ストライク・ゾーンで勝負するということ Part2-2 | Peanuts & Crackerjack

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<Part2:“勝つ”野球から“魅せる”野球へ、その歴史の変遷>


[ Part2-2:成熟し多様化する日本と“魅せる”野球へのシフト ]


【NPB人気の陰り、再編の危機と“魅せる”野球】


子供の将来なりたい職業と言えばプロ野球選手
スポーツと言えば野球、中でも読売ジャイアンツが憧れの的。

平日の夕方と言えばビール片手のお父さんを中心とした“お茶の間”
テレビに映っているのはジャイアンツのゲームで、
ゲーム終了まで延々他の番組を押しのけて放映され続ける。

こんな、まさにこの世の春を謳歌していた野球
日本社会が成熟し、生活様式や好みが多様化していく中で

その絶対的な地位を維持していくことは次第次第に困難になっていきます。

パ・リーグであってもジャイアンツおんぶにだっこであったものが
2004年のプロ野球再編危機をひとつの大きなきっかけとして

次第に“勝つ”ことを至上命題とする野球から徐々に
優先順位のトップに“魅せる”ことを据える野球へとシフトしていくことになります。

特にリーグ存続の危機、そして球団の合併新球団の誕生
その渦の中心にいたパ・リーグの球団、選手たちの危機意識は否応なく高まり

それが地域密着型経営へと、そしてMLB型の“魅せる”野球へと
既存の堅牢な“慣習”で固められた業界
イノベーションが生まれる土台を作ったといえるでしょう。

そして、それは“当てる”野球から“振る”野球へのシフトを可能にし

ファイターズHillman監督やマリーンズValentine監督などを中心にした
MLB流のOPSに基づく野球をNPBに適用することを可能にするものでした。


【OPSの概念は“振る”打撃のもとでこそ、その力を発揮する指標】


OPSとは、“OBP(出塁率)プラスSLG(長打率)”という概念で成り立つものですが

これはそれまでのNPBの根幹をなす“当てる”打撃のもとでは
まったくと言っていいほど意味をなさない評価指標です。

“当てる”打撃のもとでは
ほとんどのNPB所属選手にとって打率こそが唯一絶対無二の評価指標であり、

あとは“ガイコクジン”一握りの才能ある経験豊富な日本人主砲の評価指標のために
本塁打数打点数があるという、その3つの評価指標だけでじゅうぶん足りていました。

  当てて転がして走って、という打撃では

  一塁線や三塁線を抜かない限り二塁打以上の長打はまず望めず長打率は不要
  そして四球にしてもそれは“積極的に奪う”というものではなく
  むしろ際どいところを粘ってファウルにしつつ相手投手の失投を期待するという消極的なもの
  それは打率の下がる可能性の高い、まともに打っていっては安打にすることの難しい打席で
  四球をもらうことによってその打席を“消す”ことで打率を維持、向上させることを主眼とするもので
  打率さえあれば出塁率も無用の長物の指標といえます。

“魅せる”野球への転換とともに
“振る”打撃がどんどんと日の目を浴び、主流を掴んでいこうという中だからこそ

OPSという指標は適切な選手の評価指標となり、
またその指標に基づいた攻撃の戦略が意味をなすということはとても重要なポイントであり

  私はセ・リーグはまったくといっていいほど無知ですが
  おそらくスワローズ古田監督カープBrown監督などの
  OPSに基づいた戦略が思ったように実を結ばなかったのは

  まだまだセ・リーグでは“当てる”打撃が厳然たる主流派の力を持っていたからではないかと
  こう推測しておりますが、この検証についてはまた別の機会があれば、ということで置いておいて、

注目すべきは、非常に直感的に理解しやすい長打率と“振る”打撃や“魅せる”野球との関連性ではなく
一見その関連性が見えづらい出塁率とそれらとの関係についてです。

“振る”打撃弱点は、“当てる”打撃の概念の出発点がそこにあったように
既にNPBでもその黎明期から明白なものでした。

それは、一言でいえば
“何物をも生み出さないと最も嫌われてきた“三振”を喫する可能性が非常に高まる”
ということです。

それに対しOBP(=出塁率)の概念はどう答えるか。


【OBP(=出塁率)の概念とはただ単に出塁することを意味するものではない】


結論からいえば、出塁率の概念の真髄

ただ単純に四球を選ぶとか、出塁するとかいったものだけではなく
チームとして“初球から積極的に”“振る”打撃とセットで取り組み、

≪≪ストライク・ゾーンで勝負せざるを得ないバッター有利のカウントや状況を作り出すこと≫≫

そして、そのカウントを作り出しておいて投球に対しきっちりと振りぬき長打を狙うこと、
ここにあるということです。

ここでは、空振り三振もそして見逃し三振でさえもどうしようもない最悪の結果ではなく
“よりバッターに有利なカウントや状況を作るための手段”としてある一定の価値を与えており

特にボールの投球を武器とする投手に対しては絶大の効果を誇ります。

  以下、簡単な例としてボールの投球で勝負する投手“当てる”打者および“振る”打者
  0ボール2ストライクからの攻防をわかりやすく見てみましょう。

  当てる打撃であれば、三振を最も嫌いますから
  することは非常にシンプルです。

    ゾーンの甘いところは当然打ち返すとして
    際どいコースへの投球はすべて追いかけ食らいついてバットに当てファウルにすること。
    そして、相手投手の明らかな失投を待ってそれが甘いところならば打ち返し
    大きく外れるならばボールを稼いで四球につなげる。

  対して振る打撃ならばどうするか。

    0-2:相手投手はボールの投球で勝負してくるのでストライクはまず来ない。
        0-2と追い込んでから打たれるのを非常に嫌うだろうから
        ボールの投球にしてもかなり大きく明らかに外してくることが予想される。
        ならば、制球を大きく乱してゾーンの甘いところに来る投球だけを待てばよい。

        もし投球がゾーンのコーナーを突くような素晴らしい投球ならば見逃し三振でも構わない

    1-2:ここでの投球が相手投手の勝負球になるだろう。
        相手投手はボールの投球で勝負してくるだろうから
        その投手の持つボールの投球になる球種を大きくアタマにイメージして
        それだけは追いかけて当てようとせずにボールカウントを増やすことを一番の優先課題にしよう。
  
        同じく、ここでゾーンの中で勝負する球が来るならばそれが素晴らしい投球ならば見逃し三振OK
        またむやみやたらと振りまわさずにコンパクトに振りぬいてファウルにしよう。

    2-2:同じく、投球は相手投手の勝負球になるだろう。
        これまでのゲーム状況や自分との勝負の経緯、力関係等から見て
        ここでももう1球同じ球で勝負してくると予測するならば1-2の時と同じ準備で投球を迎える。

        そうではなく、相手が3-2にすることを嫌がると予測するのであれば
        ここでストライク・ゾーンに甘めに来る球をイメージし、積極的に“振る”打撃をしよう。

    3-2:おそらく、四球を嫌がり投球がストライク・ゾーンに甘めにくるだろうから
        積極的に、ミスショットせずに“振りぬく”ことを心がけよう。

        ただし、状況的に四球を与えてでも相手投手が打たれたくないような状況と判断するならば
        これまでどおり、1-2の時と同じような準備で投球を迎えよう。


  もちろん、上述のような単純なアプローチだけで事足りるわけでは現実は決してなく
  ゲームの状況自分とその前後の打者のここまでの成績相手投手の成績
  ここまでの自分に対する配球など、様々なことを考慮に入れて
  打席で自ら判断しアプローチを決定する必要があることは言うまでもないことですが

  つまりは状況に応じて、その1つの打席における三振を極度に恐れることなく
  ゲームやシーズンを通して、また個人だけではなく攻撃陣のすべての打席のといった長期的視点の中で

  いかにして相手投手たちがストライク・ゾーンで勝負せざるを得ないカウントや状況を作り出し
  自分がしっかり振りぬき、イメージ通り球を遠くへ飛ばす打撃を可能にするかということを
  最優先に考え、実行に移すということ。

三振を恐れなければ、相手投手に追い込まれたカウントや状況の中でも
しっかり自分の状況判断の中で逆に相手投手を追い込んでいき、
自分に有利なカウントや状況を作り出していくことも十分可能である。

こう考えれば、初球からどんどん積極的に振っていくスタイル出塁率を高めることとは
まったく矛盾することではなく、むしろうまく相乗効果で素晴らしい結果を残せていくもの。

  追い込まれて三振を喫するという恐怖から逃げるということではなく
  余裕を持って打席に立つことができ積極的に初球から自分の振る打撃ができ

  また、打ちそこなってカウントが深まっていったとしても
  初球と同じような、また場合によってはそれよりはるかに自らに有利なカウント・状況を作り出し
  リラックスして投球をミスショットなく振りぬき、長打につなげることに成功することも可能です。

言うならば、出塁率はどれだけその打者が、そしてそのチームの攻撃陣が
きっちりと“振る”ことができる状況を作り出せるように一人ひとりが考え、判断し
そしてアプローチし実践し、成功しているかを測る指標である
ということです。

これは芸術的な、一子相伝的秘術にも近い当てて食らいつく打撃よりも

ある意味誰でもがその状況判断と論理的な思考でもってたどり着くことのできる範囲内のものです。

  ファイターズ2ストライク・アプローチ
  マリーンズ三振も多いが四球も多いという打席での忍耐強さを印象付ける攻撃陣。

OBP-出塁率という概念をもってくることによって
いかにして打者不利とされるカウントや状況を打開し逆に打者有利のカウントや状況を作り出すか、
そして“振る”打撃をいかに可能にしより高い確率で成功に結び付けるか。

そこにはチーム全体としての深い戦略理解度があらわれています。


【ボールの投球で勝負する投手たちの苦悩とエースたちの誕生】


このように打席における打者たちの戦略理解度が深まり、
どんどんと状況状況でそれにあわせた打撃をとってくるようになると

一番苦しいのはこれまでどおりボールの投球で勝負する投手たち。

  これまでであれば実はそんなにスピードスピン制球も一流でない投球でも
  ボールに逃げていく投球である程度追っかけさせ、当てさせ転がさせる中で長打だけは避けつつ
  一流とは言えない結果であってもまあまあ何とか及第点の成績をおさめることができた投手たちが

  ボールの投球を見逃され、際どいコースを振ってもらえずまたストライクにとってもらえず
  四球を連発し、球数がかさみ、塁上にランナーを賑わせたところで
  ストライク・ゾーンで勝負をせずにいられなくなり
  みごとに痛い長打を浴び、うまくごまかしがきかず散々な成績を残してしまう。

こういった打席での打者たちの洗練されたアプローチ
相手投手たちをストライク・ゾーンでの勝負に否応なく引きずりこむもの

ある意味冷酷に

一級品のスピードスピン、そして制球をもつエース、クローザー級の素晴らしい活躍を見せる投手たち
逆にそこまでの投球ができずに、ごまかしがきかずにハッキリと成績を下降させ戦力外通告を受ける投手たちへと

大きく2つにハッキリと分けていくものとなったのでした。


・・・さて、順を追ってNPBの歴史をみていきましたが

次回の連載では、投手たちがストライク・ゾーンで勝負しつつ
なおかつキッチリと一流と評価される素晴らしい結果を残していくためには

どんな、“より洗練された投球アプローチ”が必要なのかについて
詳しく見ていきたいと思います。

(※次回連載は5月30日月曜日を予定しております)