恋はつづくよどこまでも二次創作小説【天堂浬の回想:最終話.あの日の君に】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

【天堂浬の回想:最終話.あの日の君に】



年が開け新しい春が来て高校3年生になった天堂浬(かいり)は本格的な受験勉強に突入した。聖昂学院3年生として、剣道、バスケ、ブレイクダンスの三つの部活動も夏が訪れる前には活動を終了し引退した。


浬は第一志望を父の母校でもある順天堂大学医学部とし、安定した合格圏内に位置していた。幼馴染みで同学年である鎌倉高校の海堂光太郎とは、以前のように多くは行き来 出来なくなったが、連絡はよく取り合っていた。


受験生の日めくりカレンダーは瞬く間に枚数を減らし、一年を終え、いよいよ受験本番の新しい年のものと入れ替わった。天堂浬は第一志望の順天堂大学医学部に見事合格。続く海堂光太郎は浬の姉 流子が通う横浜市立大学に合格した。


一年後、水上 海も湘南白鳥学園から光太郎を追うように横浜市立大学へ入学した。幼馴染みの二人は 国際教養学部で初めて先輩後輩となった。光太郎は家業の老舗和菓子屋 的屋を手伝い、海もまたリストランテ マーレのホールに立ちながら、大学の講義の傍(かたわ)ら、二人で本格的な料理教室にも通っていた。以前、浬(かいり)が言っていたように、幼馴染みの光太郎と海は先輩後輩という間柄も加わり、共に過ごす時間も格段に増えていった。そうしているうちに二人はいつしか恋愛感情が芽生えていった。そして光太郎は大学を卒業するとイタリアへの料理修行へ2年間向かうことを決断した。もう一つ、大きな決意を示すべく、イタリアへ旅立つ前に海にプロポーズし、二人は婚約した。


光太郎は海が幼い頃から大好きでたまらなかった江ノ電の鎌倉高校前駅のホームでプロポーズしたのである。天堂浬とも過ごした懐かしくも最高に楽しかった思い出が詰まった鎌倉高校。自宅のある鎌倉駅から江ノ電で通った3年間。湘南白鳥学園に通う海とは、三駅だけ同じ車輌で顔を合わせることもあった。その二人がやがて天堂浬と再会し、浬の姉 流子と同じ大学に通い、婚約に至った。


二年間のイタリアへの料理修行へ向かう前に、二人は以前から的屋と懇意にしている割烹 松元で婚約報告を行った。その場には両家と共に二人と極 親しい友人、知人も招かれ、浬と流子の姉弟も出席した。

「光太郎、ウミちゃん、おめでとう」

「ありがとう、浬」

流子は殊更(ことさら)に嬉しそうだった。

「やっぱり私の思った通り。ウミちゃんは光太郎君の良さにいつか気づくと思ってた」

「流子さん、ありがとうございます」

「ウミちゃん、泣くのはまだ早いわ。二年後の結婚式の時まで取っておかないと」

「姉貴、ウミちゃんは光太郎と二年間、離れ離れになるから寂しいんだよ」

「二年なんてあっという間よ。それでも愛する二人には待ち遠しいか」

光太郎は涙ぐむ海と手を繋(つな)ぐと浬に向かって笑顔をみせた。

「二年後、俺が帰ってきた時、浬も医学部の6年間が終わるな。三人で一緒に新たなスタートだ」

「イタリア料理の教室の他に、イタリア語の学校にも通ったんだろう。凄いな。尊敬するよ」

光太郎はニヤリと笑うと浬の言葉に応えた。

「尊敬するほどのことでもないだろう。浬も聖昂学院では部活3つやって第一志望の医学部に合格したじゃないか」

「ウミちゃんとの将来のために頑張ったんでしょう。素敵よ、光太郎君」

「まぁ、ウミも一緒にいてくれたので何とか続けられました。愛してるって強いですね」

「今からノロケてる。ごちそうさま」

「俺が行くのは情熱のイタリアなんで」

「愛が溢れてる?」

「はい!」

「参ったな」

半分呆れ顔の浬に光太郎は言った。

「今度、浬も彼女、紹介しろよ」

「いないよ」

「嘘ばっかり。みのりちゃんて子とこの頃 仲いいじゃない」

「あれはたまたま専攻が同じなだけだ」

「俺とウミも長い間 幼馴染みだった。帰国したら彼女、紹介しろよ」

「光太郎君、ウミちゃん、よく覚えていてね。名前は若林みのりちゃん」

「姉貴、勝手にフルネーム、教えるな」

「明るくて気さくで、とてもいい子。私も気に入ってる」

「姉貴がどうのこうのじゃないだろう」

「長く弟を見ているから分かるのよ。あれはただの知り合いじゃない。彼女に接する態度」

「へぇ~、あの浬がねぇ」

「何だよ」

光太郎と海は顔を見合わせるとクスクス笑い出した。

「聖昂学院の天堂君と騒がれても気にも止めず、クールにナポリタン食べてた」

「そうだぞ、俺とウミが剣道部の天堂浬宛に大量のカスタードクリーム饅頭の差し入れ、わざわざ届けに行ったんだからな。あの頃の浬と全然想像つかない」

「みのりは普通にいいこだよ。気も使わないし目指すところも一緒だ」

「浬君、それ、彼女って言ってるのと同じよ」

「写真ないのかよ」

「そのうち」

「しっかり撮っておけよ。約束だからな」

浬は否定するでもなく、ただ嬉しそうに頷(うなず)いていた。


それから、その年のクリスマスを迎える前に光太郎はイタリア フィレンツェの料理修行に旅立った。


2年が過ぎ、帰国した光太郎はリストランテ マーレで働き始めた。海はホールに立ちながら、母親ゆずりのセンスでフードコーディネーターのキャリアを磨いていた。それから半年後、二人は結婚した。


夏の盛り、二人の結婚パーティーはリストランテ マーレで行われた。浬はみのりを伴って出席した。それは光太郎と海のたっての願いだった。

「ご結婚、おめでとうございます」

「ありがとうございます。みのりさんと早く会いたかったもので、浬君にお願いしました」

「二年前、イタリアへ行く前に写真撮って見せろって言ったのに、浬は写真どころか、連絡さえ1度も送ってこない。こんな薄情な親友っています?」

「そう言うと思って、持ってきた」

浬が見せたのは数人の研修医との姿だった。

「確かに写ってるけど、俺とウミが見たいのはツーショット。こんな風に彼女とさ」

光太郎は海をギュッと抱き寄せると互いに頬を合わせた。

「ほとんどイタリア人になって帰ってきたな」

「向こうじゃ、これが普通だ」

ウェディングドレスの海は嬉しそうに微笑むと、可愛らしいブーケをみのりに差し出した。

「ウェディングブーケの替わりに、特別にみのりさんへ差し上げたくて」

「私に?」

「浬君と幸せになって欲しくて」

「次は浬だぞ」

浬は照れたように笑っていた。

「あっ、それから俺、今日から名前、水上光太郎になったからな。だからもう、元天海コンビだ。新しいコンビはみのりさんと浬、二人で引き継いでくれ」

「若天コンビとか?」

海の一言に皆が吹き出した。

「漫才かよ。俺の奥さん、お笑いのセンスも抜群だろう」

「ウミちゃん、幸せだな」

「ありがとう。浬君もみのりさんと幸せになってね」

しかし、その願いは叶わなかった。その後、みのりは心臓病を患い、浬の元から時を置かずして天国へと早々に旅立った。


心臓外科医としてまだ未熟だった浬は、みのりを助けられなかったことで、自分の力の無さを思い知った。愛するみのりを失い失意のドン底にいた浬に、ニューヨークのハドソン記念病院への留学を強く勧めたのは光太郎だった。

「流子さんが留学した病院だろう。知り合いもいるだろうからメンタル面でもサポートしてくれるよ。浬、行ってこい。思い切り勉強して立派な心臓外科医になって帰ってこい」

浬は俯(うつむ)いたまま唇を噛み締めていた。

「出来るだろうか」

「やるんだよ。とにかくやるんだ」

「光太郎」

「浬なら出来る」

「自信がない。心が揺らぐ」

彼方に視線を馳せる浬の瞳は、潤んでいるように見えた。

「いいか、それがみのりさんへの一番の供養になる。本気でそう思え」

浬はニューヨークで昼夜を問わず徹底的に技術を習得し腕を磨いた。そうして帰国すると優秀な心臓外科医として日浦総合病院に赴任した。浬が変わったのは心臓外科医としての腕だけではなかった。冷静沈着、無駄なものは全て排除し、研ぎ澄まされた雰囲気を漂わせ、一つの無駄もミスも許さない、冷徹な言葉で切り捨てるほどの、いわゆる魔王と揶揄(やゆ)される者として君臨していた。容赦なく氷の矢を放つ男の唯一変わらなかったものは、好物のクリームが入ったパンだけだった。


天堂浬は忘れられなかったみのりを失い、忘れてしまった七瀬と再び巡りあった。毎年みのりの誕生日には墓参りに花を持って訪れ、その年月の間に七瀬は救急患者を救った浬に憧れ、看護師になるべく猛勉強していた。そうして厄介岩石と辛辣(しんらつ)な言葉を容赦なく浴びせられた日から、七瀬は魔王 天堂浬の氷った心を溶かす勇者になったのである。浬が行ったのは彼女との写真ではなく、口元からはみ出たアイスクリームをすくったり、治療と称する情熱的なイタリア人の上を行く、大胆不敵な行動だった。ただ、大切な彼女の命を思い涙を流したのは、心から七瀬を愛する真実に他ならない。そうして天堂浬は佐倉七瀬と結ばれた。


二人より数年早く結婚した光太郎と海には、長男 樫太郎を筆頭に、次男 結之介、そして少し年が離れた長女の渚という賑(にぎ)やかな三人兄妹という家族だった。こんなエピソードもあった。幼い頃、樫太郎に名前の由来を聞かれた光太郎は、生家である老舗和菓子屋の的屋の菓子をもじったとか、生まれた月の柏餅からだと冗談混じりで言って、ショックを受けた息子に泣きべそをかかれて、海からしこたま怒られたが、実はイタリアへ料理修行に行っていた時、樫の木は雷も落ちないほど強く、十字架に使われる神木と言われていたことに感銘を受けたからだった。そこには強く前進する生きる力強さの意味を兼ね備えていたという。


次男の結之介にも時代劇からとったと言ったが、どうせ冗談だと相手にされなかった。結之介の名は皆を結びつける存在でいて欲しかったからだ。それを聞いた結之介は、いつもの冷静沈着さから、嬉しそうな満面の笑みを浮かべたという。末っ子の女の子は渚と名付けられ、母親の海とリストランテ マーレの湘南の風景を見事に引き継いでいた。


渚は浬と七瀬の長男 颯(はやて)と同い年で、二人は幼い頃から仲良く遊んでいた。もちろん、年上の樫太郎と結之介が二人の面倒を良く見てくれたのは言うまでもない。


そして颯には5歳下の妹が誕生した。名前は浬が考え、颯も一番良いと答えた名前だった。音の可愛らしさから七瀬も気に入り、澪(みお)と命名された。澪とは船が通った後に出来る水の跡と言われている。それは人生の航路も意味し、健やかに穏やかに水面を進んでいく未来への願いも託されていた。


お天気の良い週末、やっと一歳になった澪を連れて浬と七瀬夫妻は颯と一家四人、久しぶりに江ノ電に乗り、光太郎と海が本格的に経営に加わったリストランテ マーレにやって来た。颯も今春から新一年生になり、毎日電車で通学している。帰宅後は澪と共にベビーシッターと英語のレッスンも続けている。そんな颯も今日はのんびりと江ノ電の乗り心地を楽しんでいた。


やがてリストランテ マーレにやって来た四人は、浬が予約した席に通された。そこは海沿いの席とは違う奥まった静かな席だった。

「いらっしゃい。浬、七瀬ちゃん」

ランチのピークを少し過ぎた時間に光太郎と海は楽しそうに料理を運んできた。まずは彩り豊かな前菜から並べられた。

「結婚記念日、おめでとう」

「まだ10年には早いけど、あの日と同じようなコースにするわね」

「ありがとう、嬉しいよ。七瀬は覚えていないようだけど」

浬の言葉に七瀬は不思議そうに首を傾(かし)げた。

「いつのこと?先生とは何度もここに来てるけど」

「僕も分からない」

颯の言葉に浬は優しい微笑みを返した。

「颯が生まれるずっと前、ママがちょうど颯と同じ小学校一年生の頃のことだよ」

「ママが?」

「そう、パパは高校二年生で光太郎おじさんの美味しいパスタをご馳走してもらいに、リストランテ マーレに来ていたんだ。パパは向こうの席に座ってた。ママは同じこの席」

「えっ?」

「鹿児島のおじいちゃんとおばあちゃんが新婚旅行で来たリストランテ マーレに、結婚10周年でママと伯父さんと一緒に四人で来たんだよ」

「私、何となくしか覚えてない」

「江ノ電でも向かい側の席だった」

「先生、高校生の頃を覚えていたのに、後から病院で再会したのは忘れていたんですか?」

「すっかり忘れてた」

光太郎と海は顔を見合わせた。

「やっぱり、あの時言ってたよな」

「七瀬ちゃんの名前、忘れるって」

「先生、私の名前まで知ってたの?」

「それは七瀬が俺にXmasカードをくれたからだ」

「私が先生に?」

「お前だって忘れたんだろう」

「カッコいいお兄さんへ、一緒にXmasツリーを見たいって、リストランテ マーレ宛に 送ってきたのよ。ちゃんと『ななせ』って名前が書いてあった」

「未来のデートの申し込みだって浬に言ったよな」

「七瀬ちゃんは忘れても見事実行したって訳ね」

「ママもパパも凄い」

「何が凄いんだ」

「しゅごい!」

「澪も言ってるよ」

浬と七瀬は顔を綻(ほころ)ばせた。

「幼かったあの日の君に教えてあげたい。君は天堂浬と結婚して、天堂七瀬になるんだよと」

「僕と澪もいるよ」

「みおも!」

「そうね、私は先生と結婚して、颯と澪のママになるのよって」


あの日のように子供たちも楽しめる料理がテーブルいっぱいに並んでいった。そしてイタリア伝統のデザート、丸い帽子の形をした真っ白なズコットは樫太郎、結之介、渚の三人が運んできた。

「結婚記念日、おめでとうございます」

「わぁ、綺麗なケーキ」

「たべる!」

颯も澪も大喜びしている。

「先生、ありがとう。とっても美味しい」

七瀬の口元にはアイスクリームがはみ出たように真っ白く付いている。

「ここ、付いてる」

「えっ?」

「全く、お前って奴は」

浬は素早く七瀬の口元に付いたケーキを自らの口唇で拭(ぬぐ)い取った。

「こ、これは治療だからね」

「治療じゃない。今日は休診日だ」

慌てる七瀬に浬は余裕綽々(しゃくしゃく)だ。そんな両親に浬そっくりの颯は言った。

「ママ、焦らなくてもいいよ。僕だけじゃなく皆、パパがママを最高に愛してるって知ってるから」

ただ、澪だけは七瀬の真似をして恥ずかしそうに両手で顔を覆っていた。


真っ白なズコットとアイスクリームデートの思い出が重なって、デザートは若き日の思い出を更に甘くさせた。


あの日の君に、未来の言葉を伝えよう。


愛してる、大切な人。いつも君のそばにいるよ。


新作 【あをによし:第1話.料理長の腕前】

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第9話.七瀬のXmasカード


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NYランデブー:最終話.桜の下の待ち人

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終わり



風月☆雪音