いよいよ検診が始まることになって、ふと衛生兵の机の上を見ると、慰安婦の名前の上に、「兵隊用」「軍属用」と書かれてある。
「これ、どういうこと?」
「ああ、これか。兵隊用は朝鮮人、軍属用は台湾人だとよー」
その衛生兵は、なげやりな言い方でそう言った。
「まあ、まるで品物!」
私は顔をしかめ、ぶるぶるっと身ぶるいした。

(中略)

その夜、私はなかなか眠れなかった。死ぬような思いまでしてやってきた私には、あまりにも大きな衝撃だった。私は、何度も手で空を切り、けがらわしい想念をふり払おうと努めた。
それから毎木曜日、私は慰安婦検診の介助をつとめねばならなかった。


「慰安婦」とは

日本軍の管理下におかれ、無権利状態のまま一定の期間拘束され、将兵の性交の相手をさせられた女性たち(吉見義明氏による定義。岩波新書『従軍慰安婦』より)。1993年に内閣官房長官をつとめた河野洋平氏の「河野談話」によって、長期に広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したこと、慰安所が軍当局の要請により設営されたものであることを、日本政府は認めている。

2015.02 No.280