改:第723話.父親と恋人【連枝の行方.第二部⑦】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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第723話.父親と恋人

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』⑦】

ジュンサンが記憶を取り戻してから、ユジンは彼のマンションへ足繁く通っていた。サンヒョクにとって、そんなユジンの姿を見るのは想像以上に辛いものだった。ジュンサンがまだ記憶を取り戻していない頃、婚約していたユジンを浚(さら)うように連れ去ったミニョン。踏みにじられたプライド、怒りと屈辱にどうにも我慢が出来なかった。

チェリンに『二人で逃げたんでしょう』と言われた時には何も言えなかった。ただ口唇を噛み締め立ち去る事しか出来なかった。そんな屈辱的な経験を僕は過去に一度だけしている。

高校二年のあの冬…山小屋から帰ってきた日の事を思い出した。春川駅に着き、皆はそのまま帰るのが名残惜しかった。ヨングクとチェリンが何か食べに行こうと言った。僕はそんな気にはなれなかった。夜の山で迷子になったユジンはジュンサンと仲良く手を繋いで帰ってきた。見つけたくらいでなんだっていうんだ。たまたまじゃないか。二人が和解したのは明白だった。何を話したかなんて分からない。どんな手を使って、どうやってユジンを言いくるめたか。騙(だま)されているんだ、ユジン。返ってきた言葉は僕の心をズタズタに切り裂いた。
『ジュンサンを好きなの。私がジュンサンを好きなのよ』

どんなに僕が君を大切にしてきたか。どんなに君を思ってきたか。言葉は喉(のど)の奥で砕け散った。
『ユジン、僕は君が好きなんだよ』

帰宅した僕は両親に挨拶をする事さえ出来なかった。
『カン・ジュンサン、僕が羨(うらや)ましいのか。だから妬(ねた)んだのか。僕は何でも持っているから…』
『持ちすぎなんだよ。だからそんな奴は壊してやりたくなった』
何の事だ。僕が何をしたというんだ。

優しい母さんは僕を心配して様子を見に来た。
「サンヒョク、どうしたの。疲れたの?お願い、ドアを開けて」
僕を気遣う父さんの声が聞こえた。
「色々と悩むこともあるんだ。サンヒョクは私たちの子供だ。暖かく見守ってあげなさい」
父さんは言った。
「サンヒョク、父さんはいつでもお前の味方だからな」
少し膨れた母さんの声が重なった。
「自分だけ言って、私だって味方ですからね」
「おや、そうかな。サンヒョクに恋人が出来てもそう言えるかな」
「もう~息子の恋人なんて、そんなこと考えたくもありません」
優しい両親、いつも僕の味方だと言ってくれた父さん。あの時は考える余裕も無かったが今なら分かる。ジュンサンには父親がいなかった。ジュンサンはいつでも味方でいる父親が欲しかったのだろう。僕の父さんのような。

ジュンサンが姿を消し10年という時間が流れた。記憶を失っていたジュンサンは、父親が欲しかった自分を忘れていたのだろうか。いつでも味方でいる父親を。セウンのイ・テワンさんはジュンサンの父親だったのだろうか。本当にジュンサンの父親…。

何処かで小さな疑問が生まれた。ユジンはジュンサンが春川へ父親を探しに来たのだと言っていた。転校してきた初日から僕に敵意をむき出しにしていた。何の事か分からず不思議に思っていたが、今度は執拗に絡んできた。ユジンを巻き込んで。春川に父親を探しに来たのに何故急にアメリカへ帰ったのだろう。
「父親は春川出身の人…」

サンヒョクはジヌへ電話を入れた。
「父さん、お聞きしたい事があります。セウンのイ・テワン氏は春川出身の方ですか」
「イ・テワン氏はニューヨーク出身だよ」
「春川で暮らした事はないのでしょうか」
「彼はソウルの大学へ留学していたよ。私の母校だ。ちょうど私が大学生の頃で、ヒョンスとジュンサンのお母さん、カン・ミヒさんも一緒だったよ」
「ユジンのお父さんとジュンサンのお母さんが」
「私とヒョンスとミヒは高校も大学も一緒だった」
「えっ…じゃあ、カン・ミヒさんは春川第一の卒業生なんですか」
「そうだ。私とヒョンス、親友と共にいつもミヒがいた」
「父さん、カン・ミヒさんの恋人はイ・テワンでしたか」
「いや、テワンさんではない」
父の声は余韻を含んでいた。
「ミヒはヒョンスが好きだった。二人は婚約していたよ」
「婚約…じゃあ、ユジンのお母さんとは」
「ヒョンスはミヒと別れたんだ。絶望した彼女は自殺を試みた。川へ入ったミヒを助けたのは私だ」

次回:第724話.芽生えた疑惑

(風月)