ストライク・ゾーンで勝負するということ Part2-1 | Peanuts & Crackerjack

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<Part2:“勝つ”野球から“魅せる”野球へ、その歴史の変遷>


[ Part2-1:“勝つ”野球の発展、それは戦後日本の急成長の象徴 ]


NPBの歴史を定義づけしてきたのは、それこそ戦後の日本社会と同じく
いち早くアメリカ合衆国(つまりはMLB)に追いつくこと、という概念でした。

助っ人としてやってくる“ガイコクジン”の並はずれた体格とゲームで魅せる常識外のパワー、
これに対して急には改善しようもない、圧倒的な体格差・パワー差のある日本人選手
どうやって戦いを挑み、対等に勝ったり負けたりを繰り返すことができるほどになっていくか。

そういった非常に的確な現状認識から生み出されたのが

≪≪“当てる(=コンタクトする)打撃”“ストライク・ゾーンからボールへと変化していく投球”≫≫

という以後長年にわたりNPB支配していく2つのコンセプトなのです。


【“当てる”打撃と“三振は最大の悪”】


  パワーの劣る、長打の望めない日本人打者は徹底して投球に対しまずは絶対にバットに当てること、
  決してフライボールではなく野手のいない“穴”を狙ってひたすら転がし
  そして何なら打撃の途中であっても走り出し、全力疾走で1塁を目指しながら足をからめて
  相手投手を含めた守備陣のエラーやら動揺イライラやらをも期待しつつ出塁することが求められました。

ここでは最大の悪は三振(特に見逃し三振)すること、何故ならそれは何物をも生み出さないからということで

  四球についてはバットを短く持って体勢を崩されようがとにかく追いかけ
  食らいつき当てていきファウルでかわしつつ
  相手投手の根負け、つまり明らかに大きく外れたボール球を待つというものでした。


【ボール・ゾーンへ逃げていく投球、そして“打者を選ぶ”投球】


そして、その中で投手たちはどういう戦略で失点を防いでいくかというと
当然“当てさせない”ということが最重要課題なわけですから

当然バットにかすりもしないほどの凄まじい変化を見せる球種で
ストライク・ゾーンからボールへと逃げていく投球を武器とすることになります。

それはまた、きっちり振って(=スウィングして)くる並はずれたパワーという才能を持つ
“ガイコクジン”、そして非常に限られた非凡な(王選手、長嶋選手を筆頭とする)一握りの日本人選手に対しても
非常に有効な戦略でした。

  当然まともにストライク・ゾーンで勝負しないわけですから、
  “当たらなければ飛ばない”のコトバが示す通りそのパワーを発揮させることも急激におさえられる。

  また、そんなバッターは一握りしかいないわけですから
  もしその投手心理を読まれて四球をだしても問題なく、

  ある意味敬遠と同じ形で塁に出して
  次の一般的な、非力な“当ててくる”打者とボールの投球で勝負すればよいと打者を選ぶこともできる。

  逆に振ってくるバッターは当然長打こそ自分の存在価値なわけですから
  あまりにも毎打席毎打席、半ば勝負をしてもらえないことが続けば
  根負けして少々ボールの投球でも強引に振りに行って打とうと焦りがち
  結局はそれこそボールの投球で勝負する投手の術中にはまってしまう。


【“勝つ”野球の残した素晴らしい実績と先送りした大きな課題】


そうやって当てる打撃とボールの投球
戦後日本社会の類をみない急激な発展と軌跡を同じくするかのように急激に発展していき、

その良くも悪くも“ガラパゴス”的な微に入り細に入った
コーチから選手へと一子相伝的に受け継がれる秘術、秘伝に近い“技術”
目覚ましい発展をとげ野球界細部にわたるまでまんべんなく浸透

今や世界大会などでも屈辱的な大敗続きとか、そういった姿はまずお目にかかることはなく
対等に勝ち負けのできるまでになり、十二分に一流国のなかまいりを果たすことができました。

ただし、根本的な問題、矛盾は未解決のままであることも一方で重要な事実なのです。

それは、結局野球は相手より1点でも多く得点を挙げたほうが勝利するというそのルール上
いくら当てて転がして走ったところで、そんな打者のみでラインアップを組んだとしても

結局長いシーズンを通して戦い抜く中で得点力不足貧打は否めず
どうしても長打の期待できる打者は必要不可欠であり、

  運よく状況に応じて“当てる”打撃にも適応できる貴重な“ガイコクジン”にあたったり

  またドラフトで指名したパワーの才能の片鱗を見せる“一握りの”自前の若者が
  百戦錬磨のベテラン投手たちの“かわす”投球相手につぶされることなく立派に乗り越えて順調に成長し
  うまく状況に応じて当てる打撃振る打撃使い分けるようになり
  これまた運よくその貴重な主砲が自分の所属する組織絶対の忠誠を誓いFA移籍権を放棄しない限り

結局は攻撃陣のラインアップの中心は

毎年毎年代わる代わる連れてくる、ブンブン振りまわしてはNPBの投手たちに手玉に取られ
極度の不振に陥り去っていく可能性の高い“ガイコクジン”を据えざるをえないか

比較的裕福な"big-market team"であればNPBで経験を積み、
ボールの投球で勝負してくるという試練に対しみごと乗り越え経験実績を積み重ねてきた
他チームの“ガイコクジン”や貴重な一握りの日本人の主砲をFAで獲得し続けるしかないのです。


・・・さて、そんな素晴らしい実績を誇り永遠に続くかのようなこの世の春を謳歌していた
“勝つ”野球がどのようにしてその絶対的地位を脅かされていくようになっていくのか。

次回の連載ではそのあたりを詳しく見ていきたいと思っております。

(※次回連載は5月27日金曜日を予定しております)