改:第695話.見つけた、私の恋人【連枝の行方.第二部⑦】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

風月庵~着物でランチとワインと物語

毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

第695話.見つけた、私の恋人

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』⑦】

ジュノは二人と別れるとチェリンの元へやって来た。
「チェリン」
「随分遅かったわね。何してたのよ」
「アスティとタルト、ニューヨークへ帰るって」
「ふうん、興味無いけど」
「興味無いなんて言うなよ」
「じゃあ、興味ある」
チェリンは姿勢を低くするとジュノの顔を覗(のぞ)き込んだ。
「ベストセラーになって大儲けしたから、これから二人で遊びに行くのかと思った」
「何てこと言うんだよ」
「興味あるって言ったら喜んでいたじゃない」
ジュノは口を尖らせ怒り出した。
「アスティはそんな人じゃない!」
「長い髪で顔を隠して、あんな陰気な男がモデルの女にモテるとしたら、お金しかないでしょう」
「タルトはモデルじゃないよ。小児科のお医者さんだよ」
「へぇ~お医者さんなんだ」
「アスティだって真面目な大学生のお兄さんだよ」
「そんなに若いの」
「サイン会でタルトが言ってたの、聞いていなかったのかよ」
「聞いてないわよ」
「まぁ、タルトは綺麗でスタイルが良いからモデルでもいけるけど」
「そうかしら」
「皆、言ってる。タルトは美人だって」
「5才も年上なんでしょう。それじゃあね」
ジュノは横目でチェリンを見つめた。
「アスティはチェリンと同い年だよ」
「同い年なら私と一緒でもう卒業してるじゃない。まだ大学生ってことは落第したか、受験を失敗したか、どちらかよ」
「アスティは怪我と病気で一年遅れたんだ」
「あら、そうなの」
「アスティはハンサムで頭が良くてカッコイイんだからな」
「子供にはそう見えるのよ」
「何だよ、それ」
「私とジュノじゃあ見る目が違うわ」
チェリンは自慢気に答えた。
「私のアンテナは本物じゃないと反応しないの」
ジュノはムキになって言い返した。
「そんなだからチェリンはジュンサンお兄ちゃんにフラれたんだよ」
「どうしてジュンサンが出てくるのよ」
「アスティだって絶対にチェリンなんか好きにならないからな」
「フン、あんな暗い奴、こっちがお断りよ。私は最高に素敵な人を見つけるんだから」
「チェリンなんかフラれちまえ」
「こら、ジュノ。待ちなさい!」

そうして両親が現れて4人は何日かパリでの休暇を過ごした。オ・ジュニクとソン・ユリ夫妻がパリへやって来たのは、娘のチェリンをレミー・フレットの元へ預けるためだった。レミーはニューヨークでの銃撃事件の一部始終を知っている。セナと懇意にしていたレミーは彼女の姪であるチェリンの留学を自ら買って出た。パリには子供の頃にチェリンが買った赤いダッフルコートの子供服専門店『ハミングバード』がある。反面、事件の記憶を無くし目覚めた後にチェリンが夢を馳せたのは、ウェディングドレス専門店『サティ』だった。チェリンはその時のレミーの言葉を決して忘れなかった。レミーもまたジュニクとユリは娘の夢を諦めさせることはしたくなかった。
「どうか、よろしくお願いします」
「大丈夫よ。チェリンは強い意思を持っている。きっとやり遂げるわ」

両親とジュノが帰国する前日、チェリンは言った。
「私、納得行くまで帰らないわ。絶対に素敵なデザイナーになってレミーのように自分のお店を持つから」
パパは『必要な事以外は何も考えるな』と言った。ママは『ファッションの事だけに頭を使いなさい』と言った。ジュノは少し泣きべそをかいて『寂しくなったら直ぐに電話しろよ』と生意気な口をたたいた。本当は自分が寂しいくせに。

そうしてパリでの暮らしが始まった。レミーに最初に言われたのは『美しさを磨きなさい』だった。思う存分、磨くつもり。サティでお店の手伝いをしながらファッション・スクールへ通った。そこでは直ぐにクラスの何人かに目を付けられた。聞いてもいないのに彼女たちは言ってきた。
「今時そんな野暮ったい服をよく着られるわね」
「ここはパリのファッション・スクールよ」
「そのキラキラの髪飾り何?」
「レミー・フレットの家にいるんですって?メイドでもやっているの」
いやみったらしいったらありゃしない。だから私も負けずに言い返した。
「この服、レミーのお見立てよ。へぇ~野暮ったいんだ」
「何よ」
「髪飾りはサティの残りで作ったの。そう見えない?…あぁ、本物は見たことないんだものね。今度はまた新しい髪飾りを見せてあげるわ」
彼女たちはそれから何も言わなくなった。私より夢中になるターゲットが出来たようだ。パリの街には直ぐに慣れたけれど、素敵だっていう男の子を大勢の女の子で追い回す騒々しさは嫌になってしまう。後ろからゾロゾロ付いてきたかと思うと、一緒のカフェに入って遠巻きでヒソヒソ。バカみたい。一人の男の子をライバルと共有してどうするのよ。

その日、私は老舗のカフェにいた。常連客と近くの大学の学生がよく通っている。一度入って気に入っていたけれど、取り巻きの女の子がいっぱいで、その後はなかなか入れなかった。今日は空いている。喧騒を撒き散らすあの集団もいない。窓辺の席でカフェオレを飲んでいたら大学生が連れだって入ってきた。私はその中の一人に目を奪われた。
『ジュンサンにそっくり』
ううん、ジュンサンじゃない。彼は亡くなったのよ。分かっている。彼は眼鏡を掛けてる。ジュンサンよりもっと明るい笑顔、ジュンサンよりもっと弾んだ声。
「僕はカフェオレ」
「今日は取り巻きがいないから静かに飲めるな」
「そんなことを言ったら彼女たちが可哀想だろう」
「さすがイ・ミニョンだ。女の子に優し~い」
胸が高鳴る。
『イ・ミニョン、イ・ミニョン…見つけた、私の恋人』
チェリンはミニョンの後ろに立つと、とびきりの笑顔で声を掛けた。
「ハンサムですね。ご一緒していいですか」

次回:第696話.ウェディングディ

(風月)