「あの候補者、ホントにあなたそっくりよねぇ。選挙ポスター見た時、ビックリしたわよ」 
久しぶりに電話してきた祖母は、さっきから同じようなことばかり言っている。 
「ああ、だから、俺も知ってるよ。確かにそっくりだな。ばあちゃん、用はそれだけ?」 
「なぁに、あなたもっと驚きなさいってば。わたしなんか、本当にあなたが選挙に出たのかと思ってビックリしたんだから」 
確かに、近々行われる選挙の候補者の中に、俺に顔がよく似た人物がいた。俺自身、初めてポスターを見た時は驚いた。何かの手違いで、俺は出馬してしまったのか?一瞬そう混乱するくらい、そっくりだった。 
だが実と言うと、ここのところ立て続けに親族、友人、昔の恋人などありとあらゆる知り合いから同じような電話やメールがきて、かなりウンザリしていたところだったのだ。 
「ばあちゃん、あの候補者が俺じゃないってことは分かったよね?」 
「ええ、それはもう分かったわ。選挙に出てるのはあなたじゃないってことは信じてあげる」 
やれやれ、やっと解放されそうだな。ところが祖母は、内心俺が心配していたことを口走った。 
「わたし、あの人に投票するわ」 
「えっ!?なんでだよ。俺じゃないってことで納得したんだろ?」 
「ええ。でもあんなにあなたにそっくりじゃない」 
「いやいや、おかしいって。そんな理由で投票すべきじゃない」
 「誰に投票しようとわたしの自由でしょ。なんだかあの人にすっかり親近感湧いちゃった。あんなに自分の孫にそっくりだったら、そりゃそうよねぇ」 
俺はため息をついた。あーあ、ばあちゃんもかよ。 
そうなのだ。実はここ最近の知り合い達からの同じような電話も、ことごとくこの展開なのだ。 
「頼むから、そんな理由であいつに投票するのはやめてくれ」
 「嫌よ」 
「いい加減にしてくれよ!あいつの党の名前知ってるだろ!?最中の中身全部白あんにします党だぞ!公約は、最中の中身を全部白あんにすること、その一点張りなんだぞ!」 
「ホホホ、ほんと馬鹿みたいな公約ねぇ」 
「馬鹿はばあちゃんだよ。あんなふざけたやつに貴重な一票を入れるなんて。正気に戻ってよ」 
「わたしは正気よ。とにかく、あなたにはどうこう言う権利ないんだから。じゃあね」 
俺は憂鬱な気持ちで電話を切った。 
なんで、よりによって、俺に顔がそっくりな候補者はあんなふざけた政党の所属なんだろう。なんで唯一の公約が最中の餡についてなんだ?こしあんや粒あんや栗のやつ、色んな種類の最中があった方が良いじゃないか、世の中。白あんしか食いたくなきゃあ、自分で選んで白あんのやつを食えばいい、それだけの話だろう!なんなんだあの公約は! 
(…俺の知り合いみんな、あいつに投票するとか言ってやがる。ばあちゃんみたいに親近感を感じてのやつもいれば面白半分のやつもいるが、どっちにしろ顔が俺にそっくりだという、ただそれだけの理由でだ。みんな選挙を、政治をなんだと思ってるんだ。もし万が一あんな政党が当選したら、俺は全然悪くないのに、やっぱりなんか微妙に嫌な気持ちになってしまうだろう。なのにみんな俺の気持ちなんて考えずに、面白がってやがる…ヤバい政党の候補者が自分そっくりの顔だったら、誰だってこんな気持ちになるに決まってるのに。ああ、心配だ…もし当選したら…!!)
そして投票日。選挙の結果、最中の中身全部白あんにします党は敗退した。 
そりゃそうだ。俺の知り合いが投票したぐらいで、あんな政党が当選するはずはなかった。冷静に考えたら完全にそうだった。真剣に心配しちゃった。恥ずかしっ!!