トワイライト180 「行く道は霧ヶ峰」 | 吹きガラス屋 加倉井秀昭のブログ

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カッチカッチカッチ

 

とはいわない。

最近のウィンカーはLEDだからか知らんが

静かに事をこなす。

 

広い国道を右に曲がりその先を右にまがればビーナスラインへ向かうはず。

 

その途中であったか、その先であったか、今思えば定かではないのだが、途中ある看板が目に入ったのだった。

 

霧ヶ峰方面

 

霧ヶ峰とはビーナスラインの途中にある。

 

「まぢか......」

 

方向さえ合ってれば知らない道ほどロマンティックなものはない。

迷わず向かう。

 

迷う迷わざるは理の終わり、始まりはいつも選択という自由を謳歌するのである。

 

 

フォーン フォーン...

 

あとはひたすらすっ飛ばせばいいのだ。

しばらく行くと山道になって行く。

それはそうだ、霧ヶ峰に向かっているのだから。

 

かりり!

調子に乗って走るとカーブのたびにどんどんステップ下のボルトが削れて行く。

 

ぎゃりーん!

マフラーも削れて行く..... (きゃあああああああああ!)

 

道は徐々に狭くなって行き、道も荒れてきた。

昨日までの大雨で所々崩れた後がある。

水も流れ出している。

 

気が付けば寒かった。

それはそうだ、革ジャンを羽織っただけで下はTシャツ一枚。

 

しばらく行くと前の車に追いついてしまった。

少し暗くなり始めた空と鬱蒼と生える木々がさらに暗く、荒れた路面にかぶさって行く。

前に人がいるかと思うと少しホッとしたのだった。

 

しかし前の車は気を使ったのかハザードを出して路肩によった。

 

「何てことだ....」

 

追い抜かねばならない....

車をかわして先を行く。

 

が。

 

車はこなかった....

 

戻ったのかもしれない。

 

確かにこの時間の霧ケ峰観光はおかしい。

間違ってきたのだろう。

 

寒さと共に孤独が押し寄せた。

 

「戻るか....。」

 

戻らないのである。

なぜなら...(略)

 

もう行くしかない。

東へ向かって横切る道にあたるまでひたすら行くしかない。

薄暗い森の道をかりりかりりと進む。

 

カーブを抜け次のカーブに向かうがそこを抜ければまたカーブだ。

永遠とも思われるワインディングロード。

くらい木々の間からかろうじて見える夕暮れの空。

そう、自分に残された時間はあまりない....

 

その時、看板が現れた。

それは小さかった。

そんな気がしただけかもしれない。

 

霧ケ峰3km

 

「なに...」

 

霧ヶ峰まで3キロだと?

 

「これは.....」

 

「これは....」

 

そうなのである。

道は交わらなかった。

霧ヶ峰までの一本道であったのだ。

 

そして空が見えた。

 

そう、ここが標高1600メートル

その名を 

 

霧ヶ峰。

 

刹那夕暮れの薄ピンクに染まった空はその姿を消す。

 

そう霧ヶ峰の名は伊達じゃない。

白い霧が左前方より押し寄せてきた。

そして全ては白い闇に覆われるのであった。

 

なぜ俺はここにいる?

俺はただ真っ直ぐな道を走りたかっただけだったのに。

なぜこの今にも陽の落ちそうな時に標高1600メートルで霧の中で震えているのだ?

 

答えを考える時間はない。

 

残された時間は後わずかだ。

 

つづく