残塁は“悪”か - 得失点を増減させる“王道”とは何か | Peanuts & Crackerjack

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【このエントリーの主旨】


さて、まずはじめに。

このエントリーでは一昨日のエントリー、
指標RCBsPの展開・考察・限界、そして今後の展望①

そして続く昨日のエントリー、
指標RCBsPの展開・考察・限界、そして今後の展望②

にてRCBsPを算出していく過程で

ライオンズの2010年~2012年の各シーズン、オフェンス・ディフェンス共に
アウトの数がほぼ一定であることは当然のことであるとして

その上で残塁の数もある程度の幅はあってもほぼ一定であると言ってよく
また必然的に総打席数と総得点数との間に非常に強い正の相関関係を観ることができたことに着目し

それがまずは過去にさかのぼって144試合制(モデルケースとして3,888アウトを奪う制度)となった
2007年から昨2012年シーズンまでの計6シーズンを観ても同じことが言えるかを検証し

続いて更にその範囲を拡大して2007年~2012年シーズンの
NPBの全12チームのそれぞれオフェンス・ディフェンスについても

同じように総打席数と総得点数との間に
強い正の相関関係が見られるかについても検証していくことで

得点を増やしていくためには、そして逆に失点を減らしていくためには

残塁を減らし効率よく走者を生還させたり、
逆に走者を数多く背負おうとも数多く残塁させるといった
“効率”に主眼を置くよりも

むしろ残塁を恐れず、また後悔し憎むのではなく
とにかくひたすら出塁数を数多く積み重ね増加させていくことで

チーム全体の総打席数を一つひとつ積み重ね増加させていくといった
“総量”に主眼を置くことこそ

はるかに重要な、そして優先順位のはるかに高い戦略、
つまり王道であること
を導きだしていきます。

そして最後に、経過はそれぞれランダムで
イニングやゲームごとに大きな偏りがあるとしても

結果的に、確率として、得点はある一定の残塁数を積み重ねた上に
更に積み重ねていった出塁数に等しい
、ということが言えるのならば

モデルケースとして、目安として
1ゲームあたりだいたい平均何個の残塁数を積み重ねたならば
それ以上の上澄みの出塁数がそのまま得点数として反映されていくものなのかを

わかりやすく、できるだけ単純化して示していきます。

なお、このエントリーで定義する「出塁」とは
【アウトを奪われることなく一塁以遠に進塁していくこと】であり

もちろん四死球や失策による出塁は含めますが
野選によって先行する走者がアウトとなるかわりに自らは出塁する、というケースは
ここでは「出塁」には含めません。

また、ライオンズの2009年シーズン以前のデータおよび
NPBのライオンズ以外の11チームのデータについては

えるてんさんがプロ野球 ヌルデータ置き場にて集計なさったものを利用させていただきました。

この場を借りて改めて心より御礼申し上げます。


【きっかけは、このデータから】


さて、それでは早速ですがまずはこの考察をしていこうと思った
きっかけ、動機となったデータから観ていただきたいと思います。

$Peanuts & Crackerjack-PLATE_APPEARANCES_LIONS_GAMES_2010-2012

わかりやすいように棒グラフで示した、
ライオンズの2010年~2012年シーズンのゲームにおける

それぞれの総打席数の推移とその内訳で
赤がアウト数、黄が残塁数、そして青が得点数です。

これを観ると、アウト数が3,800個台前半で
ほぼ一定数である
ことは当然のこととして

加えて、アウト数よりは多少振れ幅はあるものの
残塁数も1,000個付近~1,100個未満でほぼ一定数であると観察でき

そうなると結果として、得点数の増加と打席数の増加との間には
ほぼ1対1に近い非常に高い正の相関関係
が観てとれ、

つまりはある一定数以上の打席数を積み重ねていけば
それ以上の打席数はそのまま得点数へと変換できる、という仮説
が立てられます。

念のためもう少し、該当部分を拡大してみます。

$Peanuts & Crackerjack-PLATE_APPEARANCES_LIONS_GAMES2010-2012_EXTRACTED

拡大してみても、まずまず上記の仮説はあてはまっていそうです。


【続いて、散布図にて分析する】


それでは、続いて更に詳細に得点数と打席数との相関を観ていくために
上記グラフのデータを抽出し散布図にて観ていきます。

$Peanuts & Crackerjack-PA-RUN_LIONS_GAMES_2010-2012

はっきりいって、ここまで強い相関関係を観ることができるとは
予想していませんでした。

2012年シーズンこそオフェンス・ディフェンス共に
どちらもある程度“効率的”に得点を稼ぎ、失点を防いだといえますが

それでもR2乗値は0.8を超え0.9に届く勢い
また得点1点を増やすためには打席数を約1.37個増やす必要があるという
ほぼ1対1の非常に強い相関関係を観ることができます。

(※また、このグラフでは示していませんが
  2010年、2011年の2シーズンではR2乗値は驚異の0.9993を示しています)

さて次に、2012年ライオンズはオフェンス・ディフェンス共に
その前の2シーズンに比べて“効率的”に得点を稼ぎ失点を防いだと観てとれますが

それではそういった“効率的な”オフェンスやそしてディフェンスは
ある特定のチームの“特筆すべき、顕著な”特長として“持続的に”、
構築し確立しそして維持することは可能なのか
についてみていくべく

まずはデータを2010年~2012年の3シーズンから
144ゲーム制となった2007年から昨2012年の計6シーズン分計12個に増やし

同じように散布図にて観ていきたいと思います。

$Peanuts & Crackerjack-PA-RUN_LIONS_GAMES_2007-2012

このグラフを観ると、突出して“効率的”な2009年のディフェンスをはじめとして
2008年のオフェンス・ディフェンスなどある程度近似線から乖離したものも散見され

R2乗値も0.63程度に下がってしまいますが、だからといって
例えば2008年そして2009年の“効率的な”ディフェンスが
理想的でまたかつ持続可能かといえば

むしろ失点をある程度数多く喫していきながらも
なんとかかんとか青色吐息で失点を防いでいたという分析が妥当であり
とてもその2シーズンのディフェンスが理想的なものであるとは言い難く

また加えて、その2つこそその前後の2シーズンずつから大きく離れた
いわゆる“変異”と観てよく

やはり中長期的に持続安定して得点を数多く獲得し失点を数多く防いでいく
常にcontender、つまり“優勝争いに参加できる”チーム作りのためには

そのある程度強い、総打席数と総得点数との相関関係から観て

総打席数をいかに増加させそして減少させるかが
まず最優先課題として追求すべき命題であり


また総打席数がアウト数、残塁数、そして得点数へとほぼすべて分類されることから

つまりはそれはいかに出塁数を積み重ねていくかこそが
まず最優先課題として追求すべき命題である
ということへ言いかえることができます。


【NPB全体のデータで検証する】


さて、それでは最後にライオンズのゲームにおけるデータだけではなく
同じく144ゲーム制になった2007年から昨2012年シーズンにおいて

NPBに所属する全12チームのオフェンスおよびディフェンスの計24のデータにおいても
上記で観てきたような得点数と打席数との強い相関関係を観ることができるかについて

同じように散布図を用いて検証していきたいと思います。

まずは2007年~2012年の計6シーズンをまとめたデータから。

$Peanuts & Crackerjack-PA-RUN_NPB_GAMES_2007-2012

これを観ると、R2乗値も0.8ですし近似線の傾きも約1.2ほどですから

NPB全体としても、得点数と打席数との間にはほぼ1対1といっていい
まずまずとても強い相関関係を観ることができる
と言えます。

ちなみに以下参考までに、1シーズンごとに分割したNPBのデータを6つ、
同じ散布図グラフで羅列して観ていただきます。

Peanuts & Crackerjack-PA-RUN_NPB_GAMES_2012  Peanuts & Crackerjack-PA-RUN_NPB_GAMES_2011

Peanuts & Crackerjack-PA-RUN_NPB_GAMES_2010  Peanuts & Crackerjack-PA-RUN_NPB_GAMES_2009

Peanuts & Crackerjack-PA-RUN_NPB_GAMES_2008  Peanuts & Crackerjack-PA-RUN_NPB_GAMES_2007

なおライオンズのオフェンスは青色の丸、そして
ディフェンスは青色の三角のドットで示しております。


【まとめ】


このエントリーではライオンズの2010年~2012年の3シーズン分のデータから始まり
2007年~2012年シーズンの6シーズン分のデータ、そして
ライオンズだけではなくNPB全体のデータを観ていきながら

そのいずれにおいても得点数と打席数の間には
ほぼ1対1に近い非常に強い正の相関関係があり

結論として、より多くの得点を稼ぎ、そしてより多くの失点を防ぐためには
とにかく数多くの打席数を積み重ねまたは減らしていくことが重要である、

つまりどれだけ出塁を積み重ね積み重ねられるかが
何にもまして非常に重要な要素である
ということが観てとれました。

非常に単純化して述べるならば

144ゲーム制の1シーズンにおいて、アウトは平均3,839個
2007年~2012年シーズンのNPBのデータ散布図においてy切片は約4,735なのですから

得点数と打席数が1対1対応であるとみれば残塁数は約900個ほどで一定といってよく
残塁を約900個喫した上で更にその上に出塁を積み重ね打席数を増やしていった

いわゆる“上澄み”の部分の打席数がそのまま得点数へと繋がり変換される

こう言えそうです。

更に、野球=baseballのフィールドに立つ選手や首脳陣たちが
その勝負の最中においてもいつでも頭の片隅においておけるように

1ゲームごとに分けて誤解を恐れずに更に非常に単純化して言うならば

27個のアウトを奪い奪われゲームが終了するまでの間に
だいたい7個(6.2個)以上の残塁を積み重ねていけば、


(プロセスはもちろんランダムであり、またもちろんゲームごとにある程度偏りはありますが)
それ以降に出塁した選手はすべからく生還し得点を記録する、

つまりおおよそ34人の打者を打席に送りこめば
それ以上に打席に立つ選手たちはすべからく得点していく


こういうことが言えます。

こう観ていくならば、残塁を恐れることなく
とにかく出塁を積み重ねていくことこそ

得失点の増減につながる王道である
ことがほんとうによくわかります。

つまりは残塁は決して悪なのではなく
むしろ“necessary failure”-必要な失敗-として積極的に、肯定的に評価すべきである
といえ

勝負の場に臨む選手たちが常に最優先の“しごと”として心に留めておくべきは
何はなくともまずは出塁を奪うこと、そして出塁を防ぐことであり

その“総量”を増減させることをないがしろにして
とにかく走者を本塁に生還さえさせれば、またさせなければそれでいい、という
“効率”だけを重視することは非常に危険な、大きな過ちである
ということです。

特にディフェンスにおいて、どれだけ塁上に走者を賑わせたとしても
そこでとにかく本塁へと生還させなければいい


そのため走者を得点圏に背負った緊迫の場面だけいつも以上の自分の能力を出して
走者を数多く残塁させていけばいい、という考え方・姿勢は大きな誤り

むしろ“事前にそういった緊迫の場面へとつながる芽を摘んでしまう”、
つまり出塁を防ぐことこそ最大限・最優先に取り組むべき課題
であり

例えば特に長いイニングを消化していく必要のある先発投手などに観られるように
いつもいつも自分の最大限の能力を発揮するのは難しいということなのであれば

むしろイニングの先頭打者の出塁を全力を持って確実に防いでいくことこそ
失点を防いでいくためには非常に理にかなった戦略である
ということです。


【留意点・後記】


最後に、ではそれだけ出塁することが得点に重要なのであれば
犠打や進塁打、そして盗塁企図など出塁を犠牲にして、またリスクをおかして
走者を進塁させることは限りなくムダに近いのか
といえば

それは違う、ということを留意点として述べておきたいと思います。

この、得点は一定の残塁数を超えた出塁数の上澄みである、という結論は

ちょうどBABIPが統計的におおよそ一定の値に収束していくのは
選抜せずにどんな選手でも同じようにその値に収束するのではないことと同じように

1つ1つのプレイにおいて、1点1点を獲得すべく
最大限の力を持ってまたある程度の犠牲を払って進塁していく中でこそ

この結論が導き出されていく、

つまり走者を進塁させるチャンスがあるならば、
もちろん迷わずリスクを冒しても犠牲を払ってもその“次の塁”を奪いにいく、

それは前提として決して変えることがない中で
出塁数を増やしていくことこそ重要である
ということです。

またもう1つ、この結論は144ゲーム制を前提としているため
1シーズンのゲーム数が変化した時にいったいどの部分がどう変化していくのかについては

残念ながらまったく今回の分析の範囲外であり
現在のところまったくわからない
、ということも
留意点として挙げておきます。