『俺さ、リナちゃんがすごく好きなんだよ!!

 いや、もう好きっていう言葉じゃ表せない。

 愛してるんだ・・・。』




コウスケさんは私の手をギュッと握った。

その眼差しはとても真剣で

振り払うことが出来なかった。





『で、でも・・・。コウスケさん奥さんがいるじゃない・・・。』






『だから・・・だから苦しいんだ・・・。

 でももう言わずにはいられなかったんだよ。

 リョウタ君といつも現れるリナちゃん、

 リョウタ君と一緒に帰るリナちゃん、

 俺はいったいどうしてここにいるんだって

 その思いが拭えないんだよッ!!』






『・・・・・。

 でもコウスケさん、ずるい・・・。』






『俺が結婚してるから?』






『そうですよ!だって、私にどうして欲しいの?

 私には何も出来ないよ。

 そんなこと言うんだったら

 奥さんと離婚してから言うべきことでしょ?』






『そう・・・、確かにそうだよ・・・。

 じゃあリナちゃんは俺が離婚したら

 俺のこと見てくれるってこと?』






『そ、それは・・・わからないよ・・・。

 だって今はうまくいってないって言っても

 私にはリョウタがいるし・・・。


 でも!!だって!!

 そう言うんだったら、私が待ってないと

 コウスケさんは離婚できないってことでしょ?

 それはおかしいです。

 だって離婚するのは二人の問題でしょ?

 一緒にいられないから離婚なんでしょ?』






『リナちゃんにはわからないかもね・・・。

 夫婦っていってもすでに仮面夫婦なんだよ。

 それも今リナちゃんに言うのは反則?

 そんな生活の中で家族っていう情があって

 リナちゃんっていう原動力によって

 その情を断ち切るってことだってあるんだと思うよ!!』







『・・・・・。』







私にはわからなかった。

どうして今、今の現状で私に伝えるのか。



でも、まだ当時、

男と女の駆け引きのようなものがわからず

コウスケが言う、『離婚の原動力になる』

という言葉が自分をとても欲しているように聞こえた。





まだ子供だった。

私はこの時、本当に甘かった。

わかりやすい愛情は

私の心に少し割り込んできていて

その日からコウスケのことばかりを

考えるようになっていた。

リョウタとの付き合いを続けつつ

コウスケさん夫婦との楽しい時間を過ごしていた。

リョウタとは第3者がいれば

楽しい時間を過ごすことはできていたが

二人きりになると、どうも気持ち的にすれ違う。

私たちは出来るだけコウスケさんや

他の人たちと一緒に遊ぶようになっていた。





時間はなんとなく過ぎていたある日

仕事場の社長に呼ばれた。




『我が社も今後、営業に力を入れるために

 営業強化のために人員を増やしました。

 これから彼に営業を担当してもらいます。』




『宜しくお願いいたします。』





なんと、そこにはコウスケさんが。






『え・・・?コウスケさ・・・?』





実に驚いた。

なんと、コウスケさんは私が勤める会社に

なんとか知人を使ってコネで入り込んできた。

社員ではないが、実に驚いた。






『ねぇリョウタ。コウスケさんが

 うちの会社に営業で入ったの知ってる?』





コウスケとその日、夕食を一緒にしながら話した。





『ん?あーそういえば言ってたなぁ。

 うちの会社ってさ、なんていうの?

 あんまり将来ないっていうかさ。

 俺も絶対いつかは別の会社に行くつもりだし

 やっぱずっとここの会社ではね・・・。

 でもコウスケさん、よっぽどお前が気に入ってるな!』






まったく悠長なものだ。





コウスケさんが営業として配属されてから1ヶ月ほどたった頃

コウスケさんと連携して仕事をすることになった。





『じゃ、ちょっと営業に回るんで

 一緒にランチでもとりながら行きましょう。』





コウスケさんは普通に、いや逆に

いつもとは違って仕事のせいか

いつもより丁寧な言い回しでそう言った。

それがなんだか可笑しくて、

つい笑ってしまった。




『なんですか?なにか変ですか?』





『あ、ごめんなさい。

 だってコウスケさん、いつもと違うじゃん?

 まー結構話すときに敬語だったりするけど

 私のほうがずっと年下なんで。』





『あ、あはは。でもリナちゃんのほうが

 仕事では上司だからね!!』





『上司なんて・・・。何もしてなくて

 恥ずかしいくらいだよ・・・。』





『ぷ、ぷくくくくく・・・。』






『ふふ、ぷぷぷぷぷっ。』






そんな感じで楽しく会社を出た。

一回りしたところでランチを取ることに。

普通のファミレスで済ませようと

次に訪問する会社の近くの店に入った。






『ふぅ~、暑いねぇ~!!

 俺さ、クーラーないと死んじゃう体質!!

 あちこちの会社周ると

 あんまりクーラーきいてない会社とかあるじゃん?

 もうそれですごいぐったりしちゃうよ!!』





半日一緒にあちこちの会社を訪問したので

コウスケさんの話し方も随分気楽になった。

私にはかえってそのほうが安心できた。





『ね、リョウタ君とはうまくいってるの?』





『ん~、うまくいってる・・・っていうか

 なんだか最近一緒にいるとイライラしちゃって。

 だから二人っきりにはなかなか・・・。

 しょっちゅうお邪魔しちゃってますね!!』






『あーそうなんだー。

 でも全然平気だよ、うちは!!

 ってゆーか、むしろきて欲しい・・・。』






コウスケさんは突然話の勢いをなくした。






『そうなんだ!!じゃーどんどんお邪魔しよう~♪

 そうそう、コウスケさん、奥さんとすごい仲良しだよね。

 それにワンちゃん!!すっごいかわいい~♪』






『うちの犬ね、リナちゃんが大好きなんだよ。

 やっぱ犬は飼い主に似るからね・・・。』









『え・・・?や、やだ~冗談!!

 コウスケさん、おっかしい~。』






『冗談じゃないんだよ。

 実はリョウタ君とリナちゃんが

 家に遊びに来てくれるたびに俺は・・・。』






コウスケさんが下を向いて目を伏せた。

その時は、年がら年中遊びに行くのは

もしかして迷惑だった?!という認識しかなかった。





『あ、あの・・・もしかして迷惑とか・・・。』







『ん・・・。迷惑っていうか・・・。

 俺さ・・・君たちが来るたびに苦しくて・・・。

 二人を見てるのが辛い。

 でも来てくれるのもそれ以上に嬉しくて・・・。』






『え・・・。』





あんまり頭の良くない私でも

その雰囲気は受け取れた。



もしかして・・・、もしかして・・・?






『俺さ、リナちゃんがすごく好きなんだよ!!

 いや、もう好きっていう言葉じゃ表せない。

 愛してるんだ・・・。』






そういって私の手をそっと自分のほうに引き寄せ

コウスケさんは私の手をギュっと握った。

リョウタに紹介されたリョウタの会社の人、

コウスケさんは特に興味が沸く人ではないかな?

というのが第一印象だった。



リョウタは私をコウスケさんに紹介すると

その日を境に、なぜかコウスケさんとの交流を

もっと身近なものにしようと

私を連れてせっせと彼に会いに行った。


コウスケさんは結婚8年目くらいで

子どもがまだいなく、奥さんと愛犬との生活だった。





『コウスケさんね、なんかオマエのこと気に入ったみたい!

 だからまた遊びに行こうよ!!

 コウスケさんも是非来てって。

 あ、そうそう。あの二人ヨーグルト好きだから

 それお土産にして行こ~。そうだ、そうしよう。』





ちょっと電話やメールをするだけで

猛烈にウザいリョウタにしてみれば

とても不思議なくらいコウスケさんに対しては違っていた。



自分が知ってる人間で、自分が興味がある人で

普通に家庭持ちなんだから

自分の彼女に興味があるなんて言われても

全然平気な様子で毎週のように行っていた。

むしろ、私とコウスケが仲良くするのが

とても嬉しいらしくて




『オマエも随分コウスケさんと

 話せるようになったよね!!』



と帰りながら話していた。




『確かに何考えてるのか

 よくわからない人っていう雰囲気はあるかなぁ。

 ま、でもちょっとカッコいい人ではあるね。

 背が小さいけどさ。』




リョウタはとても背が大きくて185センチ。

コウスケさんは170センチで

166センチの私とはさほど変わらない。

でもちょっといい男ではあった。

リョウタも長身で男前だったので

私がコウスケさんを褒めてもとくに気にしないようだった。


むしろ



コウスケさんを褒めることは

とてもリョウタにとっては嬉しいこと。




そんな風にリョウタと私、

そしてコウスケ夫婦との付き合いが続いていた。