"夏鈴絶対シュート決めますから"

そう笑った彼女は今つまんなそうな面持ちで校長先生の話を聞いている。

今日は1年生だけが登校している球技大会。
理佐はゆっくり寝れるーなんて嬉しがってたっけ。

なんて考えていれば校長先生の話は終わっていて、
1年生たちはそれぞれ分かれ始めていた。

4組、あ、いたいた。
お、森田村仲直りしたみたい。

「おはよー。皆頑張ってねー。」

森「あれ、なんで先生いるの?」

「応援しに来てあげたの〜。」
「うう、思ったより体育館寒いね。」

田「そんな薄着で来るから〜。ほらひぃちゃん試合やし、上着貸してあげな。」

藤「いい。夏鈴のがある。」

「わっ…」

突然目の前に来た夏鈴ちゃんはふわっと私に自分のジャージを被せた。夏鈴ちゃんの匂いがする、

藤「ふふ、ちゃんと見ててな、藤吉由依先生。」

「っ…うん、頑張ってね。」

胸元には藤吉と刺繍されているこのジャージ。
なんか、青春してるな私。

森「ほのちゃん、ちゃんと見ててね〜」

田「見てる。頑張ってな。」

森「うんっ」

「みんな並び出してるよ、ひかる急ぎな。」

森「はーい。」

ふふ、夏鈴ちゃんの隣に並ぶとちっこいなぁ。

田「先生?」

「ん?」

田「夏鈴ちゃんの事、どう思ってるんですか、?」

「…ストレートな子だなって思ってるよ。」

田「そうやなくて、」

「ほら試合始まったよ、頑張れ〜!!」

ごめんね、ほのちゃん。
私はしっかり夏鈴ちゃんを傷付けるられるほど大人じゃない。

森「夏鈴!!!」

藤「ひかるナイス!!」

シュッ

「わ、入った。」

それからもひかると夏鈴ちゃんは最強のチームプレーをみせどんどんと点を取っていく。

田「あ、大沼ちゃんや、」

「え、大沼スタイルじゃん。」

田「ひぃちゃんふっ飛ばされへんかな。」

「心配だねこれは。」

案の定メンバー交代で出てきた大沼ちゃんは暴走と言っていいほどの暴れ具合で点をかっさらっていった。

なんであんな体勢でゴール入るの。逆に天才なんじゃないの。

やばい、時間あとちょっと、差は2点差。
このままだと大沼ちゃんたちに負けちゃう、

「夏鈴ー!!!!頑張れー!!!」

藤「っ…ひかる!!!」

森「夏鈴行け!!!」

残り2秒、

大沼「うぉぉぉぉー!!」

田「夏鈴ちゃん!!!危ない!!!」

シュッ   ドンっ  ピーっ

藤「はいっ…た、はいったよ!!ひかる!!先生!!!」

森「やっっったぁぁぁあ、って夏鈴大丈夫!!?ふっとばされてたけど。」

藤「大丈夫やで、足やったくらい。」

大沼「あぁぁぁ、負けちゃった、ううぅ、玲先生に勝つって約束したのに、」

…この子達にも勝ちたい理由があって、勝ちを待ってる人達がいた。勝負というのはどうも苦手だ。


「夏鈴ちゃん!!大丈夫!!?」

藤「いてて、ふふ、先生最後ちゃんと見てた?」

「うん、見てたよ、すっっっごいかっこよかった。」

藤「先生が応援してくれたから、頑張れた。」

「思わず叫んじゃった笑それより足、痛いでしょ、保健室連れてくよ。」

藤「えー、大丈夫やでこんくらい。」

「だーめ。ほら行くよー。」

藤「はーい。」


-保健室-

「あ、ぺーちゃんー、この子足怪我しちゃったー。」

渡「わ、腫れてるね。由依ちゃん湿布貼ってもらってもいいー?」

「いいけど、どっか行くの?」

渡「校長先生から呼び出し…。」

「ほんと、笑何回やらかすの。」

渡「怒られに行ってきます。」

「はい、いってらっしゃい笑」
「じゃあ、夏鈴ちゃんベッド座ってー

藤「はーい。うわ、冷た。」

「そりゃ冷湿布だもん。」

藤「ふふ、」


あの時と同じ、保健室に生徒と二人きり。
静寂が、五月蝿い。

"由依、"

"理佐、"

っ…だめだめ、何思い出してんだろ。

藤「…先生」

「ん?…きゃっ、ちょっ!!夏鈴ちゃん!?」

腕を引かれ応えようとした頃には夏鈴ちゃんが私の下に居て、まるで私が押し倒したみたいな体勢。

藤「誰のこと、考えてるの?」
「今日だけは、んーん、今だけは夏鈴のことだけ考えてや。」

「っ…夏鈴、ちゃん」

藤「先生が誰を好きだろうと関係ない、夏鈴は先生が好き。」

私の髪の毛が夏鈴ちゃんの頬に垂れている。
それを優しい手つきで耳にかける夏鈴ちゃんに少しだけビクッとする。

藤「そんな反応しないでよ、夏鈴我慢出来ひんくなる、」

「ごめっ…んっ…」

藤「もっかいだけ、」

「んっ…夏鈴、ちゃん、、!!?」

口の中に私のモノじゃない舌が動いてる。
こんな、大人なキス、理佐ともしてない、

藤「はぁっ…」

つーっと二人の間に銀の糸が引かれた。

藤「先生のこと、絶対諦めへん。」
「夏鈴だけの先生がええ。」

「…ごめんっ、」

肩を押して夏鈴ちゃんと距離をとる。

「私は、卑怯で、流されやすくって、優柔不断、。」
「それでも、理佐が好きなの。」

藤「…やっぱり、理佐先輩やったんや。」

「私は、理佐が好き。」

藤「それでも夏鈴は先生が好き。」

「っ…夏鈴、ちゃん、」

なんでいつもはあんなに物分りが良くて直ぐに空気を察してくれるのに、今だけなんでこんなに物分り悪いの。

藤「好きやねん、どんだけ諦めようとしても先生の姿見る度に好きになってく、夏鈴やってこんな気持ち辞められるならすぐに辞めたいよ、」

「夏鈴、ちゃん。」

藤「だから、せめて、好きでいさせて、先生、」

そう笑った彼女は初めての表情だった。
いつもはあんなにストレートに愛を伝えてくるのに、
今はただただ辛そうに笑っている。

優しくて、面倒見が良くて、ストレートなところ、
授業中たまに窓の外を見つめる綺麗な横顔、
ひかるにちょっかい掛けられて少し怒りながら笑ってる姿、
どれも全ていい所で、私の好きなところ。

きっと、好きになっていた。
でもそれは理佐と出会っていなかったらの話。

私は理佐に夢中で、他の子を見れるような器用な人間じゃない。だから、

「ごめんね、藤吉さん。これ、ありがとね。」

ジャージを脱いでベッドのそばに置いた。

藤「っ…」

悲しみを浮かべた夏鈴ちゃんを背に私は保健室を出た。

「ごめんっ…ほんとに、ごめんね、夏鈴ちゃん。」

-続く-