改:第700話.ハートのエース【連枝の行方.第二部⑦】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

第700話.ハートのエース

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』⑦】

フローラが妊娠した事は直ぐにテワン邸へも伝えられた。電話を受けたテワンは大喜びでオーウェン邸へやって来た。
「ミニョン、フローラ、おめでとう」
「パパ、お義母さんまで、どうしたんですか」
「電話だけでは足りず君たちの顔を見たくて飛んで来たんだよ」
「私はちょうど帰ってきたところだったの。ここへ来る途中で聞いたのよ」
「お疲れのところを申し訳ありません」
「いいのよ、あなたは私の息子ですもの。それに、おめでたい事は疲れも吹き飛ばすわ」
ミヒはそう言うと傍(かたわ)らに立つフローラを抱き寄せた。
「おめでとう。元気な赤ちゃんを生んでね」
「お義母さま」
「テワンさんも私も楽しみにしているわ」

ミニョンはミヒへ問い掛けた。
「パリではジュンサンと会えたのですか」
「私ではなくジュンサンが遅れて来て、一時間しか会えなかったわ」
「まだパリの街に慣れていないのかな」
「それが博物館巡りをしていて、待ち合わせを忘れてしまったんですって」
「酷い奴だなぁ。待ち合わせを忘れるなんて」
「仕方がないのよ。建築の見学に夢中らしいから」
「まるで誰かさんみたいね」
フローラにからかわれるとミニョンは負けじと言い返した。
「だからいいんだろう。イ・ミニョンがやりそうな事じゃないか」
「ミニョンったら。お義母さん、すみません」
「いいのよ」
「子供が生まれたらもうそんな事は出来ないな」
「するくせに」
「たぶんね。いや、しないかも」
ミニョンはフローラのお腹へ優しく手を当てた。
「可愛い僕のベビー、パパは会えるのを楽しみに待っているよ」

数ヶ月後、フローラは女の子を出産した。生まれるまでミニョンはお腹に向かって男の子のように話し掛けていたが、ちゃんと女の子の名前も考えていた。
「パパ、ベビーの名前だけど『シンシア』にしようと思うんだ。どうかな」
「シンシアか、よい響きだ」
「月の女神の名前だよ」
「月とは…ミニョン、まさかまた神話の神々が目覚めたのか」
「大丈夫だよ、パパ。僕は純粋にシンシアの名前を選んだ。花の女神フローラの子は月の女神シンシア。シンシア・ムン、素敵な響きだろう。僕はこの名が一番気に入っているんだ」
正式に籍を入れずに子供を持つ二人は、シンシアには母親フローラの姓を名乗らせる事にした。テワンもそれを承諾した。たとえ名前はどう名乗ろうと、シンシアはミニョンの子に違いなかったからだ。
「よいだろう。シンシア・ムン、私の孫娘だ」

数年が経ったある秋の日、シンシアは裏庭へ入ると近道を試みた。今日は一人でママの大おじいちゃまの家へ行くの。いつもの道より新しく私が見つけた道を通ってみたい。裏庭は高い木もたくさんあって暗い所にはお化けがいるから行かないようにと、テワンおじいちゃまに言われていた。けれどそこには近道があるみたい。それに私、お化けなんか全然怖くないもの。カエルだって平気。私はパパに買って貰ったミニーちゃんのトランプを持って遊びに行くことにした。ダニエルおじいちゃまの家にテワンおじいちゃまも来ているからだ。

テワンおじいちゃまの家には行った事がない。いつも会うのは私の家か大おじいちゃまの家。私が『もしかしてテワンおじいちゃまはお家がないの?無いならパパが建てて上げる。私もお手伝いするわ』と言ったら、おじいちゃまは『お家はあるよ。でも嬉しいからシンシアが新しい家の絵を描いて』と言った。だから私は画用紙に描いてきたの。

高い木や葉っぱや草や花を越えて近道をしたら、知らないお家の庭に出た。そうしたら素敵な男の人がいたの。私を見て笑った顔はテワンおじいちゃまと、とても似ていてハンサムだった。
「こんにちは、君は誰かな」
「私、シンシア」
「僕はミニョンだよ」
『パパと同じ名前だ』
そう言いそうになったけれど口を押さえた。パパはもう一つの名前を名乗る事があるからだ。知らない人に本当の名前を言ってはいけないとパパやママに言われているし。それにそんなセリフ、テレビドラマでフラレる女の子みたいで嫌だもの。
「ごめんなさい、道を間違えました」
そう言ってお辞儀をしたら、トランプとスケッチブックが落ちた。ハンサムなミニョンお兄さんは親切に拾ってくれた。
「ありがとう」
「この絵は何かな。楽しいお家だね」
「大好きな人に見せるの。その人はお家はあるけれど、私が考えたお家の絵が欲しいんだって」
「ふうん。じゃあ、心の中に建てる家だ」
「何処にあるの?」
「あぁ、ここに」
その人は優しく微笑みながら、胸に手を当てると目を閉じた。なんて素敵なのかしら。王子さまみたい。見とれていたら私の口が勝手に動いた。
「ソウルへ行くわ」
「えっ?」
「ミニョンお兄さんはこれからソウルへ行くわ」
「あ…ソウルか。考えてもみなかったな。僕はこの前、パリから帰ってきたばかりだから」
お兄さんは少し困った顔をして笑った。

私はトランプからハートのエース取って渡した。
「これ、あげる」
「トランプは一枚足りないと遊べないよ」
「お兄さんが自分のハートのエースを見つけたら、私に返しに来て。そうして一緒に遊びましょう」
「じゃあ、記念に貰っておこう」
「今日はどうもありがとう。またね、ミニョンお兄さん」
「シンシア、気をつけてお帰り」
女の子はクルリと背を向けると裏庭の中へ消えて行った。

次回:第701話.恋人は初恋の人

(風月)