かわいい

今日は残業でけっこう遅くなったので、どこにも寄らず真っ直ぐ帰った。

駅のプラットホームでサエちゃんと２人で
「疲れたねー」
などと話しながら電車を待っていると、副支店長がやって来た。

うわ。

めんどくせ。

こっちに気付くな。

あ、気付いた。

…来た。

いや、副支店長は決して悪い人ではない。

息も臭くないし。

あ、今日はちょっと臭かったけど。

でも基本的には優しい。

ただ、仕事が終わってまで話したいとは思わない。

逃げるわけにはいかないので、世間話をしながら仕方なく一緒に電車を待つ。

まもなく電車が来たので、３人で乗り込む。

５秒ほどの沈黙の後、隣でカチャッ携帯を開く音がして、私の目の前にすっと携帯電話が出てきた。

目の前に出てきたのは、副支店長が飼っている犬の写メ。

新作。

副支店長は新作の犬の写メを撮ると必ず女性社員に見せてまわる。

かわいいと言わせるために。

かわいいっちゃかわいいけど超どうでもいいし、この犬は副支店長に飼われなくてもかわいい。


だけど、とりあえずサエちゃんと２人で
「あーかわいーい」
と言った。

そこから副支店長の最寄り駅に着くまでの３０分間、３人で犬の話をした。

特に面白くもない、毒にも薬にもならない、無味無臭な会話。

あ、無臭ではないか。

息はちょっと臭かったから。