まず最初に考えられるのは、「欧米では生活様式が変化していない」という点でしょう。

特に建物に関しては、ここ数百年変化していません。

高層建築も、既に数百年前から存在しています。

建物に求める要素が、200300年前と現在とで大きな違いがありません。

ですから、古くても特段の不便さを感じませんので、「建て直したい」という欲求も起きにくいのだと思います。

 

一方、日本ではどうかと言えば・・・

観光地で公開されているような「古民家」を想像してください。
 


写真は、江戸~明治期に建てられた商家の住宅です。

 

玄関の土間から居間に上がるには、腰掛けられる高さの段差があり、

台所は下足を履いて、いちいち土間に降りなければならず、

トイレは和式で、ともすれば別棟まで行かねばならない。

 

たったこれだけでも、現代の生活様式とは十二分にかけ離れていますので、流通商品としては厳しい状況になります。

しかし問題がこれだけなら、大掛かりにはなるもののリフォームすることで、建物の商品価値を高めることも出来ます。

では、どうしてそうならないのか?

 

答えは「地震」です。

日本は世界有数の地震大国ですので、現代の住宅には耐震能力が求められます。

そして古い建物に耐震補強を行うには、想像以上に高額な資金が必要になります。

一族の永年の思い入れも有り、文化的にも価値ある建物だと知りつつも、商業用途以外では維持できず、ほとんどが解体の憂き目に遭っています。

 

こうして、お金をかけても「日本古来の住宅を大切にしていく」という空気は少なくなり、最新の資材を駆使して「安さ」「快適性」「耐震性」「施工性」などを追求した現代仕様の住宅に建て直すのが一般的となりました。

そういう社会では、より新しい建物に軍配が上がってしまうでしょう。

そして、日本人の心に響く魅力が無くなってしまった特徴の無い一般住宅は、年月の経過と共に「ただの古びた家」に成り下がってしまいます。

こうして、現代の日本社会の中に「古い建物に商品価値は無い」という構図が出来上がったのではないでしょうか。

 

逆に欧米では、文化的に変化がなく耐震も問題にならないので、「旧き良き建物」を大切に出来る環境が有ると言うことです。
 


 

写真は、1907年(明治40年)に建築された、築112()の木造住宅です。

内外装共に、非常に良い状態を維持しております。

窓サッシはアルミでもスチールでもなく、なんと木製のままです。

こういった建物が普通に流通しており、価格も築浅物件と差はありません。

日本人にとっては、こういった住宅は一見して現代風の建物にしか感じませんが、欧米人にとっては伝統的で趣のある「価値ある住宅」なのでしょう。