同乗したのはまだ高校生の倉本郁で栗田の高校の後輩だがバーベキュー目当てで同行を希望した。人がいればいるほどありがたい岸くん達は快諾する。

「郁、カントリーマァムやるから機嫌直して。岸くんドンマイ、誰にだって寝坊はあるよ。俺なんてこないだ友達に4時間半待たされたし平気平気」

「ありがと颯。…えーと、ナビはこっちか。そろそろS県に入るな」

県道に入った頃にはもうすでに午後5時半を過ぎていた。だがまだ陽は高く、強烈な日差しが降り注いでいたが山の中に入ると緑のカーテンがそれを和らげてくれる。うるさいくらいの蝉の大合唱にも負けずに岸くんたちはカーステレオで音楽をガンガンにかけて歌い騒いだ。そしてヒグラシが鳴き始めると道は細くなり、舗装されていない悪路が登場する。

「あ、ここで終わってる。てことはこっからがチャリで行くしかないのか」

道は途切れ、人がすれ違うのがやっとな細い山道が出現する。車を脇に停めて岸くん達は折りたたみ式のマウンテンバイクを降ろした。

6時半か…1時間も走ったら陽も暮れそうだし今日はここで明かした方がいいかな?暗くなってくると山道危ないよね?」

颯が建設的な意見を述べたがテンションが上がりきっている岸くん達はもうマウンテンバイクに跨がっている。郁だけはここでバーベキューしてから行こうと言っていたが…

「とりあえず行けるとこまで行ってみようよ!戻るのはいつでも出来るし。あああああすっげーワクワクしてきた。未知との遭遇…」

アドレナリンが出まくってる岸くんはもう滝のように汗をかいている。

「ギャハハハハハ!谷村似合ってるぞ!!」

「なんで俺だけママチャリなんだ…」

マウンテンバイクは郁が加わった分一台足りなかった。そこで谷村にはママチャリが割り当てられたのである。

みんなのやる気を見て颯もマウンテンバイクに乗った。

「ちょっとちょっと、出発の瞬間撮っとこうよ。会報にも載せられるように」

岸くんのスマホで記念撮影をして、一行は山道を走り始めた。岸くんが先頭を行く。

道は殆ど一本道だった。小一時間ほど走ると辺りはもうすっかり暗くなり備え付けのライトだけが頼りだ。蝉の大合唱ももうすっかり小アンサンブルと化している。

「長いな…衛星写真だとすぐみたいに見えたけどやっぱ実際走ると距離あるなー」

緩やかなアップダウンが続く中、岸くんは急ブレーキを踏んだ。あわや二番手の颯がぶつかりかけたが見事なハンドル捌きでそれを避ける。

「どうしたの岸くん!?急に止まると危ないよ」

「おいどうしたんだよ岸!さっさと行けよ」

後続にせかされたが岸くんは進むことが出来ない。なぜなら…

「道が…」

道はそこで途切れていた。土砂崩れか何かの跡か…土石の壁が立ちはだかっていた。衛星写真はリアルタイムではなかったため映されていなかったのだ。

「マジかよ…ここまでいい感じで来たのに…てかこの道閉ざされたまんまってことはこの先にはなんもないんじゃね?」

「ここまでか…明るければバイク降りてそのへん探索できるけど、この暗さじゃあどうしようもないな」

すでに懐中電灯の灯りなしでは真っ暗闇になってしまっている。どうやら先に進むことは困難なようだ。

今更のように疲労感が押し寄せてきて、皆はバイクを降りてぐったりと休憩モードに入る。郁のリュックにパンパンに詰められたお菓子の類いを分け合った。

「はぁ…。けどここで諦めるのもな…一旦ワゴンに戻って明日の朝またこの辺りを探索するのも…」

ポカリを一気飲みしながら岸くんが呟くと栗田がいきなり歓声をあげる。

「おおー!!すげーぞみんな、上見てみ!?」

栗田の指差した先には満天の星空が木々の隙間から垣間見えた。都会っ子の彼らにはそれらがもの凄く新鮮に見える。

「うおーすげー!!ビッシリじゃん!木のてっぺん登ったらもっと凄そう!!」

すっかりミステリーのことなんて忘れて5人は大自然を堪能する。今にも降ってきそうな星空に見とれて溜息をついた。

「はーすげーなー…」

「ホント、綺麗だね…」

「星って食えんのかな…」

「お星様になりたい…」

「あ、流れ星…」

岸くんがそれを確認すると、1つ、また2つと星は流れ始める。そうして夜空に瞬いていた星々はいきなり急速運動を開始した。

「…!?」

星が降ってくる。流れ星の乱打に、一同が混乱し始めたと同時に世界が回り始めた。

「うわ…なんだこれ…!?」

「ワケわかんねー!目が…回…」

「地面が…!!」

「地震…!?」

「おい、皆掴まれ!!立ってられねえ、なんだこれ…!!」

足下もおぼつかなくなり、天と地が逆流する。何か巨大なエネルギーが渦巻いていることだけは理解できたが認識がおぼつかない。そうして星々が全て真っ白に視界を染めた時、岸くんたちの意識は遙か遠くへと飛ばされて行った…