ストライク・ゾーンで勝負するということ Part3 | Peanuts & Crackerjack

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Dedicated to the Saitama Seibu Lions organization and its players, baseball itself, and those who want to know what counts most in a given situation you are in and to make right decisions in a confident manner everytime. May the 'dose of luck' be with you!



<Part3:“魅せる”野球の中で投手たちに必要な発想の転換とアプローチ>


現在、だんだんとボールの投球で勝負する投手は思ったような成績を残せなくなりつつあり
おそらく将来はもっとその傾向が強まると予測できます。

実は先発投手たちの球数を減らす取り組みもこの文脈で本来捉えるべきものです。

それはつまり単純にゲームの中で100球を超えてくれば疲労がたまるから、という議論だけでなく
むしろ大事なのは如何にしてムダなボールの投球を減らし、常に投手有利なカウントを維持し
相手打者たちに満足に思うような“振る”打撃をさせずに凡打を繰り返させるか
ということで

その取り組みをしっかりと理解し、自分なりにきっちりと実践できているかが
その投手の投球数の多寡に如実に反映されるものだということ。

投手の投球の【目的】はあくまで最少失点にまとめながらできるだけ長いイニングを消化することであり
そのための【手段】としてストライク・ゾーンで勝負すること、そして四死球をなくすこと、が存在します。

そこを理解できずにただ単に首脳陣に言われたから、というだけで
手段だけをひたすら従順に盲目的に守ろうとしたところで、かえって制球を乱して痛打を浴び
打たれたくない、という恐怖心がますます強まって自分の思うような投球から遠ざかる危険性が高いと言えます。

では、ストライク・ゾーンに投げ、
それでなおかつきっちりとアウトを積み重ねていくためにはどうすればよいか。



【1. “美しい直球(ストレート)”概念信仰から脱却せよ】


  まずはわかっていても空振りをとれる、または打ち損じを誘発できるような
  “自分だけの軌道を持つ”素晴らしいスピンのかかった、かつ優れた球速“速球”をどんどん磨いていくこと。

  要は打者のバットのを少しでもいいから外せばいいわけですから

  そろそろ芸術的“美しい”けれど皆同じ“直線”の軌道を持つという“直球(ストレート)”への信仰は捨て去り
  その投手独特のスピンから放たれるクセのある独自の軌道をもつ“動く速球”を数種類投げることを
  優先課題の1つとして明確に意識に置くべきでしょう。

  それは4シームだの2シームだのと大きく分類できるものでなくともよいのです。
  ほんのちょっとだけ、握りをずらすだけでもその投手にとって非常に有効な武器になるのです。


【2. ストライク・ゾーンを三次元的にとらえ、その空間をフルに利用せよ】


  これまでのように一次元的に、打者の内角低め外角低めコーナー、それもギリギリの“端”をかすめる
  ある意味芸術的な投球は少しでも手元が狂えば非常に継続するのが困難で、
  また審判がストライクのコールをしないリスクもあります。

  そんなことに労力を費やすのはまったくナンセンスであって
  むしろ目指すべきはストライク・ゾーンを大まかないくつかの“部分”に分けてとらえその全体をフルに利用
  ストライク・ゾーンの真ん中付近だけは避けながら
  そのおおよその“部分”には高確率で投球が到達するだけの制球力だけは磨きつつ

  速球の威力を増すことによって高めで勝負できるようにして高低を駆使し二次元的に、
  更にカーヴチェンジアップなどに代表される
  速球との球速差の非常に大きな球種を織り交ぜて緩急をつけ三次元的に、

  広く、そして奥行きを深く使っていく制球球種を磨いていくことこそ投手の武器になるものでしょう。

  これは、メリハリの非常にはっきりした投球をするということですから
  おそらく将来的にはいわゆる“半速球”といわれる球種(例えばスライダー)は
  一方でその速度を速球にどんどん近づけてカッターに限りなく近づいていき
  もう一方で逆にその速度を大幅に減少させてカーヴに限りなく近づいていくといった
  大きくニ方向にどんどん収斂されていき、淘汰されていくのではないかと予想できます。


【3. コンセプトを噛み砕き深く理解した上に成り立つ自らの“実践”に対する自信と精神的強靭さ】


  一番初めDruckerのことばに戻りますが
  結局こういった革新イノヴェーションに必要不可欠な唯一無二の条件は“真摯さ”であるということ。

  どれだけ既存の“ボールで勝負する”という概念に対し

  自分たち一人ひとりが、野球というフィールド
  数多くの観客を魅了することのできるプレイを安定して発揮していくという
  自分の“成功”のため
という強い意識を持って、そして情熱を持って立ち向かっていき

  試行錯誤を頑固なまでに続けることができるかこそが

  このイノヴェーションが成功するか、失敗するかを分ける大きな分水嶺になることでしょう。

そして、これは以前も述べましたが投手陣だけが挑戦するイノヴェーションではないのです。

初球から積極的に振ることを大方針としているライオンズの攻撃陣も
その“振る”打撃をうまく高い確率で成功させていくために

逆に如何にして自分たち一人ひとりが相手投手の投球に対しその都度状況に応じてアプローチを選択
打者有利なカウントや状況を作り出していくか、その結果として出塁率を上げていくか、

これこそ今の彼らが“真摯さ”をもってとりくむべき目標であると考えます。

そして投手陣攻撃陣が双方のアプローチをチーム内で共有していくことによって
この“ストライク・ゾーンで勝負すること”という概念に対するチームとしての理解が相乗的により深く浸透していき

そこからまた新たなイノヴェーションのヒントが芽生えてくることでしょう。


【最後に、ライオンズがこれからも“魅せる”野球を率先して貫くことを祈念して】


プロフェッショナル野球選手とは一人ひとりが個人として自立した個人事業主です。
チームがああだからこうだから、監督やコーチといった首脳陣の指導がこうだから、ではなく

自らがこのフィールドで長きにわたって素晴らしい一流の成績安定して残し続け活躍していくために
“自分が”何を目標として設定し、理解し学び、何を実践していくかこそが重要な課題であるはず。

すべては自分のために、つまり
自分が多くの観客を魅了しその喜びを自分のものとして分かちつつ
このフィールドで生き残り、長年にわたって活躍し成功するため

まず自らがどん欲に、そして真摯に生存競争に立ち向かっていくこと。

その姿勢だけは、決して失わないでほしいと願うと共に

そのためにも首脳陣にはある意味冷酷な一面を持つ競争原理
徹底的にうまく働かせ続けてほしいと願っております。

≪終≫