「今日も雨か...」
そう8月だというのにずっと雨だった。
まるで梅雨に戻ったようだ。
雨が降ると工房の観光客相手の仕事が忙しくなる。
「これじゃバイクにも乗れないや......」
この夏に新しいバイクが来たのだった。
そう、この愛おしくも得体の知れないバイクになじむためにはひたすら乗り回すしかない。
そんな時だった。
お客が途切れたと同時に空に晴れ間が見えたのだった。
スタッフはワクチン摂取で居ない。
そう、今自分はこの場に独りでいる。
ひゃっはー!
「神様はいるんだね!俺知ってたよ!ほんとだよ!」
事は決まったのだった。
「みせじまい〜みせじまい〜」
速攻で片付ける。
ヘルメットを被り、グラブをはめ、Tシャツの上に革ジャンを羽織る。
あとは青空目指して走り出せばいい。
「フォン!」
16時をまわって随分経つ。
日没にはまだ余裕があるはずだ。
「少しでいいんだ、真っ直ぐな道を走りたいんだ、ただ真っ直ぐ。」
意気揚々。
まさにそれだ。
だがこの時は知る由もなかったのだった。
この軽いライドが自分をどこへ連れて行くのかを.....。
日常。
昨日と変わらない今日。
今日と変わらない明日。
そんなのはまやかしだ、いや思い込みなのだ。
魔の時は不意にその顔を見せる。
それは凄く些細な事。
その変化を見逃さないで差し込んでくるのだ。
残念ながら人はその予兆に気付かない。
「ふふふ......」
何かが微笑んだ気がした。
温まったバイクが鈍く光っていたのだった。
つづく。