改:第699話.ソウル行きの予言【連枝の行方.第二部⑦】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

第699話.ソウル行きの予言

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』⑦】

ミニョンが暮らす別館へ引っ越したフローラは、小児科医として忙しい日々を送っていた。寂しさに我慢出来ずダニエルは変装までしてレストランのテイクアウトを持って行ったが、ヒエに見つかり敢(あ)えなく捕まってしまった。
「ちょっと、そこのあなた」
後ろから声がかかりギクリとしたダニエルは足を止めた。
「この家に何か御用かしら」
ダニエルは妻の声に声色を使ってのたまった。
「注文がありましたので、お料理をお届けに上がりました」
「何の料理かしら。メニューは?」
「チキンソテーのマスタードソースとオレンジソース添え、旬の生野菜サラダ、フレッシュチーズと温野菜盛りです」
「それにポーチドエッグとライ麦パンが付いているでしょう」
「よくご存知で」
「えぇ、私も大好きだから。うちのレストラン」
「ありがとうございます。では私はこれで」
ダニエルはキャップを目深に被るとスタスタと歩き出した。
「行くのはやめておきなさい」
ヒエの声を振り払いダニエルは足早に駆け出した。
「やめなさいったら」
「お客様、仕事の邪魔はしないで下さい。配達に遅れます」
「ピザショップの店員のつもり?」
「ピザは入っていません」
「もうバレているの。いい加減にしたら」

立ちはだかるヒエにダニエルは不満そうに口を尖らせた。
「後をつけるなんてズルいぞ」
「お義母さんのレストランの料理を持っていく方がズルいわよ」
「これはフローラが好きな料理だ。持って行って何が悪い」

二人は顔を突き合わせた。
「フローラは今、ウンミンからミニョンの好きな料理を教わっているの。少しずつ変化しているのよ」
「結婚しても好きな味は変わらない」
「フローラはセナさんの味を覚えようとしているのよ。それをミニョンに食べて欲しいのよ」
「それなら僕だってフローラの父親だ。ヒエだって母親だろう」
「それでも今は持って行ってはダメよ」
「フローラはこれを見たら喜ぶはずだ」
ヒエはため息混じりに言った。
「そうね。ありがとう、パパって受け取るでしょうね。でもあの子が作った料理はどうなるのかしら」
「それは後で食べればいい。美味しいディナーの方がいいに決まってる」
「そうかしら。最初は不味くても愛する人のために一生懸命作った料理が一番だと思うけど」
「ミニョンは誤魔化しがきかない子だ。不味いものを美味しいとは言わないだろう」
ヒエは諭(さと)すように言った。
「でもそれでいいのよ。美味しくなくたって綺麗じゃなくたって、一日一日を共に過ごして行くうちに二人の美味しいディナーが出来上がっていくのよ」
「だからそれまで僕が美味しい料理を持って行ったっていいだろう。食べたくても食べられない所に行くかも知れないんだから」
ヒエは怪訝(けげん)そうな顔をした。
「食べたくても食べられない場所ってどういうこと?」
「そういう場所もあるだろうなと」
「ダニエル、何か隠してる?」
「別に何も隠してなんかいないさ」
「言って、フローラと何があったの?」

ダニエルはヒエを見つめると手を握った。
「先日、こうしてフローラの手を握ったら声が聞こえた。『ソウルへ行くよ』と」
「フローラがそう言ったの?」
「厳密にはフローラの子供の頃の声だった」
「それならきっとフローラの過去の思い出よ。ミニョンがソングとソウルへ行った時、本当は自分も行きたかったと言っていたから」
「それとは違う気がする。成人したミニョンがいた。その隣にいたのはフローラだ。もちろん子供の姿ではなかった」
「あなたの力は信じているわ。でもフローラもミニョンも今はソウルへは行かないわ。ミニョンは大学へ再入学したばかりだし、フローラだって小児科医としての勤務があるわ」
「僕は分かるよ。行きたくなったら止まらないんだ。フローラよりミニョンの方がそうじゃないか」

僅(わず)かな沈黙の後ヒエは答えた。
「もしミニョンが留学するならパリやローマよ。ソウルではない気がする」
「ミニョンが行くと言ったらフローラは一緒に行くだろう」
肩を落とすダニエルをヒエは優しく抱きしめた。
「ダニエル、明日はあの子たちはソウルへは行かない。ここにいるわ。私たちのすぐそばに」
ヒエはダニエルの手を取ると腕を組んだ。
「そのお料理は私たち二人で食べましょう」
「そうする」
ヒエからその話を聞いた二人は揃ってソウル行きを否定した。
「パパは寂しかったのかしら」
「ダニエル先生はフローラを心から愛しているからね」

それからミニョンとフローラは時々オーウェン邸へ泊まるようになった。それには祖父母のオーウェン夫妻も大歓迎だった。
「ごめんなさいね。新婚なのにこちらに泊まってもらって」
「どうぞお気になさらずに。それにおばあ様の料理を楽しみに来ていますから」
「フローラは少しはお料理の腕は上がったかしら」
「彼女は忙しいので今のところ僕が作っています。とても美味しいと言ってくれますよ」
「まぁ、フローラったら。すっかり旦那様に甘えてしまって」
「僕がウンミンから料理を教えて貰って、今度はそれをフローラに教えるんです。僕もフローラもとても楽しいです」
「熱々のお料理が出来そうね」
「熱々なのは僕とフローラです」

それを見ていたヒエはダニエルに告げた。
「ミニョンはとても良いパートナーね。だけどもう一人増えたら皆で育てなくては」
「もう一人?」
「ほら、帰って来たわよ」
リビングへ駆け込んできたフローラは息を弾ませミニョンに飛びついた。
「赤ちゃんが出来たの。ミニョンと私の赤ちゃん」
「ホント!?」
「いつ分かるかママに相談していたの」
「フローラ、最高だよ!」

次回:第700話.ハートのエース

(風月)