2013年
この年の正月は
いつにも増して
忙しくしていた。

元日は結局、ダーツをして解散。
当然、トドメのテキーラで
キッチリ仕上がった。
これ以上の深酒は禁物。
俺は、翌日の予定に備えた。
翌、2日は
父親と会う約束を
していたからである。

正月に父親に会うのは
何年振りだろう。
昼前、俺は
用意していた酒を手に
親父の部屋へ向かった。

親父の部屋は殺風景で
正月を思わせるものなど
何一つなかった。
男の独り暮らし。
まぁ、そんなもんだろう。
しかし、
毎年、この部屋で
独り正月を迎えている
と、思うと
少々、刹那くもなった。

俺は、手土産の酒を置き
慣れねえデパ地下で買ってきた
いくらかばかりの
正月を思わせる肴を
テーブルに並べた。
親父は
『寒かったろう』と
すぐに日本酒を燗けてくれた。
二人だけの宴の始まりだ。


呑み始めてすぐ俺は
親父が、
あまり酒に手が伸びない
ことに気付いた。


『どした?  調子でも悪い?』


『あ、ああ‥  少しな。』


『なんだ?風邪でも引いた?』



親父も、もうイイ歳だ。
身体にガタも来てるだろう。
少し小さくなった背中が
一層そう思わせた。
しかし、親父は

『風邪? いや、いや。
昨日、
ちょっと呑み過ぎちゃってな。』


『なんだ。二日酔いか。
安心したよ。
何時まで呑んでたん?』


『そうだな‥
5時か、6時くらい
までじゃないかな。』


(なに?
俺と大して変わんねーじゃん)

『まさか、夕方じゃねーよな?』


『ま~さか、朝だよ朝。』


『だよな。』

(アホは俺だけか)


『ただな、ちょっと呑み始めが
早かったんだよ。』


『へぇ、何時頃よ?』


『11時くらいかな。』



(そうか。親父も弱くなった。
もう昔のようにイカレた飲み方は
出来なくなったか。
まぁ、6時間  独り呑んでりゃ
そんなもんか。)



『昼のな。』


『は?』


『大晦日の昼前に
仲間で集まってな。
気付いたら朝だよ。』



(どんだけ気付かねーんだよ。
どんだけ~~だわ。
でもまぁ、
独り寂しくってワケじゃなくて
良かったけどよ。)




『で、お前は最近
どうなんだ?』



(まぁ、近々で言えば
アナタと一緒。二日酔いです。
でも今 聞いてんのは
そういうことじゃねーだろう。)

『特に変わりねーかな。
あえて言うなら
仕事 始めたよ。
また、夜だけど。』


『ほう、そうか。
まぁ、なんにしても
しっかりやれや。なっ。』


『ああ。ぼちぼちやるさ。』



まぁ、なんにしても
は、俺の台詞だ。
親父が元気そうで
なによりだった。




いつしか、陽も傾き
お互いキッチリ酒も回り‥
そう。
迎え酒、正月とくれば

「いつもより回っております!」

である。
気が付きゃ
結構な時間だ。
薄暗くなってきた部屋。
明かりを点けようと
立ち上がろうとした俺に

『なぁ、たかし‥』

その親父の声のトーンに
俺の動きは止まった。

『あ?』

座り直した俺に
一瞬、声を詰まらせながら


『お前に頼みがあるんだ‥』


うつむいた親父の表情は
薄暗い部屋で
よく見えなかったが
何か寂しそうなことは
感じとれた。

『ああ。構わねーよ。』

俺は、一言そう答えた。


『待てって。
まだなにも言ってないよ。』


『男が、よくよくのことで
頭を下げたとき
親父だって、
訳を聞いて引き受けたり断ったり
なんて しねえだろ。』



親父は少し黙っていたが

『んん‥  そうか‥
悪いな‥ 。』



そう言うと
静かに話し始めた‥







明けましておめでとうございます



今年も、
昨年末から元日にかけての
恒例年越し麻雀は
行われたワケだが
開催以来、初黒星を付けた。
更に、元日早々
雀荘に携帯を忘れる
という、
アクロバットを繰り出した。

今年も立花だ。
宜しくお願い致します。




正月はテレビも特番と称し
3時間 4時間スペシャルをやるが
今回、立花も
二本立てロングバージョンを
書いて見た。
ただ、スペシャルというワケではなく
いい加減、書いて置かないと
話が進まないからで
長くなっちゃった! って、だけ。
唯一、正月特番との共通点は
大して面白くもない。
ということである。





さて、二年前の正月の話の続きだが‥

『乳首が着いてりゃなんでもイイ』

の、名言を残し安らかに逝った
ポンコツKは、放って置いて
我々は、酒を煽った。
そろそろ河岸を変えよう
という話になったが
特に行く所も浮かばず
時計の針と酔いだけが回った‥

しばらくして
Jくんが打開策を打ち出した。


『ビリヤードやりましょうよ!』

『グッドアイディ~ア!』


俺とGは、
揃って声を上げた。

そうと決まれば
こんなガラクタ用は無え。
Kを叩き起こし
我々は店を出た。
Kとは、ここで別れ
俺たちは
ビリヤード場に向かった。

ビリヤード場 到着。
普段は、ジャズのかかる店内も
この日は演歌が流れていた。

(イイじゃねーか。正月らしくて)

更にテンションの上がった三人は
各々カクテルを頼み
プラス二杯のテキーラを追加した。
このテキーラはゲーム用。
三人勝負の一人勝ち抜け。
二人は飲むことになる。

ファーストのドリンクが来る前に
まずは、テキーラを賭けて
ジャンケン一発勝負。
Jくんが勝ち抜けた。
気を良くしたJの舌は良く回る。
このとき有線では

【岸壁の母】

が、流れていて
Jは、この曲の解説を始めた。
歌い出しは


母は来ました
今日も来た
この岸壁に
今日も来た

で‥


これは、終戦間もない頃
戦争に行った息子の帰りを
待つ母の歌。

京都の舞鶴港に
復員船で引き揚げてくる兵士の中に
息子の姿はなく
いつしか、引揚船も来なくなった。
それでも毎日
母は、この港に立った。
港の名前は舞鶴なのに
なぜ飛んで来てはくれぬのじゃ
雪と風のシベリアは寒いじゃろう
つらかったじゃろうと
命の限り抱きしめて
この肌で温めてやりたい


と、母の想いを歌っている。


そんな解説を聞いているうち
飲み物が運ばれて来た。
まずは‥と、乾杯はしたが
俺もGもテキーラはクチにせず
Jくんの話に聞き入っていた。

Jくんは続ける


『この歌‥ って、いうか、
この話、実は
モデルになった人が居るんすよ』

最初の引揚船 入港から
6年間 この母は
毎日、港に通ったそうだ。
晩年は体調を崩し
高齢でもあった為
入院してしまったのだが
最期まで生存を信じ

『息子が帰ったら私の手作りのものを
一番に食べさせてやりたい』

と、81歳で亡くなるまで
息子のことを忘れることなく
帰りを待っていたそうだ。


この母が実在したことを知り
Jくんの話を聞きながら
この歌を聴いていると
目頭が熱くなった。
俺は喉に込み上げるものを
流し込もうと
テキーラをクチにした。
次の瞬間 Gが

『ハチ公っすね! ♪ヽ(´▽`)/』


俺は、思わず吹き出した!
犬じゃねーか!
不謹慎にも程がある。
が‥
イカンことに
俺とJにはツボだった。
どんなに不謹慎だと思いながらも
この話を犬に例えたバカの一言。
笑いを堪えようと思っても
ボディブローのように効いてくる。

確かに、ハチ公も良い話だし
泣けるし、待ってる‥ けど‥
でも、息子を待ってる母と
一緒にしちゃマズいだろ!
台無しだ!
話していたJくんも
さすがに、笑ってしまっている。
この後の話もあったようだが

『もう、話す気 失せたわ。』


そう言うと、
Gが飲むはずだった
テキーラを飲み干した‥





皆、ビリヤードは数年振りだ。
思うようにゲームが進まない。

(しょうがねーか。
久しぶりだし。
勘が鈍ってるだけだ。)

ところが
勘が戻るどころか
胃の中のもんが戻って来そうだ。
鈍ってるのは勘じゃねえ。
身体じゃねーか!
そして、
三人は気付かされる。


(ウィルスにやられてやがる。
酒ウィルスに。
それも強烈なやつだ。
そうだ。
居酒屋で
「ビリヤードをやろう!」
と、言い出したJ。
なんのためらいもなく
グッドアイディ~ア!
と、返事をした俺たち。
あのとき、すでに俺たちの脳は
ウィルスに侵されていたんだ。
そして、酒ウィルスは
着々と我々の身体を蝕んでいたんだ。
だって‥
もう
手足すら
云うことを利かないじゃないか!)

そして、俺は思った。


(あぁ、つまらねえ。
ビリヤードって、
こんな つまんなかったっけ?)


しかし、
ここでこの台詞を吐いたら
一気にシラケてしまうだろう。
俺は空気を読み
テキーラと この台詞を呑み込んだ。
次の瞬間Gが


『あぁ、つまんね!』


吐き捨てやがった!
コイツの頭に
フィルターはないのか?
浮かんだ言葉を
クチにする前に‥
じゃなきゃ
「ハチ公っすね!」
の台詞は出ない。

しかし、
この台詞には Jも同調。
そして、
「ヤメヤメ!」
即決。
このときばかりは俺も
ラス負けだろうが
次が決まっていなかろうが
そんなことは
どうでも良かった。

ただ、一つ。
Jくんの話の続きだけは気になった。


『なぁ、さっきの話
ホントは、もう少しあったんだろ?』


『ああ、ハチ公?』


Gがクチを挟む。


『お前は、黙ってろ!
なぁ、Jくん聞かせてよ。』



するとJくんは
「今更、シラケますよ」
と、前置きしたあと


『実は、息子さん生きてたんすよ。』




ええ~~っ!
シラケねーじゃん!
Jくんは続ける


『でもね、結局
母親には会わなかったんですって』


『会わなかった?
会えなかった だろ?』


『いや、会わなかったんですって。
母が待ってることも知ってたけど
帰ることも連絡することも
しなかったって。
理由は、はっきりしてなくて‥
母親が亡くなった後
慰霊団が息子を見付け出したんだけど
「自分は、もう死んだことになってる
今更、帰れない。」
って、言ったそうですよ。』



『先生は、もう死んでたんすよね?』



『先生?』



『飼い主。ハチの。』



『ね?シラケたでしょ。』






そして、俺たちは
伝票を手にカウンターに向かった。
会計を済ます直前 Jくんが

『アレ やりましょうよ!』


Jくんの視線の先には ダーツ。
俺たちは
「グッドアイディ~ア!」
即答した。
しかし、
30分後 G の


『あぁ、つまんね!』



この一言で
全ての幕を下ろしたのである。





f i n






我が家のDVD が、ついに沈黙。
電源すら入らなくなった。
かと思えば、突然の暴走。
いきなり、ワケの分からん番組を
勝手に録画し始める。
この前は
【テレビで  アラビア語】
その前は
【仏像大好】


これで俺が死んだら
アラビア語を勉強してる
大仏好き
いや、
大仏大好きな奴
だと思われんだろうな。

俺が気が付いたのは
これだけだが、きっと他にも
何か録画しているはずだ。
しかし、電源が入らないので
それが確認出来ない。
気になって仕方ない立花だ。
宜しく頼む。




さて‥


ホワイトアイ(白目)で沈黙のK。
まあ、普段  酒を呑まない
彼にしてみれば
そこそこ呑んだ方なのかもしれない。
考えてみれば、ホスト時代の彼は
店でも  ほとんど呑まず
先輩のテーブルで
シャンパンを飲まされては
よくツブレていた。

我々が出会った店は
ホストが 100人近く在籍していて
クセの有る奴も多かったが
その中でも K は特殊な存在だった。
いわゆる ヲタクと呼ばれる部類。
それも筋金入り。
本来、酒もタバコもやらず
楽しみは、ゲームとコミケ。
その場にいる我々三人とは
まるで違うタイプだ。
実際、ホスト時代は
俺のテーブルにヘルプで着いたとき
少し話した程度で印象は薄い。
そんな彼を印象付けたのが
数年前の忘年会。
今回のような沈黙の後
突然の暴走。
大いに やらかしてくれた。
それを知っている我々は‥






隣に座っていた Gが
尋常でない揺すり方で
白目ちゃんを起こす。
(オマエ、それじゃシラフでも
気絶すんじゃねーか?)

たまりかねて目を開ける K。
黒目ちゃん復活。
そこへ すかさず


『ほら、冷たい水でも飲んで!』

と、グラスを手渡す G。
Kは、それを受け取り
一気に飲みほ...さない。
半分ほど飲んで彼は


『なんすかぁ~、コレむかっ


G が手渡したグラスは冷酒。
コレ、毎年 お約束。
よくもまあ、
毎度毎度 引っ掛かる。


『あー、もうっむかっまたーむかっ
ちょっと寝かせて下さいよ』


『どんくれーよ?』


『8時‥   』

『30分な!
コイツ今、
8時間て言いそうでしたよ!』


Gは、遮るように言った。
しかし、30分など
そんな約束 守る訳もなく、
我々は、1分置きにKを起こした。


『K! ほら!  30分経ったぞ。
起きろってば!』
(まだ 5分)


その言葉は届かず爆睡。
そこで Jが


『おっ!? K!
巨乳のオネーチャン来たよ!
ほら、巨乳!巨乳!』



そんなんで起きるかよ。
オマエ(J)じゃねんだから。
しかも、ここ個室だぜ。
誰も来ねーっつうの。










『・・・』



反応はない。
そりゃ、そうだ。
当然の結果。
そろそろ起こすのも飽きた。
なにしろ、
1分置きに声を掛けていては
まるで会話が出来ない。
しばらく放置決定。












『別に巨乳に興味ありませんよ』



反応しやがった!
しかも、今頃!?
なんつう時間差で!
更に、
うっすら笑みを浮かべてやがる。
当然 Jも、
そのスケベ顔を見逃さなかった!
そして、一気に畳み掛ける。


『あれ? もう一人の娘は
ちょっと小さいなぁ。
じゃあ、そっちの娘はどうよ?
微乳ちゃん!』


これには、すぐ反応。

『微乳も興味ないですよ。』


『ウソつけ!ニヤケた面で
なに言ってんだよ!』


Jが言うのも もっともだ。
ちょっと前まで
白目だったガラクタが
半笑いで話に乗って来たのだ。

すると Kは



『違いますよ。今
立花さんの夢 見てたんですよ!』


『その顔で言うんじゃねーよ!
なんか犯された気分だわ』


俺の、その言葉に
ニンマリする K。
なんつうリアクションだ。
正月早々 笑えねーぞ。
いや、
初夢が俺の夢って‥
コイツも笑えねーか。
否。
笑ってる!
しかも、エロ顔で!


Jは続ける


『孝志さんの夢の話なんか
どうだってイイんだよ!
オマエ、
オッパイ興味ねーのかよ?』


(あれ?
俺の夢どうだってイイか?
うん。確かに。
どうだってイイわ。)



そして、Kは名言を吐く。


『(興味)ありますよ。
だから逆に

【  乳首が付いてれば
        何でもイイんですよ!  】  』





   ♪ヽ(´▽`)/

このムッツリ大王が!
酔った勢いとはいえ
乳首が付いてれば‥  って、
それこそ逆に
付いてねーのなんて
鳥か爬虫類くれーのもんだろ!

中国では
空飛ぶもんは飛行機。
四本足は机。
それ以外は、何でも食う。
とか、いうが‥
コイツも その域だな。

我々が、そんな話をしていると
いつの間にか  また
Kは、安らかに旅立っていた。


『コイツ、それだけ言う為に
目覚ましたの?』

『最後の言葉がアレ?』

『じゃあ、アレが
辞世の句ってことで‥』




Kが、この日
暴走することはなかった。