この自殺は、黒木さんが一昨年から追いかけていた岩手の女子殺害事件との関わりを抜きには語れません。この事件を追う過程で黒木さんは物理的にも精神的にも追い詰められていったといえます。2008年に岩手で女性が殺害された事件を追いかけるうちに、黒木さんは、警察の見立てたストーリーが全く間違っていることをつきとめ、捜査の見直しを強く求めていたのです。警察は被害女性の知人で行方不明になった男性を容疑者だとして指名手配したのですが、黒木さんによるとその男性も被害者で既に殺害されている可能性が高いというものでした。その男性の親は、捜査も進まぬうちに息子が殺人犯として公開され、「生き地獄」のような状況に置かれるのですが、黒木さんはそういう状況に憤りを持ち、殺害された女性の遺族と、指名手配された男性の家族とともに、捜査の見直しと真相究明を掲げて、署名運動や警察・行政への申し入れを繰り返します。岩手県へ多い時は月に何回も出かける生活になったのです。

 ところが残念ながら、黒木さんの訴えにも関わらず、警察は誤りを認めず、権力を監視すべき新聞・テレビも警察を恐れてこの問題をほとんど取り上げないという状況が続きました。黒木さんはフリーのジャーナリストですから、取材や署名運動に費やした経費はかさみ、生活も圧迫するようになっていったのです。『週刊朝日』などに何度か署名記事でこの事件を執筆しましたが、そのくらいでは追いつかなかったようです。地元の新聞・テレビがほとんど動かないことも黒木さんをおおいに失望させました。