「お願いします!永井先生!」
教務室にいた永井を呼び、顧問になるように頼み込む藍羅。
永井は痩せて背の高い、典型的なもやし体型だったが、顔は年齢にそぐわぬイケメンで(あの事件があるまで)人気があった。
また、40歳という年を感じられないような風貌であったが、元気さはなく、むしろ生気を何かに奪い取られているようにも見えた。
「Ah…?何ですか君たちは…」
「【Sleeping Lion】というバンドグループです。活動許可を得るために、顧問になってください」
バンド、という言葉を聞いて少し反応する…反応したように見える。
だが、表情は変わらず会話を続ける。
「そうですか…残念ですが私はSTT部(さくらんぼのたねとばし)の顧問ですので…ほら、言うじゃないですか、『画龍も木から落ちる』って…」
「『画龍点睛』と『猿も木から落ちる』な」
竜が高いところから落ちてきたら大変なことになる。
その上このシチュエーションで言う言葉だろうか?
「…そうですか…でもダメなものはダメです」
きっぱりと断る永井。
「…先生ー質問!」
ここまで沈黙を貫いていた陸人が初めて口を開く。
永井は何も答えなかったが、陸人は言葉を続ける。
「『…この大根で何をするつもりであったか、言え!』」
その言葉を聞いた永井はカッ!っと目を見開き、ワナワナと体を震わせてある言葉をつぶやく。
「…ベース…ベースを…」
その言葉を聞いた千種が陸人と目を合わせ、混乱したようにベースを渡す。
その瞬間永井は先刻とは別人のようになった。
気迫で満ちた目と、堂々とした態度。
極めつけは…
「おまえらああああ!!!大根なめてんじゃねえぞおおおお!!!大根はなあああ!!おでんにも使えるし切り干し大根にも味噌汁にも使える超究極最強の野菜なんだよおおお!!!大・根こそ大正義!つーわけでいくぞおおおお!!聞いてくれ!!!!『DAIKON太鼓』!!!!!AHHHHHHHHHH!!!!!メンバーがいねええええええ!!!!??????」
どういうことだー!と叫ぶ永井をよそに、藍羅たち3人は陸人にどうしたのか尋ねる。
「いや、この間永井先生がギターとか持ったバンドっぽい人たちと会ってるのを目撃したんだ」
「それがどうしてこんなことに?」
「俺は、もしかしたら永井先生はバンドを組んでたんじゃないかと思って、『走れるのか?メロス』の一文を読んだだけだ」
「…なんで『走れるのか?メロス』?」
「…さっき永井先生を呼んだ時に、教卓の上に何冊かおいてあったんだ。何か関係あるんだろうが、詳しくはわからん」
「…よくそれだけで決断できたな…」
『走れるのか?メロス』『永井のバンドグループ』…そして『大根』には何らかの関係がある。
そういう目測の元、真相を確かめるため、永井が落ち着くのを待った。
しばらくして、永井が落ち着くと、4人は永井に事情を聞いた。
「…俺は12年前まで『Theマキシマム大根』っていうバンドグループにいたんだ」
「…大根?」
永井がポツポツと話し始める。
途中岬が反応するが、「気にしないで下さい」と言うことだったので、会話は続く。
しかし何か引っかかるものがあるらしい。
「…俺もお前らと同じようにバンドを組んで楽しんでいた。…ある事件があるまではな…」
「ある事件?…『京都・金閣寺ホワイト事件』か?」
「いや…そんなもんじゃない。あれは忘れもしない、12年前の12月…俺はバンドのメンバーと一緒に音楽雑誌を買いにいったんだ」
俯いて回想を始める。
思い出したくない過去らしい。
「…そこには大根を片手にもった『走れるのか?メロス』のファンが暴動を起こしていたんだ。何故かはわかんがな。…バンド名からもわかるように、俺らは大根に強い誇りを持っていた。そんな俺らの中でも一番大根に対する思いが強かったボーカル…俺の彼女は…そいつらにかかっていったんだ」
「…(色々突っ込みたいが、何かやりづらいな)」
「あいつは、暴動連中に言ったんだ。『大根はそんなことのためにあるんじゃない。』…だが連中は何も言わずに…大根で俺の彼女…奈美を殴りつけたんだ」
「(彼女まともなのか何なのかわからなくなってきた…)」
「(…ギャグじゃない…のよね?)」
「当然奈美は倒れて、病院に運ばれた。だけど…あいつは二度と俺らと一緒にバンドができなくなった…」
部屋に訪れる静寂。
「それから俺はバンドをやめて、学生時代にとっていた教員免許で教師になった…」
シリアス(?)な雰囲気。
『大根』というワードでここまで暗い雰囲気になるのか…と岬は内心驚いている。
「…なら、一緒にやりませんか?」
「…なんだと?」
藍羅が永井に誘いをかける。
「おい藍羅…」
「千種は黙ってて」
陸人は藍羅の顔をみた。
いつもの、ふざけているような藍羅の姿はなく、真剣な表情で永井を見つめていた。
「…ふっ、はっはっは!面白い!こんな俺に誘いをかけてくるとはな…」
静寂を打ち破り、永井が笑い出す。
…これは仲間になるフラグ!?
「…やってくれるんですか?先生」
陸人と同じことを思ったのか、千種が声に出して永井に問う。
「…いや、誘いはありがたいが、流石に無理だ。俺はやるべきことができた」
そう言うや否や、永井はカバンから封筒を取り出し、どこかへと走り去ってしまった。
「「「「…??」」」」
4人は奇怪な永井の行動に疑問を抱きながら、延々と待たされることになった。