消音ユニット、装備できました。
ピアノの消音装置、というものが世の中にはある。もともとは電子ピアノ、つまり鍵盤型電子楽器(いわゆるキーボード)から派生した製品だと思う。
そも電子楽器には他の古典的物理楽器(そんな言葉ありません。俺の造語です)とは明確に異なる点がある。
エネルギーである電気が供給されないと、音すら出ない、というのがまず一点。初めから共鳴などの仕組みを考えていない、入力装置としての弦や鍵盤や打面、吹き口しか装備してない。
そして、たいていの場合ビルトインされていないから、スピーカーなどの出力装置を接続しないと起動していても一切音が出ない。当たり前だがスピーカーそのものに発音や演奏の機能はない。目と脳と手が別パーツ、みたいなものだ。
つまり、楽器のシステムとして考えると結構大掛かりなものなのだ。給電のインフラが整っていない環境では、演奏すらままならない。ただ、物理楽器だって可搬性だけを利点にしたものばかりじゃない。鍵盤楽器は基本的に据物だ。教会のオルガンに限らず、チェンバロやピアノだって「設置できる」程度の可搬性を有するに過ぎない。著名な演奏家だってたいていの場合「ボクのピアノ」をホールに持ち込むことはない。と思う。それができるくらいの世界的権威もいるかもだが、逆に言えばそういう「アラブの金持ちのお買い物」みたいなケースでしか運ばないものだ。
それに多くの楽器は気候の変動に敏感だ。温度湿度に影響を受けない楽器はあまりない。金管とかは少ないんだろうか。でもピアノはもろにその影響を受けるタイプの楽器だ。現在ヤマハを初め日本製のピアノは機構的に評価が高いそうなのだが、それはつまり「多湿かつ気候変動が激しい日本の環境でまともに働く精度を目指したら、地球上のどこでもまともに鳴らせる楽器ができてしまった」ということなんだそうで(笑)。
面白いことに、電子楽器というのは(技術的進化を通じて)そういう物理楽器のデメリットを補うような利点を持つに至った。
高機能化するとともに小型化を可能にし(これは前述のモジュールとしての分化も関与はしてる)、同じシステム構成なら同じ音が常に出る。そして、音量そのものを簡単にコントロールできる。そして、イヤホン、ヘッドホンという神の道具が供されるに至る。昔話の魔法の道具のようなものだ。「自在に音色を変え、一人で合奏を可能にし、その音を届ける人を自在に選べる、自分にしか聞こえないようにすらできる楽器」。
先月あたりから、隣家の様子が気になるようになった。一応練習を始めるにあたってお詫びと挨拶をしたのだが、だからと言って雑音が心地よくなるわけではない。タッチミスだけでなく腰の引けた演奏、同じパートの繰り返し、何より自分の望まない時間に自分の望むジャンルと限らない音楽が聞こえてくる不快感はあると思う。夜勤など、勤務形態と休息のタイミングも多様化してる。
休日の昼間に弱音ペダル踏み込んで遠慮しいしい弾いてると、なんかドタンバタン聞こえてくるんだよ。窓開けたり。秋口でまだ窓閉めきれなかったりした時期でもあったし。それで後装式の消音ユニットについて調べ始めた。これはいわば電子ピアノの機構部をモジュール化して、ピアノに組み込む仕組みらしい。メリットもデメリットもある。
メリット
音量コントロールができる。全く音を消してヘッドホンで弾ける。
わざわざ電子ピアノを別買いしなくて済む。あれはあれで結構かさばりそうだ。
本来のピアノを利用する分キータッチは違和感がない。
デメリット
説明を聞く分だと、元のピアノに干渉するから性能や耐久度に幾分の低下、不可逆な不具合が起きる可能性はある。
値段は決して安くない。ざっと見ると15万程度に別途取り付け費がかかる。よく調べると5万程度の安価な品もないわけではないがそれに取り付け費を加えると8〜10万の出費は最低限覚悟しなくてはならない。下手をすれば20万くらいになりかねない。ひー。
一方で安価な電子ピアノは実売3万5千円くらいからある。
悩んだ。
情報収集を重ねるうちに、えらい掘り出し物の情報を見つけることになる。K社の製品で、有名メーカーのアップライトピアノ、とある機種対応限定商品。工賃込みでざっくり六万円。
引っ掛けか、と警戒する。しかしこのメーカーは電子楽器製造では定評のある老舗メーカーだ。さらに調べると対応する(結構旧製品のピアノだ)メーカーとは財務的に関連がとても深いらしい。パイプが太いということは「勝手に開発したアイデア商品」ではない可能性が高い、ということだ。
でもなあ、「お金かかるものなんです」と理解した商品としては、異様に安いんだよなあ。
しばらく逡巡したが、腹を括った。購入を決め手続きを…あれ?地域限定?関東圏と近畿圏限定?よそは出張費がかかる可能性がある??
メーカーに問い合わせてみた。しばらくして返事をもらえた。自社から直売だと技術者が出張の形になるのだが、とある大手楽器店チェーンにこの商品は供給している、と。よければそちらにおつなぎいたします、と。是非にとお願いしてみた。
色々と手続きを踏み、一度扱いのあるという楽器店にも足を運び、手配をお願いすることにした。
これを書いてる今日からだと二週間前になる。午前中結構早い時間に調律師さん来訪。エンジニアじゃなく調律師なんだな、とまず驚いた。イケメンの調律師さんは気さくな人で、いろいろな疑問に答えてくれた。
まず、ピアノメーカーの純正品に比べてもこの製品は機能的に優れているところがある、ということ。純正品は打鍵の情報を得るために機構に触れる必要があってキータッチにも若干の影響を与えてしまうが、こちらの方式だとそれがないため弾いてる感覚に全く変化がない、将来的に機械的寿命が来ても取り外し、交換時のピアノ側へのストレスが少ない。電子機器であるため、どうしても10年くらいで交換の時期は訪れる可能性が高い。それを見越した設計にはなっている、とのこと。
また、なんでこんなに安いのかにも答えがあった。
もともと取り付け対応機種になっているピアノはメーカーのベストセラーとも言えるモデルで、たくさん世に出ているのだそうだ。それこそ専用機を作ってもペイできるくらいだ、ということらしい。
そして、専用機だという所以は主にパッケージングの問題であるらしい。いわゆる汎用機は、様々なメーカーや型番に対応するため、限られたモデルにしか使わない部品が同梱されていたり、現地での部品加工(サイズをカットしたり、ビス穴を開けたり、開口部を作ったり)の必要があったりする。それを省くことで製品自体の単価も取り付け技術料も軽減できる、とのこと。
じっさい、汎用機に比べて2〜3時間も早くできるらしい。
機構部自体は(ローコストモデルと同等だが)ひとまわり価格の高い汎用機と同等なのだそうだ。
けっして、怪しげなコストダウンモデルではないのだ、としっかり理解できた。
当日はかなり寒い日で、エアコンもない部屋でご苦労をかけてしまった。思い立ってオイルヒーターを持って行ったが、足しになったかどうか。
昼過ぎには作業終了。あっけない感じもしたが、事前に調律してもらってあったのも時間短縮に預かっていたらしい。
彼が辞した後でひとしきり弾いてみる。楽しい。
外を気にすることなく、ガンガン弾ける。初めての音は結構リアルだ。音色を変えられるそうで、ストリングスでドラクエ風とか、パイプオルガンで白色彗星のテーマとか弾いてみたり(笑)。気がついてたら暗くなっていた。
さあこれから毎日弾くぞう、とか思ってたら…翌日から業務激増で残業の日々(笑)。さすがに11時帰宅でピアノに向き合う元気は得られず。それが明けたら今度はだらけてしまってせっかくあるのに触りもしない。けしからんことです。
それも過ぎ、徐々に練習も始めている。一度始めると一時間くらい。苦手にしている部分を重点的にやっている。ヘッドホンを変えると意外なくらい音質が変わる、というのも興味深い発見だった。調律師さんが言うには、外付けのスピーカーを活用するユーザーが多いのだそうだ。宣伝ではヘッドホンを使う絵が多いが、やはりストレス溜まるし、無音というほどでなくても音量を絞って外に音を出す方が周りにも自分にも負担がなくて便利だ、ということだそうだ。
いずれ試してみようと思う。今の所不便には感じていないからいいや、とも思うのだが、「一時間で区切りにしている」感覚の根っこが実は「一時間でヘッドホンうっとおしくなってるから(無意識に)」という可能性もある。まあそうなると電源確保とか安価とはいえまたなんか買わなならんのかというのもあるし。
とりあえず、弾いてます。
だんだん弾けてないところ、間違うところが増えてきてます。
弾けるようになっていい気になれる部分より、落ち込んだり悪態ついたりする部分の方がどんどん増えてます。
悔しいです。
でも不思議なことに、嫌にはならないんです。
教室でアドバイスを下さる先生の実践的な指導も耳に沁みます。
ただ楽しい、ていうのともちょっと違う感覚。
もうちょっと続けます。