「うおお…」
「…すげえ…」
「…」
土曜になり、3人が会場でまず始めに吐いた率直な感想。
圧倒的だった。
周りの観客たちの熱、息もつけないような人の集まり、そして何より、その観客たちを熱狂させているステージ上のアーティスト達。
3人は言葉を失った。
ただ遊びで、時間を潰せたらいいとまで思っていた3人は、演奏活動が一度休止される夜になってから初めて言葉を交わすことができた。
「…すごかったね」
最初に口を開いたのは藍羅だった。
「…ああ」
それに陸人が相槌を打つ。
2人の口は重く開かれたが、決して暗い意味ではなく、むしろ少し楽しそうに聞こえる。
「そうだ!」
「うおいっ!?何だよ!びっくりさせんなよ!」
今まで黙り込んでいた千種が、急に大きな声をあげて立ち上がる。
「俺たちもやろうぜ!」
「…何をだよ」
そう言う陸人の顔は笑っている。
これから千種が何を言おうとしているのか、もうわかっているようだった。
「【自主規制】だよ!」
「えっ!?何言ってんのこの人!?」
「ダメ!それはこの物語にはふさわしくないわ!」
「失礼、間違えた」
「…折角の名シーンをお前…」
テイク2入ります。
「…何をだよ」
そう言う陸人の顔は笑っている。
これから千種が何を言おうとしているのか、もうわかっているようだった。
「バンドだよ!今度は俺らが!見る側じゃなくて演奏する側になって!」
普段から煩悩まみれではあるとは言え、千種は大人しいほうの部類だ。
そんな千種が珍しく声をあげて言う意見に、反対する理由などなかった。
「うん、いいんじゃない?私たちを見せてあげましょうよ!」
千種と同じように立ち上がり、自らの意気込みを叫ぶ藍羅。
「…よし!やるか!5年後には日本中をオレらって言うブーケにしてやろうぜ!」
「いや、結婚式で投げられたらたまったもんじゃないし」
×ブーケ。○ブーム。
「と、ともかく!やってやろうぜ!」
「「おう!」」
最後に陸人が立ち上がり、今ここに新たなバンドグループが生まれた。
このグループが後に日本中を歓喜させる大バンドになるとは、今はまだ誰も知らなかった。