恋はつづくよどこまでも二次創作小説【NYランデブー:番外編 前編.パパはDr.天堂】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

【NYランデブー:番外編 前編.パパはDr.天堂】


天道浬(かいり)と佐倉七瀬が入籍してから1ヶ月後、同僚達の計(はか)らいで二人はささやかな結婚式を挙げた。それでもスケジュールがいっぱいな浬は披露宴どころか、新婚旅行さえ行えない状態だった。

天堂七瀬となった愛しい妻 七瀬も、ニューヨークから帰国した翌日から日浦総合病院の看護師として復帰していた。しかし浬はというと、七瀬の出勤初日から些(いささ)か不満があるようだった。
「時差ボケもあるだろう。一日くらい休んでからでもいいんじゃないか」
「先生はニューヨークから帰国した翌日、休みました?」
「いや、出勤した」
「じゃあ、私もそうします」
「俺の場合は報告や診察があった。お前は少し休め」
「何でですか」
「昨日は帰国したその足で婚姻届を出しに行ったし、その後も鎌倉まで出掛けたから」
七瀬は少しばかり からかうように浬を見上げた。
「先生、どうして急にそんなに優しくなったんです?」
「何だって?」
「家の中では魔王返上ってことですか。それなら嬉しいかも」
ところが予想していた返事は返って来なかった。それどころか浬は涙ぐむと七瀬をしっかりと抱き締めた。
「先生…」
「何も言うな。幸せだ」
「私も」
「朝食、ありがとう」
「前にも作ったじゃないですか」
「昨日、上条さんのおばあ様からいただいたアジの干物が焼ける香りで目が覚めた」
「美味しかったですね」
「あぁ、美味しくて幸せだ」
「それなら一緒に出勤しましょう」
浬は抱き締めていた腕を解くと柔らかな笑顔を向けた。
「昨夜、寝言を言っていたぞ」
「私、何て言いました?」
「赤ちゃん、可愛い。先生にそっくりと言って俺に擦り寄った」
「キャッ!」
真っ赤になった七瀬は顔を覆った。
「恥ずかしい。寝言ですから本気にしないで下さい」
「子供が欲しいなら、俺はいつでもいいぞ。妊娠出産も健康と体力だ」
「し、自然にまかせます」
「それならもう妊娠しているかも知れないじゃないか」
「えっ、先生は分かるんですか」
「そんなはずないだろう。可能性の問題だ」
「そうですよね」
「兆候があったら直ぐに報告するんだぞ」
コクリと頷(うなず)いた七瀬は独り言のように呟(つぶや)いた。
「何をどう報告すればいいか分からない」
「だったら産婦人科へ言っておくか。天堂七瀬が行きますと」
「天堂七瀬って、エヘヘ」
「照れるんじゃない。何なら俺も一緒に行くか」
「要りません」
「即答するな。それならしっかり学んでこい」
「はい」

そうして忙しい二人は一ヶ月後やっと挙式を済ませ、また仕事に忙殺されていた。

季節は桜から菖蒲の花を迎える5月になっていた。ゴールデンウィークで病院の外来が休診となり、やっと連休が取れた二人は、結婚式の写真と手土産を持って鎌倉に住む上条周志(ちかし)の祖父母の家を訪ねることにした。鎌倉駅近くの鶴岡八幡宮では、ちょうど菖蒲祭で賑(にぎ)わっている。天堂浬と七瀬は江ノ電の鎌倉駅ホームから混み合う電車に乗り込んだ。由比ヶ浜駅までは二駅、次の和田塚まで2分、乗り降りを考慮しても5分というところだ。観光客は先の長谷駅で降りる人も多いので電車内は混雑し、人いきれでいっぱいだった。七瀬はお年寄りに席を譲ると握り棒に掴まり、また眠そうに目を閉じた。

由比ヶ浜駅に到着した電車のドアが開くと、浬は七瀬の手を取りホームに降り立った。
「どうした、ボーッとして。乗り越すぞ」
「ごめんなさい、眠くなっちゃって」
そういえば七瀬は東京から鎌倉駅に着くまで、電車の中でも浬の肩に寄り掛かり眠ってばかりいた。疲れているのだろうと、そのまま寝かせておいたが、今も瞼(まぶた)が重そうで、うつらうつらしている。
「七瀬」
「はい、先生…」
手を繋ぎ緩やかな下りの改札を抜けると、浬は心配そうに七瀬の顔を覗(のぞ)き込んだ。それほど疲れているのだろうか。このところ忙しくてお互いバタバタしていた。夕べは七瀬が先に眠っていた。
「今朝はどうだった?」
「どうって、いつもと同じなんですけど、この頃、変なんです」
そう言って七瀬は首を傾(かし)げた。
「身体がダルいような、でもちょっと違う。何処か重いのにフワフワ浮いている感じ」
「何だ、それ」
「初めてなので、よく分からないんです」
「食欲は?」
「食べたいような、食べたくないような」
「食べ過ぎじゃないのか」
「そうかも知れません。食べられる時に急いで食べていましたので」
浬は七瀬の頬を両手で挟み込んだ。
「お前、太ったか」
「体重は同じです」
「顔が丸くなった気がする」
「やめてくださいよぅ」
「そうではなくて、浮腫んでいないか」
「自分では自覚がありませんけど」
「気をつけるんだぞ」
そう言って浬は優しく七瀬の手を取った。

由比ヶ浜からほど近く、潮の香りが風に乗って心地よい静かな住宅街を歩くと、塀の上から手入れの行き届いた庭木が見えてくる。今は若葉が深い青さを湛(たた)え、艶(つや)やかな新緑を靡(なび)かせている。日の光が徐々に強さを増し、僅(わず)かに見上げた七瀬は眩(まぶ)しさに目がくらみ、目眩(めまい)を覚えた。足元が揺らぎ身体が崩れていく。
「先生…」
「七瀬!」
浬の声と顔がぼんやり見えたあと、七瀬はそのまま眠りに落ちていった。

次に目覚めた時、七瀬は上条周志の祖父母の家のベッドの上にいた。誰かが手首に手を当て脈を取っている。それは浬の長くしなやかな指ではなく、太くしっかりとした老人の手だった。
「あの、私」
「静かに静かに」
にこやかな笑顔の老人は白衣を着ている。医師なのだろうか。
「心配せずとも良いよ」
老医師はそう言うとウンウンと頷(うなず)き、浬へ目を向けた。
「奥さんはどうやら懐妊しているようだよ」
「七瀬は妊娠しているんですか」
「妊娠すると血液の量が増えて流れが活発になるんだ。つまり脈も力強くなる」
老医師はそう言って浬の指を手首の下の部分にあてがった。
「ここはいわゆる妊娠の兆候が出る神門だよ」
「何かが転がって行くように押し返してくる」
「滑脈と言って妊娠の特徴的な脈だ」
「先生、私に赤ちゃんが」
「あぁ、うん」
思いがけないことに、喜びと戸惑いの中にいる二人に老医師は告げた。
「連休で病院は休みだろう。今は妊娠検査薬もあるから、それで確かめて、連休明けに産科へ行くといい」
「ありがとうございます」
浬は深々と頭を下げた。
「妻の妊娠の兆候を、こうして東洋医学の脈の特徴で教えていただいて大変嬉しく思います」
「小さな命の新たな息吹きだ。これから日々成長する姿を脈で感じると良いだろう」
老医師は二人にそう言うと、楽しそうにもう一つのことを告げた。
「子供が男の子か女の子か、脈診で性別が分かると言われているが、お二人には言わないでおこうと思う。どうかね」
「私も生まれるまで待っている楽しみを取っておこうと思います」
「私も」
七瀬も同調すると、上条夫妻は満面の笑みで祝福の言葉を掛けた。
「おめでとう、天堂先生、七瀬さん」
「私も妊娠した時、眠くて大変だったの。もしかしてと思ってご近所の冨岡先生に来ていただいたのよ」
「東洋医学の第一人者である冨岡勇先生でいらっしゃいますか」
「そんな大それた者ではないよ」
「謙遜しているが、冨岡先生は腕は確かだ」
その言葉に同調したのは上条周志だった。
「僕も子供の頃、熱があると冨岡先生に診てもらったよ。甘い薬が貰えるから嬉しかった」
「大きくなったなぁ」
笑いが起きる中、七瀬だけは目を丸くした。
「上条さん、どうしてここにいるの?」
「自分の祖父母の家に遊びに来ただけだよ」
「それより周志さんは天堂先生を連れて薬局へ行っていらっしゃい」
「妊娠検査薬を買いに行ってきます」
「僕も行くの?」
「周志さんなら、一番近い薬局も知っているでしょう」
「何で僕が」
「すみません、上条さん」
「まぁ、七瀬ちゃんのお願いなら仕方がないか」
若い男二人がそそくさと薬局へ向かう背中は、それぞれ嬉しさとこそばゆさを含んでいる。ほどなくして帰ってきた浬は時を置かずして、七瀬の妊娠の兆候を目の当たりにした。
「まだ、安定期ではないから十分に気をつけるんだぞ」
「はい」
そう言って差し伸べた手は同じはずなのに、何処かいたわりと喜びを含んでいる。祖父母に暇(いとま)を告げる二人に、周志は自分の車に乗るように促(うなが)した。
「二人を送って行きます。連休で電車も混んでいますし、何よりその、安定期ではないそうなので」
「周志さんも大人になったのね」
「そういう気遣いが出来るようになったとは、頼もしい限りだ」
「帰る方向が同じだけです」
照れた周志は助手席に乗り込んだ。
「社長、こちらでよろしいのですか」
驚いたドライバーが目を丸くしている。
「後部座席は三人分だ。今日はDr.天堂に席を譲るよ」
周志は素っ気なくそう言うと発進を促(うなが)した。

季節が移ろい、七瀬は臨月を迎えていた。出産予定日にはまだ幾日かあるが、いつ生まれてもおかしくない。浬は出産に立ち会うことを望んでいたが、その日は突然やって来た。
「七瀬ちゃん、天堂先生は手術中だわ」
「先生には伝えないで下さい。私一人で大丈夫です」
「生まれるまで、まだ時間が掛かるわ」
そう思っていたのだが、七瀬は時を置かずして男の子を出産した。
「なんてハンサムな赤ちゃんなのかしら。天堂先生そっくり」
「今、フフンと笑いましたよね」
「さすが天堂ジュニアだわ」
やいのやいのと皆が喜び囃(はや)す中、天堂浬はやっと生まれた我が子の元へ駆けつけた。
「すまん、遅くなった」
「あっという間に生まれてしまって」
「気の早い子だ。それより合理的に無駄な時間を省いたと言うことか」
フフンと笑った浬は、乱れた髪もかき上げず、初めて我が子を抱き上げた。
「可愛いな」
「皆さん、先生にそっくりだって、もう天堂ジュニアと呼ばれています」
「名前は決めてある」
浬に促され、七瀬は白衣のポケットから折り畳んだ半紙を取り出した。

『命名 颯』

「はやて、天堂颯」
「とても良い名前」
「風が立ち起こり、何事にも負けずに立ち向かうように」
小さな颯は父親 浬の指をそっと握った。まだ、弱々しくも力強さを感じ、浬は目を潤ませた。
「颯、生まれてきてくれて、ありがとう。今日から天堂浬が君の父親だ」
それに応えたのは大きな欠伸(あくび)
だった。
「大物だな」
「天堂ジュニアですもの」
その声は確かに小さな耳に届いていた。

『僕は天堂颯か。もう知っているよ。僕のママは天堂七瀬、そして僕のパパは天堂浬。またの名を勇者と魔王と言うんだろう。でも安心して。赤ちゃんの僕はこれから色んなことを覚えていくから、次々に忘れていくことも多いんだ。Dr.天堂…』
そう呼び掛けたつもりが、オギャア~という泣き声になってしまった。
『フフフ~仕方がないな。当分、僕は赤ちゃんだから』


それから4年後、天堂颯は見事に天堂浬の遺伝子を踏襲した4歳の幼稚園児になっていた。颯は幼稚園入学の面接にあたり、両親の名前を聞かれて、こう答えた。
「お父さんのお名前は言えますか」
「はい、天堂浬と申します。仕事柄、Dr.天堂と呼ばれています」
「お母さんのお名前は言えますか」
「はい、天堂七瀬と申します。看護師で仕事柄、天堂担と呼ばれています」
「天堂担とは?」
「共に医療従事者ですので。…僕は両親が大好きです」
颯は真っ直ぐな眼差しで堂々と答えると胸を張った。

その姿とは裏腹に、世界中に蔓延する未曾有のコロナ パンデミックが、直ぐそこまで来ていた。


番外編 後編.パパはDr.天堂へ続く…

【NYランデブー:番外編 後編.パパはDr.天堂】


新作 あをによし:第1話.料理長の腕前


最終話.桜の下の待ち人


第1話.ロマンチック空港


高校生 天堂浬の回想:最終話.あの日の君にhttps://ameblo.jp/baeyongjoon829/entry-12723838529.html 




風月☆雪音