改:第706話.友情のメダル【連枝の行方.第二部⑦】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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第706話.友情のメダル

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』⑦】

ジュンサンはミニョンへ電話をする事が多くなった。サンヒョクは仕事に復帰したが、ユジンはそのまま彼の元にいること。チェリンはまだ僕らが何処かで付き合っていると、疑いの眼で見ていること。ミニョンは言った。
「飲んでいるだろう」
「飲まなきゃ、やってられない」
「何処から電話している」
「ホテルさ。自分の部屋へ戻ってきた」
「それなら安心だけど」
ジュンサンはフッと鼻で笑うとソファーへ凭(もたれ)た。
「バーで飲んでいたらチェリンが来て、また付き合おうと言ってきた」
「酔ってるな」
「酔ってない」
「いくらチェリンでもいきなり来て付き合おうとは言わないよ。心配して駆けつけたんだろう」
「そうだったかな。よく覚えていない」
「起きてるか。酔っ払い」
ジュンサンはまた話し出した。
「チェリンに言われたよ。こんなのミニョンさんらしくないって。ハハハ~僕はイ・ミニョンじゃない。カン・ジュンサンなのに」
「チェリンはミニョンと呼ぶのか」
「そうだよ。『私はミニョンさんが好きなの』って。ジュンサンじゃなくミニョンが好きなんだと」

ジュンサンはグラスに注いだバーボンを一気に飲み干した。
「ユジンに言ったんだ。僕はカン・ジュンサンですって。でも信じなかった。こんなやり方は卑怯だって。ミニョンさんらしくないって言われた」
ジュンサンは額(ひたい)に手をやった。
「誰もジュンサンを覚えていない」
「覚えているだろう。ユジンもチェリンも初恋の相手はジュンサンじゃないか」
「僕は覚えていない。カン・ジュンサンの初恋を覚えていないんだ」
酔った声は涙声に変わった。
「あの時は初恋なんて忘れたと言っても少しも悲しくなかった。なのに今はどうしてこんなに苦しいんだろう」
ジュンサンは胸を叩いた。
「ここが痛いんだ。初恋だけじゃない。ジュンサンの事を何一つ覚えていないんだ」
「君をカン・ジュンサンだと分かる人はいるよ」

電話の向こうから啜(すす)り泣く声が聞こえる。
「ごめん、ミニョンの事もフローラの事も、忘れていてごめん」
「君は僕らと会う前にシンシアと会っただろう」
「シンシアはどっちに似ている?」
「僕かな」
「可愛いな」
「僕の事か?」
「シンシアだよ」
「酔っているのに真面目に答えるな」
「フローラは美人なんだろう」
「僕の妻にちょっかい出すなよ」
「僕が好きなのは今も昔もユジンだけだ」
「チェリンには言うなよ。可哀想だ」

それからミニョンはマシューへ連絡を取った。翌日、ジュンサンの元へマシューから連絡が入った。
「今度の日曜日、ソウル科学高校へ集合せよとの寮長からのお達しだ」
「寮長?」
「東寮寮長クム・ジェビンだよ。来ないと恐ろしいことになるからな」
「そんなに根に持つ人なのか」
「逆らうんじゃないぞ。それから妹のセビンちゃんにもうすぐ子供が生まれるから、野獣が一匹吠えまくっているが、そいつは気にするな。放っておけ」
「何だと、こらマシュー」
「あっ、ウォンセ。まだ話の途中だ」
ガチャガチャと音がして電話口から大きな声が聞こえた。
「カン・ジュンサン、チョ・ウォンセだ。東寮で同室だったチョ・ウォンだ」
「チョ・ウォンセ」
「忘れても思い出せなくてもいいから必ず来い。いいな」
「奥さんに子供が生まれるって」
「セビンは俺がお前と会えるまで出産を待っていてくれるそうだ」
「子供はいつ生まれるか分からないぞ」
「つべこべ言うな。セビンがそう言ったんだ」
「無茶苦茶な夫婦だよな」
「何だと、マシュー。もう一度言ってみろ」
「寮長に言いつけてやる」
「マシュー、僕のこと呼んだ?」
「ひゃ~寮長」
吹き出したジュンサンにジェビンは言った。
「カン・ジュンサン、僕らはいつでも君を歓迎する。点呼には遅れないように」

当日、そのままの雰囲気で彼らはソウル科学高校の正門に集合した。
「懐かしいな、ここで女の子たちが待ち伏せしていた」
「マシューは写真をばら蒔いてたもんな」
「ソウル科学高校のハンサム四人組とか騒がれてさ。いい気分だったなぁ」
「四人組って?」
「ジェビン先輩とジュンサンと俺と何故かウォンセ」
「女子にはワイルド嗜好が意外と多いからね」
「俺は関係ない。俺はセビンだけだから」
「はいはい、セビンちゃんは人妻になっても可愛いからね」
「マシューだってリナちゃん一筋だろう。こいつ婚約したばかりなんだ」
「元大統領の娘婿か」
「寮長、それを言われると緊張して身が縮みます」
「わざと言ったんだ。もっと言う?元大統領の娘婿君」
「ジュンサン、助けてくれ~。寮長は今も昔もこの調子だ」
「フフフ~僕はクム・ジェビンだからね」
「二人の男の子が寮長にそっくりなんだよ」
「俺もからかわれる」
「ウォンセをからかうって?怖いもの見たさか」
「二人ともいい子だ」
ウォンセの優しい物言いにジュンサンは懐かしさを覚えた。

全寮制も撤廃され、あの頃過ごした東寮は今は資料館となっている。それでも一階には校医が常駐していた部屋があり、二階には寮生が暮らした面影が残っている。大広間の食堂では青華の奉仕活動が決まり大歓声が上がった。柊(ひいらぎ)孤児院の子供たちと一緒に過ごした。アヴェ・マリアの歌姫探し、植物園の温室、成均館大学の学食、大統領官邸で過ごした夏、そして全員で力を合わせ挑んだ数学オリンピアード。ジェビンはジュンサンの手に寮生の名札を握らせた。
「ジュンサンの物もお祖母様から頂いてきた」
手にした名札は一本の紐(ひも)で綴じられていた。
「これは君がここで過ごした証(あかし)、数学オリンピアード金メダルにも勝る友情のメダルだ」
見つめるジュンサンの表情は穏やかだった。

次回:第707話.校医と学生

(風月)