時をさかのぼること50年以上前。
1954年9月29日、
New York Giants の本拠地 Polo Grounds では
その年のワールド・シリーズ第1戦が行われていました。
8回表、2対2の同点で迎えた Cleveland Indians の攻撃。
0アウト1、2塁の絶好の勝ち越しチャンスで
打者の放った打球は大飛球となってグングン伸びていきます。
しかし、 Giants 中堅手の Willie Mays は
その頭上を抜けようかという大飛球に対し
一直線に背走しながら追いかけ、みごと
肩越しに落下してくる打球を捕球し得点を防いだのです。
これが今でもMLBで "The catch" として語り継がれる
スーパー・ファイン・プレイ。
"football"(アメリカン・フットボール)が
アメリカ合衆国では baseball 以上に人気のスポーツで
MLBにドラフトされる選手たちも高校・大学時代には
エースQBだったりと baseball と football の
2足のわらじをはいていた例も珍しくありません。
この "The catch" ももちろんそれ自体が難易度の高い
素晴らしいプレイであることに間違いないのですが
over the shoulder catch - つまり
背中の方面から矢のようなスピードで迫ってくるボールを
全力で背走しながらちょうど肩ごしに落下してくる瞬間に
うまくキャッチするこのプレイ、
普通ならば胸の前に大きなカゴでもなければ
キャッチすることのできないボールであることから
"basket catch" とも言われるものですが
これこそアメリカン・フットボールのゲームにおいて
QBが投げる乾坤一擲のロング・パスを
全速力で背走するWRが華麗にキャッチし
一気に得点に向け陣地を前進させるといった
一番の花形プレイを彷彿とさせるもので
だからこそアメリカ合衆国では
他のどんなファイン・プレイよりも
最も称賛されるものであるといえるでしょう。
さてさて、前置きがとっても長くなってしまいましたが
今日のスプリング・トレーニングでイチロー選手が
The(=“あの”) catch を彷彿とさせるような
素晴らしいプレイを披露してくれました。
映像はこちらからどうぞ。
もちろん、Willie Mays の The catch 以来
MLBでこの種の over the shoulder catch が
今回で初めてというわけではなく、例えば
Rays の B.J.Upton 選手が去年やっておりますし
(※映像はこちらからどうぞ)
実はイチロー選手も2008年にやって魅せてくれています
(※映像はこちらからどうぞ)。
ただ、今回のプレイが上で紹介した2つのプレイより
難易度が高く、the catch に近いと言えるのは
打球にドライヴ回転がかかっておらず
ほんとうに一直線に頭の上を越そうかという打球であること。
ドライヴ回転がかかっていれば、
打球がバットから離れてからしばらくの間
外野手は背走しながらも右か左に首を振って
その打球のゆくえを見ることができ
最後だけ頭の真上を見ながらキャッチ、でいいのですが
打球が外野手とホーム・プレートを結ぶ直線を
ほぼなぞって飛び、その延長線上に落下しようかという場合
外野手は打球のゆくえを見ながら背走することはムリなのです。
イチロー選手のことばをお借りしますと・・・
まっすぐ一直線に背走するイメージですね。
少しでも打球を見ようと右もしくは左に回ると捕球できない。
ですから打球が飛んできたらまずはどこに打球が落ちてくるかをイメージし
打球は目で追わずにその地点目指して一直線に向かい、
そしてその後頭上を見上げ頭を越そうかという打球を確認するという順番ですね。
(※ソースの記事はこちら)
そして更には今回のプレイが The catch を越えるかという点は
①落下してくる打球ではなく
ライナーで鋭く追い越そうかという打球を
ジャンプしながら飛び込んで捕球していること。
②慣れない球場のフェンスが目の前ということで
とっさに着地と同時に足を滑らせることで
頭からフェンスに衝突することを回避するということ。
この辺りの判断はイチロー選手曰く
“瞬間の判断ですから考える暇なんてありませんよ。
自然にカラダを任せるだけですね。”
だそう。
つまりはこういった素晴らしいプレイという
“瞬間”を魅せることを可能にするものは
一見遊びに見えるお得意の“背面キャッチ”を含めた
日ごろのトレーニング、準備であるということ。
素晴らしいプレイとは
その瞬間にいろいろ考えたり迷ったりと
小手先だけでなんとか対応しようと思っても
到底できるものではないということ。
日ごろのフィジカル&メンタル・トレーニングにおいて
やってきていないこと、できていないことは
いくらノドから手が出るほど目の前の結果がほしくとも
小手先の工夫なんかでは決してできるものではなく、
むしろかえって今まで培ってきたことまで
すべてを台無しにしてしまうという
最悪の結果を招く可能性も高いということ。
だからこそ結果がほしいと思うならば
逆説的に聞こえるかもしれませんが
目の前の結果に一喜一憂することなく
まわりのそんな声に浮かれ落ち込むことなく
自分の思い描く最高のプレイを
ゲームの瞬間瞬間で最大限発揮できるよう
その瞬間の自分をイメージしながら
日ごろのトレーニングに励むことなのでしょう。