ミスは怠慢によってひきおこされるものか | Peanuts & Crackerjack

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【はじめに】


現地時間10/20にCardinalsの本拠地、St. LouisはBusch Stadiumで行われた
RangersとCardinalsによるワールド・シリーズの第2戦の9回表の攻防は

Rangersにとってはこれぞまさにスモール・ボールのお手本とも言うべき
非常に効率的な、スマートな得点の奪い方を魅せてくれるものであり

一方でCardinalsにとってはこれぞまさにChess matchと言うにふさわしい
なんとか1点でも少なくと失点を防いでいき、最少失点にまとめようとする
名将Tony LaRussaの早め早めの大胆な決断による救援投手起用を魅せてくれるものでした。



以下、2-1でリードを許してのRangersの9回表の攻撃を
テキストで時系列に沿ってプレイごとに並べていき、振り返っていきます。

  ① 投手交代:Marc Rzepczynski投手に代わりクローザー、Jason Motte投手(右投げ)がマウンドに上がり
           打順はLance Berkman右翼手に代わり4番に入ります。

  ② 守備交代:Marc Rzepczynski投手に代わりSkip Schumaker選手が9番に入り
           右翼手として守りにつきます。

  ③ Ian Kinsler選手がRafael Furcal遊撃手の頭をフラフラっと超す
     ポップアップの打球で単打を放ち一塁に出塁します。

  ④ Elvis Andrus選手の打席時にIan Kinsler選手が二塁への盗塁に成功します。

  ⑤ Elvis Andrus選手がラインドライヴ系の打球を右中間に放ち単打で出塁します。

  ⑥ その際ランナーであるIan Kinsler選手は三塁へ進塁し、本塁を伺おうとしますが
     打球を捕球したJon Jay中堅手が本塁方向へ送球するのを見て三塁で留まります。

  ⑦ そのJon Jay中堅手の送球が本塁方向から三塁方向へ逸れ、
     cutoff manであるAlbert Pujols一塁手が捕球できずにグラヴからこぼれ
     (※このプレイでAlbert Pujols一塁手には失策が記録されました)
     送球の勢いが弱まったのを見てElvis Andrus選手は二塁へ進塁します。

  ⑧ 投手交代:Tony LaRussa監督がマウンドへ行き、次打者がJosh Hamilton(左打者)であることから
           Jason Motte投手(右投げ)に代わりArthur Rhodes投手(左投げ)を起用、
           打順は同じく4番に入ります。

  ⑨ Josh Hamilton選手がSkip Schumaker右翼手へと犠牲フライを打ちます。
     Ian Kinsler選手が生還し2-2の同点に追い付きます。Elvis Andrus選手も三塁へ進塁します。

  ⑩ 投手交代:次打者がMichael Young選手(右打者)であることから
           Arthur Rhodes投手(左投げ)に代わりLance Lynn投手(右投げ)を起用、
           打順は同じく4番に入ります。

  ⑪ Michael Young選手がJon Jay中堅手へと犠牲フライを打ちます。
     Elvis Andrus選手が生還し、2-3と逆転に成功します。

  ⑫ Adrian Beltre選手がDaniel Descalso三塁手へとグラウンドボールを打ち
     Albert Pujols一塁手へと送球されアウトとなります。

このように12個の投手交代も含めたプレイ、動きがあったこの9回表ですが
きっちり痛打ではじき返した安打はElvis Andrus選手の単打だけで

あとは盗塁、相手のミスをついた走塁、そして犠牲フライ2本で2点をもぎ取り
みごと逆転することに成功したRangersのこれぞスモール・ボールという攻撃は素晴らしいものでしたが

逆に、この9回表に逆転を許したCardinalsの選手にとっては
結果として非常に数多くの疑問を投げかけられ、また批判や議論の対象となる、
そんなプレイを数多く残したイニングとなりました。

それはおおきくわけて3点に絞られており

まずは第一点のLaRussa監督による投手交代が
果たして適切なものであったかという疑問であり

そして第二点のIan Kinsler選手の盗塁において
Yadier Molina捕手から素晴らしい送球が二塁ベース上に届いたにもかかわらず
Rafael Furcal遊撃手の位置取りの悪さからtagが遅れたことで
盗塁を許してしまうというミスがあったということ、

そして最後に第三点としてにおける、本塁への送球の中継に入った
Albert Pujols一塁手の位置取りは適切なものであったのか、また
グラヴに当てたため失策が彼に記録されたものの
逆転のランナーとなるElvis Andrus選手の二塁進塁は
彼の責任とすべきものなのか、そしてそもそもなぜその進塁を許してしまったのか

というところになると思います。

さて、ここではこのワールド・シリーズという栄えある大舞台において
あと3アウトを取れればこのゲームの勝利を掴み取ることができるものの
先頭打者から当たり損ないの打球で安打を、出塁を許したという

Cardinalsの選手たちにとってはこれ以上ないと言っていい緊迫の場面で起きた
第二点、第三点で取り上げたFurcal遊撃手、Pujols一塁手の“ミス”について

MLB Networkの分析・解説を紹介しながら
その因果関係を中心に詳しく観ていきたいと思います。


【Furcal遊撃手の“ミス”について】






簡単にまとめてしまえば、Molina捕手の送球はほんとうに素晴らしいもので
いつも通りFurcal遊撃手が冷静に、落ち着いて二塁ベースをまたいで送球を待ち
“長くボールを旅させて”捕球し、垂直にtagしていればアウトになっていたということであり

そこから当然の疑問として浮かび上がるのが
もちろん長年MLBで遊撃手として活躍してきたFurcal選手だけに

そんな基本中の基本はよく知っており、身体にも沁み込んでいるはずなのに
なぜこの非常に重要な大一番の、緊迫の場面でそれを忘れてミスを犯してしまうのか、ということ。

このプレイの原因として挙げられるのが、そういった大一番の緊迫の場面だからこそ
絶対に自分のプレイで、自分たちの思い描いたように100%アウトにとりたいと願う、

強い想いや願いからもたらされる過度の集中つまりオーヴァーヒート、そして焦り

昨日紹介しました、西岡選手の大怪我の分析・解説動画を改めてご覧ください。
動画の中でも触れられている通り、彼も通常の心理状態であれば

あそこまでしゃにむに、自分の体に迫る危険を忘れるほど過度に集中し、視野が狭まって
しゃにむにダブルプレイを完成させにいこうとカチコチになることはなかったでしょうが

その前のダブルプレイを完成させるチャンスで一塁手への送球が1ホップし
一塁手が捕球しきれずに一塁に走者を残し、ダブルプレイ・リレーに失敗したことがあり

まだまだこれから実績を1から積み重ねていき評価を積み重ねていかなくてはならない
MLBではルーキーにすぎない彼が、そのプレイを一塁手の捕球ミスも含め

すべて自分の責任だ、絶対にスグに取り返さなくてはならないと
過度に自分の両肩のみに自ら背負わせてしまったこと

いつもでは到底考えられない

走者がダブルプレイを阻止すべく自分に向かって
すごい勢いで突っ込んでくることをまるで無視したかのような

自分の最大の資本である身体に対する大きなリスクを回避することが
アタマからまったく抜け落ちたような危険なプレイへと導いたと言えます。

で、この西岡選手のプレイでもダブルプレイを絶対に自分のプレイで、
自分たちの思い描いたように100%完成させたいと願う強い想いからもたらされる
過度の集中からもたらされるオーヴァーヒート、そして焦りがあり

そのことが、送球をそれが二塁ベース上に到達するまで“長くボールを旅させる”という
このプレイにおける基本中の基本を忘れさせ、

一刻も早く捕球し送球しなくてはと思うがあまり
自ら【送球を迎えに行く】という大きなミスを犯してしまっており

つまりは、それがここでとりあげているFurcal遊撃手の心理状況と、
そしてそれによってひきおこされたいつもではありえない、大きなミスとに
非常に似通っている、と言えるものだということです。


【Pujols一塁手の“ミス”について】






まずはじめに、Pujols一塁手のカットオフ・マンとしての位置取りについて、

Jay中堅手が打球を捕球した位置がほとんど右中間の真ん中であったことから
その位置と本塁を結ぶ直線の上に実際Pujols選手はいたわけですから
彼の位置取りは適切なものであったと言えること。

つまりはグラヴに送球を当ててしまったことで、結果的に
Andrus選手の二塁進塁はPujols選手の捕球ミスによる失策と記録されましたが

その責任の大部分はJay中堅手の送球が大きく
三塁方向へと逸れたことに帰すべきであるということ。

そして、その事実を踏まえた上で更に詳細にこの一連のプレイを観ていくと
そこには素晴らしい守備能力を誇るPujols一塁手だからこそ
陥ってしまった“不運”があったことも浮かび上がってきます。

それをわかりやすく説明するためにも
まずはこの素晴らしい、彼ならではのプレイを観てほしいと思います。



このプレイも今シーズンのプレイオフの
CardinalsとPhilliesとの間で行われたNational League Division Seriesの第4戦
(Phillies 2勝・Cardinals 1勝、あと1勝でPhilliesが勝ちぬくという一戦)、

それも3-2でCardinalsリードで迎えた6回表のPhilliesの攻撃、
0アウト1塁にUtley選手を置いてフルカウントからランナーが走り
(つまりPhilliesがRun&HItまたはHit&Run戦術を採用した中で)

Pence選手の放った打球を処理する、というまさに緊迫の場面で魅せてくれた
Pujols選手のほんとうに視野の広い、素晴らしいプレイなのです。

つまりはPujols選手は常に視野を広く保ち、常にランナーの進塁状況などの
その時点時点でのフィールド全体の状況を俯瞰して観察することのできる
素晴らしい選手であるということをまずアタマに置いておいてください。

その上で、この“ミス”のプレイを観ていくならば
Pujols選手はこの場面、決められた通りの位置取りにただ向かうだけではなく

常に、特に最も本塁に近い走者であるKinsler選手の位置を観ながら移動し
Kinsler選手が三塁を大幅にオーヴァーランしたことを視野に入れ

よし、これなら送球を捕球してスグに三塁手へ送球すれば
Kinsler選手を三塁で刺してアウトにとることができる、と判断しただろうということ。

そして、その判断は非常に的確な判断であり
実際ものごとが適切に進んでいったならばKinsler選手を三塁で刺すことに成功し

1アウト1塁で1点リードのまま、という
両チームにとってそれこそ現実と天と地ほどの差がある状況を創り出すことのできる

まさに上で述べた、NLDS第4戦でPujols一塁手自身が魅せたものと同じような
素晴らしいプレイを魅せることができただろうということ。

ただし、Pujols選手にとって不運だったのは
NLDS第4戦ではFurcal遊撃手からの送球は非常に捕球しやすい
いつも通りの素晴らしいものであったのに対し

今回のJay中堅手からの送球は彼の想定外、思いもしないような方向へ逸れる
非常に捕球しにくい送球であったため

捕球してスグ三塁へ送球してアウトを奪うどころか
捕球しきれずにグラヴからこぼれ、一塁走者の二塁進塁まで許してしまったこと。

もしPujols一塁手がそこまで広い視野をもたない、
“一般的な”一塁手だった場合どうだったか。

恐らく、Kinsler選手が大幅に三塁をオーヴァーランしており
自分が捕球して即送球すればアウトだ、なんてことには
興味の優先順位はかなり低く、観察しようともせず気づかず

ずっとJay中堅手の送球だけを集中しすぎるほど集中して見つめ続けるでしょうから
その送球が大きく逸れたとしてもそれにいち早く気づきカヴァーしようとしますから

少なくともグラヴからはじいてその勢いを殺してしまっての
一塁走者の二塁進塁までは許さなかったのではないかと予測できます

こう考えると、この一連のPujols一塁手の“失策”と記録されたプレイは
それこそ逆説的に、彼が素晴らしく広い視野を誇る、
超一流の守備力を持つ一塁手だからこそ犯してしまった

まさに“不運な”ものだったと言えます。


【まとめ】


以上、主にワールド・シリーズ第2戦の9回表における
2つのいわゆる“ミス”と言われるプレイについて

なぜその重要な、緊迫の場面でそのリーグで長いキャリアを誇る一流選手が
いつも通りのプレイを魅せることができないかについて詳しく観てきましたが

1つは過度の集中によりオーヴァーヒートし視野が極端に狭まり
いつもの冷静さやリラックスした状態での広い視野を失ったため

焦りがおき、基本を忘れて身体が勝手に反応してしまったことによるものであり

もう1つは失策まで記録されてしまったプレイであるものの
実際は当該選手にとっては基本的に落ち度はなく、またその上で

逆にいつも通りの冷静で、リラックスした状態を保ち
広い視野を維持し続けることのできる素晴らしい超一流選手だからこそおこってしまった

まさに“不運”だとしか言いようがないプレイであったことがわかりました。

このように、アマチュアとは違い常に多くの観客の前でプレイし続けるプロフェッショナル
特にその重要と目される緊迫の一戦においては常時凄まじい緊張状態にあり

よくミスの原因としてあげられる“怠慢”-つまり集中力を欠いた状態-とは
似ても似つかない、ある意味真逆の精神状態の中でプレイし続けているのですから

まずは逆にいかにしてその過度の緊張状態-いわゆるオーヴァーヒート-を解きほぐし
身体がカチコチに凝り固まって動きが鈍くなる状態を脱却し

いつも通り基本に忠実に、冷静に、そして適度な集中力を維持したままリラックスして
広い視野を保ったまま1つ1つのプレイに臨んでいけるかが非常に重要になります。

またそれと同じくらい重要なことは

どんなにその選手にとって、またチームにとって非常に重要な、
ともすると絶対に“ここは100%ものにしなければならないプレイだ”と思いがちな場面でも

その強い想いや願いをまるであざ笑うかのような
(もちろんそれ自体非常に一方的な、主観的なものの見方ですが)、
そんな結果が“運悪く”“不運にも”残ってしまうことも数多くあり

それを誰か特定の選手や首脳陣の責任にすべて帰してしまい
彼を地の底まで引きずり下ろすがごとく批判し続け、こきおろし続けること

“ひとにぎりの運”が非常に大きな、無視できないほど大きな要素を占める
野球、またbaseballという競技においてまったく的外れのものであるということ。

私たち観客は特に、アマチュアの頃の自分の経験をもとに、まったく疑いもせずに
すべてのミスの原因を集中力の欠如、緊張感の欠如に帰しがちですが

プロフェッショナルとして、数多くの観客の前で凄まじく高い緊張状態の中で
プレイし続ける選手たちは、それも特に重要と位置付けられる最高の緊迫の局面では

まず集中力・緊張共に足りないなどということはありえず
逆にそれらが自分の身体を蝕むほどに過剰にあり続けており

それを普段の、冷静でリラックスして難なく基本通りのプレイをこなせる状態まで
いかにしてうまく緩和し、押し下げていくかこそが実は課題なのだということ。

もちろん失敗を糧にし、多くの批判や非難を受け止めうまく受け流しながら
いかにして改善していくかを探し続けていくのは選手たち自身の担うべき責任であり

その辺りまで外野の観客が踏み込んで気を回し、
“理解してあげる”必要なんて当然、まったくないのですが

それでも毎ゲーム毎ゲーム自分の“応援する”はずのチームの首脳陣や選手たちに対し
その1つ1つの失敗をあげつらってはいつまでもねちねちと非難し続け

だから負け続けるんだ、だから順位が低いのだと怒り続けながら
それでも毎ゲーム球場で声を嗄らして叫び続け、また観戦し続ける方に関しては

もっと首脳陣の采配の“結果としての”失敗や選手のミスの1つ1つに対して
ご自身の健康のためにもぜひ冷静に、リラックスして
受け止めていってほしいと願ってやまない、ということです。

適度な集中力を、緊張状態を維持していきながら
選手も、首脳陣も、そして何より観客である私たちも

同じように、ぜひぜひ野球を、そしてbaseballを
存分に、心ゆくまで楽しみ尽くしていきたいものですね。