メンバー全員が集められスタッフさんが声を発して、
名前を呼ばれ、私たちの前に立った彼女は震えた声でこう言った。
「4thを持って櫻坂46を、卒業します。」
その後の理佐さんの言葉はよく覚えていない。
一人一人の名前と何かを言っていたが頭は話を聞けという司令を出すことも忘れるくらい卒業というワードに夢中だった。
近くで泣き崩れる天ちゃん、夏鈴、ほのちゃんも。
気づけばみんな涙を流していた。
あまり涙を見せない、見せても静かに涙を流す由依さんも今回ばかりは声をあげて泣いていた。
私は泣けない。
理佐さんを前にして泣く資格なんてない。
沢山沢山理佐さんに迷惑をかけてきて、
まだ、辞めないでください、なんて泣き縋れない。
グッと耐えて、ほのちゃんの肩を摩るしか、私は出来ない。
理佐さんは笑っていた。
菅井さんや由依さんを抱きしめながら想いを隠すかのように笑っていた。
ふと理佐さんと目が合ってお互い言葉を発した訳でもないのに傍にいた人から離れ引き寄せられていく。
目の前に理佐さんが居る。
あぁ、私、理佐さんの事が好きだったんだ。
なんて今わかったって遅すぎる。
どんな思い出の中にも理佐さんがいて、
私の頭の真ん中はずっーと理佐さんで。
何をするにも理佐さんを目で追って、
少しでも話せた日はすこぶる調子が良くて、
ほんと、ヒントなんて沢山あったのに。
今更気づくなんて私遅すぎるよ。
理「ひかるちゃん」
「…はい。」
理「ふふ、涙堪えてる。」
「理佐さんこそ。」
理「私の話、聞いてくれてた?」
「あー、いや、すいません、なんか気づいたら天ちゃんたちがないてました。」
理「だと思ったよ。笑卒業するって伝えてからひかるちゃん私の方なんて一切見ないで急にぼーっとしだすんだもん笑」
「すいません、笑」
理「ひかるちゃん」
「はい」
理「堪えないの。」
「え?」
理「ぺーちゃんとあかねんが卒業発表した時もメンバーが泣いてる中1人歯食いしばって泣かないように堪えて、仕事で上手くいかない時も何も言わず下唇噛み締めて、自分の気持ちを伝えまいと踏ん張って、ばかなの?ひかるちゃんはおばかさんなの?」
「…」
理「もっと自分中心に考えていいの。これ言ったら迷惑になるかなとか、ここに私も加勢しちゃったらこの人困るかなとか、そんなの行動起こしてから考えることだから。思ってること言って迷惑かけたらそんときどうすればいいか考えればいい。」
「…でも、」
理「でも?」
「いや、なんでも、ないです。」
理「それだよ。それ。」
「え?」
理「今、また堪えてる。自覚無し?」
「あ、ほんとだ。」
理「迷惑か迷惑じゃないか私が判断してあげるから、言って。」
「…理佐さんは、引き止めたら考え直してくれるんですか、?」
理「…んーん。もう決めてる事だから、考え直しはしないよ。」
「…そう、ですか。」
理「私は今ひかるの思ってることを言われて、引き留めようとしてくれてるんだって嬉しく思ったよ。」
「っ…」
理「ね?だから、ひかるはもっと自由になっていいの。」
「先輩からの最後のアドバイス、ありがたく受け取りなー。」
「…ふふ、ありがとう、ございます。」
今は、今だけは堪えさせてください。
この涙を堪えられなかったら私はきっと、全て零してしまう。
今の思いも、理佐さんへの想いも。
理「私はずっと、待ってるんだよ。ひかるちゃん。」
「………理佐、さん。」
涙がこぼれた。頬を伝って床に落ちていく。
理「なーに。」
「ずっと、好きです。」
理「うん。私もずっと好きだよ。」
卒業する彼女を止めることはもう出来ない。
ぶっちゃけ死ぬほど寂しいしわがままが通るならこのまま私が卒業するまでそばにいて欲しい。
でも、そんなこと言えないし、言うつもりは無い。
だから、彼女としてこれからは私のそばに居てください。