AKB48、12thシングル、2009年6月24日発売。


確か、読売新聞の百何周年記念かのタイアップキャンペーンソングでもあったはず。当時のAKBはといえば、「大声ダイヤモンド」のプチブレイクはあったものの、世間一般的にはまだまだマイナーな地下アイドルに毛が生えたような存在。それが天下の読売新聞とタイアップキャンペーンなど、まったく電通様様としか言いようがない。


ジャケットのアートワークはあの村上隆。村上隆らしいモチーフ満載の現代美術的意匠が施されている。


当時のキャンペーン広告で印象に残っているのは読売新聞の全面広告。それは1人の女の子とその母親らしき人物が台所で会話をしている場面で、新聞を読むことの大切さを訴えるような内容だったと思う。その下に申し訳程度に「涙サプライズ」の宣伝。


当時、その存在自体は知っていたもののAKBなどにまったく興味のなかった自分は、「AKBって確かたくさんメンバーいたよな。たった1人をこんなに大きくフィーチャーしちゃって大丈夫なの? 他のメンバーとか不満はないの? この子はそんな特別な子なの?」などと要らぬ心配をしたのを覚えている。思えば、この時が初めて前田敦子という存在を個別に意識した瞬間だった。


さて本題だが、この曲、秋元康&井上ヨシマサの黄金コンビが乗りに乗っている時期の傑作であるばかりでなく、やはり高橋栄樹の手によるPVについても触れざるを得ない。PV込みでの評価ならAKB関連楽曲の中で最も好きな作品のひとつかもしれない。


高橋監督の作品で評価したいのは、その作家性を保ちながらも、ちゃんとアイドルPVとしてのファンサービスも忘れていないということ。ここが自分のやりたいことばかりをやる、2010年以降の「名監督」たちと決定的に違う部分だ。


AKB初期主要メンバーの最もいい時期(「10年桜」~「言い訳Maybe」)をこの監督が担当したのはAKBにとっての幸運でもあった。ついでに言えば、この時の前田敦子は最高に輝いていた。


このPV、まさに日本版「ハイスクール・ミュージカル」ともいえる設定だが、なんといっても目を奪われるのは「音と映像のシンクロ」とその完成度。このPVを見るたびに思い出す映像作家がいる。フランスのPV監督にしてショートフィルムなども手掛ける映像作家、その世界ではスパイク・ジョーンズやクリス・カニンガムなどと並ぶ巨匠・ミシェル・ゴンドリー。


彼の作品は音と映像をシンクロさせた「映像快楽主義」ともいえる作風が特徴。音をバラバラに解体し、楽器ごとのパートを奇怪なキャラクターで視覚化した「アラウンド・ザ・ワールド」(ダフト・パンク)(後に他のアーティストのPVやらCMやら多くのエピゴーネンを生んだ)や、CGと実写のシームレスな融合でまさに音を映像で表現した「スター・ギター」(ケミカル・ブラザース)などが代表作にある。


元来、この手法は「テクノ」と呼ばれるジャンルと相性がいい。アシッドハウス、ミニマルテクノ、トランス、トリップホップといったジャンルの音楽は、フロア向け(ダンスミュージック)というカテゴリーを突き抜け、ほとんどトランス/トリップするためのツール=合法ドラッグに成り得るのだ。


その補完的な役割を果たす映像(あくまでも音が主、映像は従)がこういった作品のPVにはよくある(ハードフロア、アンダーワールド、コールドカットなどの作品に見られる)。それはたぶん、人間の原初的な快楽の一種なのだ。


このPV(涙サプライズ!)は、特に一定のBPMを刻むわけでもないJ-POPの実写でそれを実践しようとした稀有な例だと思う。これからも何度でも繰り返して見たいPVだ。