「お~い、獏ちゃん始まんぞー!」
オーナーがしゃがれた声でオレを呼んだ。
オレはオーナーの横、テロンテロンから見ればオーナーの1つ向こう隣に座った。
テロンテロンがとても大金が入っているとは思えない安っぽいバッグから
十字帯に銀行の割り印が押してある1000万円の束を3つ取り出しテーブルに置いた。
ディーラーを務めるGOLDのマネージャーが真面目な顔で言った。
「300枚ですね!?ありがとうございます!」
しかし3000万円のキャッシュを目の前にして真面目顔がいくぶん緩んでいる・・
黒服が鉄板300枚をテロンテロンの前に置いた。
それに代わり1000万円の束3つをキャスターに乗せて運ぶ。
テロンテロンの元をその金が離れたのを確認しオーナーが言った。
「なぁ兄ちゃん・・
昨日勝ち逃げはせーへんって言った手前ワシが受けなアカンことは解っとる。
せやからこのシャッフルは兄ちゃんが先に張ってくれればワシは黙って逆に張るわ。
そんでエエか?」
テロンテロンは無言で頷いた。
「その代わり最低でももう1回次のシャッフルは付き合ってや!
このシャッフルは気のある方に張れへんのやから
これでしまい言われたらワヤやで~そこだけお願いしとくわ!」
これには頷かなかった。
頷かなかったがオーナーは話を進める・・
「ワシからはそんだけや!
兄ちゃんの方から何もなかったら早速始めよか?」
「要するに勝ち逃げすんなっつーことだろ?
アンタの言う通りコレと次のシャッフルは勝っても負けても付き合うよ・・
その代わりその2回が終わったらオレのオレの意志で勝手に帰るけどイイんだな?」
「まぁ、そういうこっちゃ!
2回終われば遠慮なしに帰ってエエで。
勝っても負けてもワシはずっと付き合うつもりや!
ワシからやめる事はないさかいあんじょう頼むで・・」
「そっちの上限は!?
オレが1億張れば1億でも受けてくれんのか!?」
「そないなゼニどこにあんねん!
金貸しがナンボ出すんかにもよるわなぁ~?」
金融屋が声をかける。
「今日とこは1本までで堪忍したってください・・」
「よっしゃー!10億やな~!」
「頼みますわぁ10億ってー、ワシ殺されますやん・・」
テロンテロンがキャキャッと笑った。
「おっしゃー!ほんなら始めよか~?」
この1シャッフル目・・
テロンテロンは善戦した。
平均すれば1回500~1000万のBETで
中盤3000~4000万浮いている場面もあった。
結局、1シャッフル目はテロンテロンが2000万ほどの勝ちで終わった。
オレはほとんどBETせずルックした。
事前のミーティングでオーナーがこう言っていたからだ。
「獏ちゃんの出番は6UPを組んだカードがシューターに入ってからや!
それまでは遊んどってエエで!
本番はワシの逆に張るんや!
ワシの逆っちゅーことはテロンテロンと同じ目や!
ほんでテロンテロンと同じかそれ以上負ける・・
自分より負けがこんどる人間がおるんとおらんのとじゃアイツの思い切りが違てくる・・
昨日もそやったやろ?
バルさんがあんだけ派手に負けたから金融屋から4000も引っ張ったんやで!
自分より負けてるバルさんの存在がなければ手持ちの3000でしまいや・・
手持ちがなくなったらナンボでも金融屋がチップを持ってくるさかい派手に負けてや!」
2シャッフル目がスタートした。
その1ゲーム目・・
オーナーはバンカーに1000万円BET!
オレは目を疑った・・
このシャッフルは6UPを組んだカードが入っている。
オープンカードの最後に出たカードは絵札だった。
それならプレイヤーにBETしなければならない。
見間違えたのか・・!?
スグにわざと負けていることが解った。
10ゲームが終わったぐらいで2勝8敗・・
全てサインとは逆の方にBETしていたから当然と言えば当然の結果と言える。
オーナーが金融屋に声をかける・・
金融屋はスグやって来て
鉄板200枚が詰まった専用ケースをオーナーの前に置いた。
オーナーはそのケースをそのままバンカーにBET!
初めて6UPのサイン通りにBETした。
そこからオーナーのBETはそのケース全部になった。
中のチップは取りださない。
全て2000万円のBETである!
それを受けるテロンテロンは1シャッフル目と同様500~1000万のBET。
ペースを崩す素振りはない。
オレはバランスを取るべく1000~1500をテロンテロンと同じ側にBETする。
このシャッフルでちょうど半分を消化したあたり・・
オレの所に金融屋が3回目のケースを運んだ。
テーブルを離れようとしていた金融屋にテロンテロンが初めて声をかける・・
気がつかなかったがテロンテロンの手元には鉄板20~30枚が残っているだけだった。
概算で2700~2800万のマイナスのはずだ!
ここから1億・・これが今日の目標だ!
金融屋から今日初めてのバンスをしたテロンテロン。
ヤツの性格ならBETの額を上げてくるはず・・
ウマくいけばあと半分残ったこのシャッフルだけで終われるかもしれない・・
あと5000万は決して無理な数字じゃなかった。
オーナーも最初に見せた逆張りをすることは二度となかった。
全てサイン通り勝つ可能性が高い方にだけBETしてくる・・
当然テロンテロンは逆にしか張れない訳だがそれに文句を言うようなこともなかった。
しかし噛み合わせが悪い・・
オーナーもたまに負けるがその回のテロンテロンは大抵500のBET!
その代わり1000万、2000万円をBETしたゲームではほとんど負けていた。
オーナーが7割かそれ以上の勝率で
そこからおよそ40~50ゲームを消化したあたりでホワイトカードが出た。
ホワイトカードは
あと1ゲームでこのシャッフルのゲームが全て終了することを示している。
この時点でテロンテロンは金融屋から6000万円、3ケースのバンスをしていた。
手元には約100枚の鉄板が残っている・・
つまり手持ち以外で5000万円のマイナス。
1億の目標まであと5000万だ!
もちろん次の3シャッフル目も6UPが組まれたカードでの勝負だが
次の回はテロンテロンが最初にBETする番。
だから6UPもほとんど意味がない。
この2シャッフル目が始まる前、オレはこう考えていた。
オーナーが故意に負けた最初の10ゲームは失敗だったんじゃないか・・!?
そんな気がしていた・・
その勘が外れだったことはテロンテロンを見て知ることになった。
テロンテロンが金融屋を呼び手元に残った100枚ほどの鉄板を返してしまったのだ!
意外だった・・
オーナーもあっけにとられ何も声がかけられなかったようだ・・
意外ではあったが約束の2シャッフルを消化しての終了・・
誰も文句は言えない・・
オーナーがわざとらしく言った。
「よーしっ!ほんなら獏ちゃんサシで勝負やー!
男なら受けなアカンで~!」
テロンテロンがオーナーを見た。
キャキャッと声は出さなかったが笑っていた。
もしかしてイカサマに気付いたのかもしれない・・
オレは心の中でそう思ったが今となってはどうでもいいことだった。
2日後、オーナーから電話が入った。
「よぉ~獏ちゃん!こないだはお疲れっ!
さっき金融屋が来てな~この前の分置いて行ったんやわ~!
計算しとくさかい今晩でもおいで~な~!」
テロンテロンはこの2日間でのバンス、9000万円の全額を昨日全て返済したらしい・・
手持ちの6000万と合わせれば2日で1億5000万という尋常じゃない金額だった。
・・テロンテロンは9000万のバンスを最後に自ら勝負の幕を下ろした。
正直好きなタイプじゃなかったがこの引き際でヤツを少しだけ見なおした!
だいぶ後になってからだがテロンテロンの親父が亡くなったらしいという話を風の噂で聞いた。
長男のテロンテロンがあとを継いだ・・らしかった。
その僅か1年後、
テロンテロンと同じ境遇の四国の王子サマがバカラで100億円負けた・・
という話をニュースで知った。
ニュースを聞いたオレは
テロンテロンは王子サマと違い親父のあとを立派に継ぐんじゃないか!?
それどころか親父の築いた事業をさらにデカくするんじゃないか!?
間違っても先に死んだ親父に恥をかかせるようなことはないだろう!
・・そう思った。
そして・・
少なくても二度と博打で失敗することはないだろう!
・・そう思った。
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