「何でよ……何でなのよ!蒼!」
曲は蒼のナイフに反応して止める……はずであった。
しかし、蒼が突き出したナイフは刃とは反対側の柄の方であった。
曲が柄を掴んだ瞬間に蒼は自分の方にナイフを引き戻し曲は勢い余って蒼の腹部にナイフを突き刺していた。
蒼は口からも血を吹き出し、曲に倒れこんで囁いた。
「言っただろう?こうするしかないって……」
「分けわかんないよ!」
「君にはボクを殺せない……だから。これで、ボクの武器は君に移る。後は頼むよ。ボクの代わりに正義を……この世界を救ってくれ。」
曲は涙を流しながら言った。
「要さんもあんたも何で……死ぬのはあたしで良かったのに!あたしなんかじゃ無理よ!」
「ボクには無理だったから、託すんだ……君なら出来ると思ったから……」
蒼の力が抜けていくのが曲には分かった。
蒼は精一杯の笑顔だが、かすれた言った。
「頼みがある……楽にしてくれないかな?」
「駄目よ!逝かないで、蒼!」
「無理だよ。どちらにしろ、ボクはもう死ぬよ……頼むよ。お腹が痛いんだ。さっきからとても。」
「……!蒼さん!うああああああああああああああああああああああああああああああ!」
信じた正義を貫き通し――榎木 蒼、死亡。
これで倒すべき敵は後1人。

 佐紀は決闘の世界で上機嫌に歌っていた。
「……こんなに殺したよ~。貴方のために殺したよ~。」
暇つぶしに骸を見つけてはその首を掻っ切っていた。
最後の対戦相手が現れるのを待ちながら。
足音が近づいてきた。
佐紀は嬉しそうにそちらを振り向いた。
最後の対戦相手は曲であった。
すでにガンマンの姿になっている。
佐紀は満足そうな顔をしながら、言った。
「どう?ワタクシの予言も捨てたものじゃないでしょ?」
曲は答えずにポケットから血のついたナイフを取り出した。
蒼を殺したナイフであった。
そのナイフで三つ編みの髪を切り、蒼のような短髪にした。
佐紀は目を丸くして言った。
「な~に、イメチェンですの?蒼の意思を引き継いで戦うぞ!的な決意かしら?」
「ただのけじめ。あたしは蒼にはなれないよ。あんた、以前にも言っていたよね?あたしとあんたが同類だって。」
「当たっていたでしょう?ワタクシの予言どおりに貴方は蒼を殺しましたわ。」
「だからこそ、あたしはあんたを倒す。蒼のように正義としてではなく、殺人鬼としてあんたを殺す!」
曲は銃を構えて、佐紀に向けて発砲した。
佐紀のウサギの人形が輝き灰から赤になる。
佐紀は炎の弓矢を手に持った。
「飛び道具は使い忘れそうですから、先に使っておきますわ!」
次々に炎の矢を放ち、曲の弾丸を相殺した。
「で、お次はこれ!」
佐紀のウサギの人形の色が赤から水色に変わった。
佐紀の左手に氷の銛が握られた。
「暑かったでしょう……今度は寒くなってはいかが?」
冷気を放ちながら距離をつめていく。
曲はネックレスのペンダントの色を青から茶色に変えた。
「その武器の範囲は自分の周り、下のほうから凍らせる!なら、上から攻める!」
曲は地面を蹴って、天高く飛びあがった。
佐紀はウサギの人形を水色から緑に代えダイナマイトを左手に持ち、言った。
「じゃあ、着地点にこれをプレゼント。」
次に佐紀はウサギの人形を緑から黒に代え、サーフボードを取り出した。
「そうして、ワタクシは離脱させてもらいますわ!爆発に巻き込まれたくありませんもの!」
佐紀の姿が消えた。
曲はペンダントの色を黒から紫に代えて時計を手にした。
指で時計の速度を遅くすると曲の落下速度が緩やかになった。
ダイナマイトは爆発し、爆風が去ったタイミングで曲は地上に降りた。
姿は見えないが佐紀の声が四方からした。
「へぇー、その武器ってそんな使い方も出来るんですの?やり直すだけかと思っていましたわ。本当に最強の武器ですわね。」
曲は答えずに指で時計の速度を速めた。
曲の速度だけが進み、サーフボードの動きを目で追えるようになった。
サーフボードに佐紀は乗っていなかった。
代わりにサーフボードにトランシーバーがくくりつけてあった。
(くっ、陽動か!)
曲は時計から指を離した。
サーフボードのトランシーバーから佐紀の声が響き渡った。
「あら、やめちゃいますの?まぁ、自分の時間を進めていたら老化が早まりますものね。怖い、怖い。」
曲はネックレスのペンダントの色を茶色から青に代え、銃を手に取った。
どこにいるかも分からない佐紀の声がする。
「あれ?スタンガンは使わないんですの?せっかく奪ったのに。」
「あたしは手に入れたおもちゃを使いたがるようなガキじゃない!」
銃を放り投げ新たな銃を取り出し、銃を放り投げ新たな銃を取り出し……
2丁、3丁、4丁……10丁、20丁、30丁……100丁、1,000丁、1万丁……
まるで曲の体を覆う鎧の様に銃は増えていった。
さすがの佐紀も驚きを隠せずに言った。
「ちょっと……どこまで出すつもりですの?」
「もう、出てこなくていいから。この辺一体を全て撃つ!」
銃は一斉に発射された。
決闘の世界が火花と弾丸で覆いつくされていく。
激しい銃声が止むと曲の周りの銃は消えた。
曲は注意深く周りを警戒しながら佐紀の死体を捜して歩いた。
あるのは骸の残骸ばかりであった。
曲はため息をついて言った。
「あれだけの弾丸に打ち抜かれたから、骸と見分けがつかなくなっているか……」
曲はガンマンの姿から元の姿に戻った。
「その油断が命取り!」
骸の残骸から佐紀が飛び出し、果物ナイフで曲に切りかかった。
曲はとっさに避けて、腕を切られただけで致命傷をまぬがれた。
佐紀は嬉しそうに言った。
「今の不意打ちを避けるなんて、すごいですわ!」
「わかっていたから。あんたがまだ生きているのが。虎との戦いで気付いたよ。あんたの武器って刃物じゃなくて回復力でしょ?」
「その通り!二重にすごいですわ。それで?ワタクシを殺すのは無理だと知って、どうします?詰んでいますわよ、貴女の恋愛ゲーム!」
曲は肩をポンポンと叩く仕草をした。
佐紀は自分の左肩にナイフが刺さっているのに気付いた。
佐紀の攻撃を避ける時に曲が刺したのであった。
佐紀は笑いながら言った。
「ほほほ……これが何?不死身殺しの薬品でもかかっているとでもぉ……あれ?」
佐紀の力が抜け始め果物ナイフを落とした。
佐紀はその場に崩れ落ちて言った。
「何が起きたんですの……!?力が……入ら……」
「かかっているわよ。そのナイフには蒼の血が。正義の血が不死身のあんたを倒すのよ!」
「バカを言わないで……そんな理屈があるわけが……」
「理屈じゃないの!これは事実!悪は正義の前に滅ぶのよ!」
佐紀はため息をついた後に笑顔で言った。
「見事ですわ……でもねぇ……」
曲は耳を塞ぎ佐紀の声が聞こえないようにしてから、言った。
「あんたの捨てゼリフは聞かない……何も残さずに死になさい!」
佐紀は口を閉じ、静かに息を引き取った。
 神をも殺し、最も勝利に近かったにもかかわらず――霧雀 佐紀、死亡。

 曲は神の世界を進んでいた。
その表情には迷いがなかった。
空中の一部が裂けて中の部屋がむき出しになっている。
佐紀が利士の姿を暴いた場所であった。
曲は利士の前に立った。
利士は笑顔で言った。
「おめでとう。君の勝ちだね。後は君と僕が結ばれれば、この世界は救われる。」
「博和君、あなたは……」
「そうさ、僕が神だ。この世界を維持する力…つまり骸を止める力が衰えてきてね。力を取り戻すためには、僕を最も「愛」してくれる人が必要だったんだ。そのための恋愛ゲームだよ。」
「あたし達は……人形なの?博和君に都合の良いおもちゃなの?」
「殺し合いは全て君達の意思で行われていたはずだが……」
「そう仕向けたんじゃない!あたし達の感情をいじくって!」
利士はため息をついて言った。
「そういう風に思われないために僕の正体は伏せていたんだが……まさか、QPと佐紀にはめられるとはね。」
「最悪よ、あんた……!」
「考えてみなよ。世界が滅べば70億人が死ぬんだよ?たった9人の犠牲で世界は救われるというのに……」
「数の問題じゃない!」
「話は平行線だね……でも、君の本心はそうじゃないだろ?僕の事を最悪と思いつつも、僕をまだ愛しているはずだ。だからここに来たんだろう?」
曲は顔を伏せ黙り込んだ。
利士はニヤリと笑い言った。
「さぁ、六学 曲!共に世界を救おう!これからは神の伴侶として生きるんだ!それが君の望みだ!そうだろう?」
曲は指輪を外しガンマンの姿に代わった。
銃口を利士に向ける。
利士は慌てて言った。
「なっ、何の冗談だい?」
「冗談じゃない。博和君、あなたを撃つ。」
「有り得ないよ!僕を殺せば世界は滅ぶんだよ!それに君は愛しい人を殺すというのか!?できるわけがない!」
曲は笑顔で言った。
「ねぇ、博和君は知ってる?ストーカーの話。」
「はっ?突然、何だい?」
「ストーカーってね、愛しさの余り相手を殺しちゃうんだって。」
「よすんだ……」
「あたしはそんな奴とは違うって思っていた。ストーカーなんかじゃないって。」
「よすんだ……」
「でもあたしはやっぱりストーカーだったみたい。」
「よすんだ!曲!」
「愛しているから殺します!あなたを!これがストーカーの愛し方です!」
曲の姿がガンマンの姿からウエディングドレスに変わった。
銃の引き金を引き、タンっと銃声が響いた。
利士は額を撃ち抜かれその場に崩れ落ちた。
曲は構えていた腕を投げ捨て、つぶやいた。
「ごめん、蒼さん……あたしは世界を救えなかった。だってあたしは正義の味方じゃなくてただのストーカーだもん。あははは……」
表情は笑顔のままであったが、その瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
勝者――六学 曲。
世界を滅ぼす。
ゲーム終了。