"ひかる!!!!!"

ほのちゃんとは反対の手、ボストンバックを持っている方の手に第三者の圧力が掛かる。その人が誰かなんて振り向かなくたって大好きな声で分かってしまう。


「…離して、」

由依「嫌だ、嫌だよ、離したくない。」

「…ほのちゃん、ちょっとだけ待ってもらってもよか?」

田村「ん、ほなそこのコンビニ行ってくるな、」

「ありがとう。」
「…由依さん、手離して。」

由依「由依さんって呼ばないで、お姉ちゃんって呼んでよ、お願い、」

「もう元には戻れないよ、」

由依「なんで、?急に結婚報告しちゃったから?それなら理佐と話してひかるが落ち着いたタイミングで籍を入れたっていい、」

「違う、そうじゃなくて、」

由依「じゃあ、なんで、

「由依さんのことが好きだから、!!!」

由依「え、?」

「ずっと、好きやった、誰にも取られたくなかった、」

由依「ちょっ、と、待って、そんなの、」

「はぁ、引いたやろ、ずっと妹やって思ってた子に好きって言われてどう?また家族に戻れる?…戻れないやろ、もう私と由依さんは戻れないの、戻っちゃダメなんだよ、」

由依「っ…なんで、

「え?」

由依「なんで今更、」
「私だってひかるのこと、ずっと好きだった、」

「…え、?」

由依「でも、こんなことバレたらひかるに嫌われちゃうって思って、そしたら理佐がひかるのこと好きでもいいから私と付き合ってって言ってくれて、それで、最近やっと諦めついて理佐と幸せになろうって決めたのに、」

「…、」

由依「私もひかるが好き、ずっと好きだった、」

「やめて、由依さん、それ以上言わんで、

由依「好きだよ、ひかる、」

「私たちは家族なんだよ、どこまで行っても交われん、ずっーーと平行線で、交わっちゃ、いけないんよ、」

由依「…ひかると離れたくない。」

「私たちは離れなきゃ駄目なの、お願い、分かってよ、由依さん。」

由依「嫌だ、分かりたくない、ひかるが好きなの!ひかるも、私の事好きなんでしょ?」

「っ…好きだよ、どうしようもないくらい大好きだよ、」
「でも、だから、離れなきゃ行けない、由依さんのそばにいたらずっと好きなままになっちゃう、」

由依「ずっと好きでいてよ、ねぇひかる、私理佐と別れる、別れるから、私と、」

「言わんで!!!」
「言っちゃダメ、由依さんは理佐さんと結婚するんだよ。」

由依「っ…、」

ぎゅぅっと握っている由依さんの手を力ずくで剥がせば、由依さんは見たことないくらい悲しそうな表情を浮かべた。

「由依さんは、理佐さんと幸せになるの。理佐さんとじゃなきゃダメなの。」

由依「ひかるは、?ひかるはどうするの、?」

「私は、」

田村「保乃が幸せにします。」

「保乃ちゃん、?」

由依「っ…保乃ちゃん、」

いつの間にかコンビニから帰っていた保乃ちゃんは私の手を取ると真面目な表情でそう言った。

田村「ごめんな、急に、
「保乃ずっとひぃちゃんが好きやってん。」

「っ…、」

田村「ひぃちゃんが由依さんのこと好きなの知ってる、いつか好きじゃなくなるまでずっと好きでいればいい、保乃は由依さんのことが好きなひぃちゃんも、全部、好きやから。」

「保乃、ちゃん、」

由依「…ひかるは、保乃ちゃんと幸せに、なるの、?」

「…分からない。けど、保乃ちゃんとなら私は幸せになれる気がする。」

由依「…、」

「だから、由依さん、私達はもう戻れない、進むしかないんだよ。」

由依「…お母さん達には?なんて言うの?」

「お母さん達には適当に言っとくよ」

由依「お母さん達が帰ってきた時ひかるは帰ってきてくれないの?」

「たまには顔出すよ、妹として。」

由依「っ…、じゃあ、じゃあ、」

「由依さん。」

由依「…本当にもう戻れないの、?」

「もう戻れないし、戻るつもりは無いよ」

泣いている由依さんの後ろには由依さんの分の上着を持った理佐さんが待っていた。その姿を見ていやでも分かってしまった。由依さんには理佐さんがお似合いで、隣に立っていいのは私じゃないんだって、




「…お姉ちゃん、結婚おめでとう、幸せになって?」

由依「っ…、」
「ありがとう、ひかるも、保乃ちゃんと幸せになってね、」

「うん。じゃあ、ばいばい。」

由依「…ん、ばいばい、」

保乃ちゃんの手を取り前を向く、お姉ちゃんとは反対の方向へ歩き出す、後ろからお姉ちゃんの泣く声が聞こえてくる。
それに比例するかのように私の頬にも温かいものが流れていく。

田村「…今日はひぃちゃんの好きなお鍋にしよっか。」

「うん、っ、キムチがいい。」

田村「ええなぁ、沢山具材入れよう。」

「お肉いっぱい、」

田村「うん、たーーくさんいれよう。」

きっと私は保乃ちゃんと幸せになる。
保乃ちゃんとならなれる気がする。
だからお姉ちゃんも理佐さんと幸せになって欲しい。

お姉ちゃんの手を離す時、ほんの少しだけ繋いだままにしたのは私の最後のわがまま。もう迷子になっても繋がれることの無い手、少しでも私が残るようにって念を込めて繋いだ手。
これから先その手を取るのは理佐さんで私じゃない。

小林由依を好きな私とはもうサヨナラしなきゃ。
次"お姉ちゃん"って笑えるように、妹になれるように。

お姉ちゃんよりも少し大きい保乃ちゃんの手を取って、まだ落ち着かない保乃ちゃんのお家へ帰る。


「ばいばい、お姉ちゃん。」