夏フェスの翌日の日曜日。
今日も夏フェスは開催されていたが、3人は早く活動を始めたい一心から早めに帰り、藍羅の家に集合することにしたのだった。
「さて…今日は家に来てくれてありがとう!」
自宅と言うことでこの場は藍羅が仕切る。
「…まあ、俺はわりかし家が近いからいいけど…」
「ハア…ハア…む、むちゃくちゃ疲れた…」
陸人の家は歩いてすぐのところにあるが、千種だけは中学校まで学区が違い、隣町に家があるため、歩いて1時間もかかってしまう。
必然、普段運動をしない千種は移動でほぼ全体力を使い果たしてしまう。
「ハア…はっ!」
「ん?どした?」
「いや…帰りもこれくらい疲れなきゃなのかと思うと…」
「まあまあ、オレンジジュースでも飲んで元気出しなさい」
そう言って千種の近くにオレンジジュースを置く藍羅。
さて、と話を続ける。
「今日はバンドを始める上で重要なパート決めをしたいと思うの」
「なるほど、確かに重要だな」
バンドを始めてもパートが区切られなきゃ練習しようがない。
「じゃあ、さっそくだけど決めましょう。まずは…」
すると先ほどまで息を切らしながらオレンジジュースを飲んでいた千種が甦る。
「はいはい!俺ベースやりたい!」
「うおっ!何だ急に…まあ俺は別にいいけど…藍羅は?」
「んーアタシも他のやりたいからいいよ?」
こうして千種は正ベーシストとなった。
「何かあっさり決まったな…藍羅、次は?」
「そうねー…あ、陸人アンタダンサーとかどう?」
「何でバンドにダンサーだよ…」
「陸人、いいことを教えてやろう。ダンサーはダンサーでも、ストリップダンサーは全裸が許されるんだぜ?」
「俺が常日頃脱ぎたがってるようないいかたすんなよ!」
「え?違うの?」
「藍羅まで!?」
「…まあ陸人は変態ってことで…アタシギターやりたいんだけど…」
「ひどい扱いだな、俺…え?俺もやりたいんだが」
ここで初心者バンドによくあるギターの取り合い勃発。
「オレがやんの!」
「アタシよ!」
「オレ!」
「アタシ!」
「オレ!」
「アタシ!」
「…てゆーかさ」
「「何っ!?」」
完全に2人がハモり、その上怒り気味に言うのだから、千種はどうもやりづらい。
「い、いや…別にギターは2人でもいいんじゃない?リードとリズムがあるくらいだし…」
この意見は最もであったが、今の今までヒートアップしていた2人はその熱をどこにやったらいいかわからず、どうしようもない空気が流れる。
「…ま、まあそれでいいならいいんじゃないか…?それより、ドラムはどうするんだ?」
微妙な空気を打ち破るべく、千種が新たな論点を提示する。
「…確かに、ドラム不在は痛いな…どうする?藍羅」
「…そうね…まあでも掛け持ちできるほどアタシ達できるわけじゃないから、明日からスカウトするしかないんじゃない?」
「そうか…それもそうだな。よし、じゃあ取りあえずは決まったな!」
当面の問題を解消し、楽器は後日3人で購入することを決めた。
「これから細かい問題が出てくるかもだけど、そのときはそのときで決めていこうぜ!」
「そうね…じゃあ今日はこれで解散ね」
「…ボーカルも決めなきゃじゃないか?」
「あ、それなんだけど、やっぱ歌唱力が必要だと思うんだ」
「…何を至極当然のことを…まあ、カラオケとかで決めたほうが無難ね。今度行きましょう?」
「おーす。了解」
「よし、藍羅、去り際にいつもどおりパンツを見せてくれ」
「見せるかぁー!!!」
小学校時代、元空手部の天才少女と呼ばれた藍羅の本格的な飛び蹴りが千種にクリーンヒットし、藍羅の部屋(2階)の窓から転落する。
ガシャーンと音をたて、庭の草に横たわる。
それを陸人と藍羅は見て
「…今後こういうことのないようにしよう」
千種の亡骸に合掌して誓うのであった。
ともあれ、今日のところはこれで解散し(千種は気絶している)、本格的な活動がこれから始まる。
「…千種の家までおぶっていくのか…?」
陸人の千種を届ける任務も、始まる。