2018年07月10日読了
近松門左衛門集 ① (小学館 新編日本古典文学全集 74) 1997.03.20発行
全588頁
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「お夏清十郎 五十年忌歌念仏(ごじゅうねんきうたねんぶつ)」
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「淀鯉出世滝徳(よどごいしゅっせのたきのぼり)」
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「忠兵衛梅川 冥土の飛脚(めいどのひきゃく)」
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「博多小女郎波枕(はかたこじょろうなみまくら)」
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「女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)」
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「源五兵衞おまん 薩摩歌(さつまうた)」
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「丹波与作待夜こむろぶし(たんばのよさくまつよのこむろぶし)」
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「夕霧阿波鳴渡(ゆうぎりあわのなると)」
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「長町女腹切(ながまちおんなはらきり)」
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「山崎与治兵衞寿の門松(やまざきよじべえねびきのかどまつ)」
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お夏清十郎の事件は、当時の流行歌(はやりうた)を媒介にして大変有名になっていました。
『清十郎 聞け夏が来てなく 時鳥(ほととぎす)』という後西院の御製が伝わっていることからもわかるように、当時、恐れ多くも畏き(かしこき)辺りにまでその名前が知れていたらしいです。
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放蕩のため追放となった、主人公、江戸屋勝二郎が追放赦免となり、行く末繁盛する物語に、「鯉の滝登り」をかけた題名。手代新七の主人思いの並々ならぬ忠義の働きが光ります。
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激情型の飛脚屋忠兵衛と、可憐な格子女郎梅川との情愛を細やかに描いた名作。「封印切の場」 (中の巻) 、「新口村(にのくちむら)の場」 (下の巻) が有名。
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博多で密貿易の首領、毛剃(けぞり)久右衛門の仲間に引きずり込まれた、京都の商人小町屋惣七と、博多柳町の遊女、小女郎の情話。
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ショッキングな題名。主人公の河内屋与兵衛が、馴染みの油屋、人妻のお吉を惨殺し金を奪って逃げるという筋。一番の見せ場は、油屋でのお吉殺害の場面。人形の動きだけで、樽から床へこぼれた大量の油の上で、ツルツルと滑るような動きをして見せるという技です。髪振乱したお吉の鬼気迫る表情、与兵衛が斬りつけ斬りつけて、一気に昂揚していく人形の「表情」、それに大夫の語りと、三味線が壮烈に創りだす見事な世界です。
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近松門左衛門は井原西鶴の『好色五人女』の主人公の内、お夏、おさん、おまんの三人を取り上げています。実際に起こった事件は明らかでなく、当時の流行歌(はやりうた)に題材、題名も依ったものとされます。
♪高い山から谷底見れば、おまん可愛や布晒す(さらす)♪等の俗謡が沢山あったようです。
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これも実際の事件は明らかでなく、
♪与作丹波の馬追ひなれど、今はお江戸の刀さし♪
♪与作思へば照る日も曇る、関の小万が涙雨♪ 等の歌謡から結びつけて脚色されたと云われます。与作に関の出女小万を主人公に、与作の妻滋野井(しげのい)とその子三吉を加え、親子の情愛と別れ、不運な男女の情を加えています。
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実在の遊女夕霧は大阪新町で全盛を極めたが、二十二歳で病没したためその人気が惜しまれ、数々の作品に取り上げられました。近松のこの作品が出てからは、以後の夕霧劇、藤屋伊左衛門、扇屋夕霧の音曲の基本となった作品だそうです。
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大阪長町での女の切腹という実話と、京都での女郎お花と刀屋半七との心中を取り混ぜて劇化した際物(きわもの)です。
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大阪新町の太夫、吾妻(あづま)と山崎与次兵衞が主人公。山崎与次兵衞は当時流行歌に歌われた人物。
♪あづま請け出せ山崎与次兵衞、うけだせうけだせ山崎与次兵衞♪
などと歌われている。実説は定かでない。近松の世話浄瑠璃には珍しく、ハッピーエンドで終わっています。
近松門左衛門の世話浄瑠璃は全二十四編。世話浄瑠璃は、心中物、姦通物、処罰物(本巻の①②③④⑤)、仮構物(本巻の⑥⑦⑧⑨⑩)の四種に分類されます。
処罰物は、金銭をめぐる犯罪によって処罰された事件を題材とするが、単にニュース性を追うのでなく、犯罪を引き起こした人間関係やその動機に、人の心の有様を見つめて舞台化がなされています。単純に犯罪者を悪人扱いせず、一人の人間の行為と見て、その行為に秘められた思いを明らかにさせ、人間の弱さ、たやすく崩れる人の心を描いています。
仮構ものは、現実の事件がもとになっていない、虚構の話ですが、現実からかけ離れた人間を作ることはせず、近松の人間への理解を、虚構であるが故に一層窺わせるものがあります。
近松門左衛門の魅力は、こうした人間の心、その心の動きを捉える素晴らしい文章にあるといえます。浄瑠璃という『語り物』でありながら、世話物は、現実的な人間の行為が会話によって進められる場合が多いです。そうした会話の端々に、近松の優れた『台詞(せりふ)』に出会えます。
近松の素晴らしい文章に酔いしれながら、飽きることなく読み進めてまいります。






















