なんであの時止めなかったんだっけ。
なんで、私は手を離したんだろう。
これも全部、自分のせい。
「はぁ、」
小「どーした?」
「あぁ、いや、なんでもないです。」
小「そーやってひかるはなんでも溜め込むんだから。恋人の私くらいには頼ってよ?」
「ふふ、はい、ありがとうございます。」
恋人の由依さんとはそれなりに全てを終えている。
人並みにイチャイチャしてるし、レスって事もない。
気を許せるし私のことを一番に考えてくれている由依さんは居心地が良かった。
それでも私は、どことなく彼女を想ってまたこうやって想い出に恋を重ねる。
田「ちょっと〜ふふ、も〜ついてんで??」
「わ、ちょ、撮らんでよ!!!」
田「ひぃちゃんが可愛いのが行けないんやんー」
「なんそれー。笑」
田「あ!!そう言えばこの曲ほの大好きやねん」
「それ昨日も聞いたよ。」
田「あれ言ったっけ、」
「うん。聞いた。」
田「冬になるとこれ聞きたくなんねん」
「なら私も毎年冬になったらこれ聞く。」
田「うんっ、お揃いやなっ〜」
「ふふ、そうやね。」
じゃんじゃーんじゃん
小「お、ギター弾くの。」
「…坂道を登った先の暗がり、星が綺麗に見えるってさ、」
「地べたに寝転んじゃうあたり、あぁ君らしいなって思ったり」
ワンフレーズごとにほのちゃんとの記憶が蘇る。
一緒に歩いたコンビニまでの道のり、
少し遠出して綺麗な星を見に行った日。
「……君の見る景色を全部、僕のものにしてみたかったんだ。あぁ、君を忘れられんなぁ」
"この歌詞、いいやろ?"
"うん、よかね"
"ほのも同じこと思ってんねん"
"ん?"
"ほのも、ひぃちゃんの見る景色をぜーんぶ、ほののものにしたい、そう思ってる"
"ふふ、私もほのちゃんの見る景色全部、私のものにしたい"
「っ…当たり前に通ってたあの道、信号機はなくなるみたいです。」
「……思い出して切なくなる気持ちも、いつかはなくなるみたいです。」
"2番の歌詞にはなりたないなー"
"ならんから大丈夫でしょ"
"分からんやろ??人っていつどうなるか分からへん"
"私はずっとほのちゃんが好きだよ"
「今になってさ、思い出してさ、後悔じゃ何も解決しないさぁ、忘れられないのは、受け入れられないのは、君を思い出にできるほど僕は、強くはないから。」
"ごめんな、ほの他に好きな人が出来た"
"そっか、幸せになってね、ほのちゃん"
今ならわかるよ、ほのちゃんはあの日私を確かめたんだよね。不器用で愛情表現が苦手だったから、つい通じてるもんだと思って疎かにしてた罰がその日下されたんやろ?
なんであの時、止めなかったんだろう、
違う、止めなかったんじゃない、止めれなかったんだ。
私にはほのちゃんを止める権利なんてなかった。
ほのちゃんの幸せを願うのが精一杯の罪滅ぼしだと思った。
"いつかまた逢う日まで、"
"じゃあね、ひぃちゃん"
「いつかまた逢う日までと、笑う顔に嘘は見当たらない。じゃあね、じゃあね、またどっか遠くで、」
「いつか」
柄にもなく涙を流していた。
それも子供のように泣きじゃくった。
歌詞一つ一つが思い出になって、
想いが溢れて、目の前にいる恋人を困らせた。
小「私は、またいつか逢えるまでの期間でいいから、」
「っ…」
小「どんなひかるでもすきだから。」
こんな最低で出来損ないの恋人を好きだと言ってくれる由依さんは相当人がいい。本当はもっと幸せにされなきゃいけない人なのに。
「…コンタクト、外してきます、」
小「うん、いってらっしゃい。」
ほのちゃんと同棲していた部屋。
ほのちゃんが出ていって一年後由依さんが一緒に暮らし始めた。
ほのちゃんのものは一つを除いて全て無くなった。
それでも一つだけ、ほのちゃんが忘れていったものがある。
それは、
小さくほのってかかれてるコンタクトケース。
寒い夜が続くけどさ、ほのちゃんは元気にしてますか。
まだ私は、二人でいた日々から全く抜け出せずにいるよ。
ねぇ教えて、ほのちゃんと二人で過ごしたことには、理由がいるの?なんか楽しくてさ、なんか幸せで、それだけでずっといられるきがしてた。
ほのちゃんと過したあの日々は昔話になってしまったけど、決して嘘なんかにはならないよね。私たち嘘なんかにはならないよね。
ほのちゃんのコンタクトケースを今でも捨てられずにいる、
ほのちゃんの帰りを待っている。