改:第687話.美男のエイリアン【連枝の行方.第二部⑦】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

第687話.美男のエイリアン

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』⑦】

朝になるとミニョンはフローラのベッドで目を覚ました。そうは言っても隣に彼女はいない。起きがけの頭で思い出しても昨晩の出来事はよく分かる。フローラに宣言し二人で愛を確かめ合おうとしたのに、直前で眠りに落ちてしまった。ほんの少しだけ頬に残る柔らかな感触。それがあまりにも心地よくて眠りを誘発してしまったのだろうか。目覚めた時にはベッドに寝かされていた。

薄暗がりの中で彼女の姿を確認したとき、フローラは僕の元を立ち去るところだった。凄く切なくなって『ごめん』と言った僕に、フローラは優しい笑顔を返してくれた。それは触れた指先から伝わってきた。
『愛しているわ。あなたを心から愛してる』
そして彼女の心は言っていた。
『セナおば様、ありがとう。これからも私はミニョンと一緒にいます。私たちが愛し合う日が来たら祝福して下さい』
何処かにママがいたのだろうか。だからフローラはあんな事を言ったのかな。取り敢(あ)えずダニエル先生の怒りを買うことは免(まぬが)れた。

ミニョンは背伸びをするとベッドから起き上がった。外は太陽が昇ったばかりだ。この時間ならフローラもまだ眠っているだろう。ミニョンは着替えを済ますと部屋を出て行った。

ドアを開けたのは自分の部屋だ。僕のベッドにはフローラがいるはずだ。そっと中を覗(のぞ)くとフローラは毛布にくるまり眠っていた。その顔が思いのほか幼くてミニョンは綻(ほころ)ぶ口元を押さえた。
「可愛い奴」
強くて綺麗でスタイル抜群で、性格は明るく頭脳明晰、面倒見がよくて情にもろい。時々妬きもちを焼くけれど可愛いもんだ。僕にすればそれも愛する刺激になる。
「う~ん」
突然寝返りを打った彼女にミニョンはクスクスと笑い出した。
『僕が考えていたこと伝わったのかな。敏感な奴め』

ミニョンはそっと部屋を出た。次に心に浮かんだ事が彼女に知られたら大変だからだ。その時は誤魔化そう。何を思ったかって?。そう…彼女の最大の欠点は料理が下手なこと。こんな心地よい朝にあんな料理を食べさせられたら泣くに泣けない。あの破壊的な盛り付けと恐怖の味付けは勘弁してくれ。ウンミンはまだ休ませておこう。だから朝食は僕が作る。

キッチンへ降りるとミニョンは壁に掛ったエプロンを身につけた。昨日の夕食は保存用のレトルト食品を温め、ディナーとして誂(あつら)えた。それならフローラも失敗なく出来る。ただし盛り付けは合格とは言えなかった。
「そこに置くの?」
「変かしら」
「料理を並べて寝かせたら美味しそうに見えないだろう」
「この方がナイフを入れ易いわ」
「それは次の段階。まず見た目で美味しさを表現しないと」
「レトルトなのに」
「レトルトでもするの。その方が美味しいだろう」
「そうなんだ」
「さては医学書を読みながら片手で食べていたな」
「エヘヘ~」
それでもフローラはウンミンのスープを食べやすいように適温にし、柔らかなお粥(かゆ)を作ってくれた。
「私、これだけは出来るの。私の自信作」
「あっ、美味しい。意外だな」
「意外だけ余計」

ミニョンは思い出し笑いをしながら冷蔵庫を開けた。たった一つ、フローラはシンプルだけれど時間のかかるお粥を作った。僕はスピーディーにシンプルな朝食を作ろう。スクランブルエッグにソーセージ、グリーンサラダにフレッシュチーズ。ライ麦パンにはハーブ入りのバターを合わせようか。そんな事を考えながら朝食を作っているとウンミンが現れた。
「ミニョン坊っちゃま、おはようございます」
「おはよう、ウンミン」
ミニョンは手を休めるとウンミンの額(ひたい)に手を当てた。
「熱、下がったね」
「はい、もう大丈夫です」
そうしてウンミンはテーブルへ目をやった。
「これを一人でお作りになったのですか」
「このくらい誰でも出来るよ。フローラ以外はね」
「まぁ、そんなことを言ってはいけません」
聞こえていたのかキッチンへ入って来たフローラは二人の後ろに立った。
「私だって教えてもらえば出来るんですからね」
「じゃあ、ウンミンから教えてもらえよ」
「ホント?私、やりたい」
「あの破壊的料理を救えるのはウンミンだけだ」
「何とでも言って。最初は誰だって出来ないんです」

二人はじゃれ合い脇腹を小突いた。
「ウンミンさん、もしかしてセナおば様の得意料理も教えてもらえる?…ほら、あれ」
「ケランチム(韓国風茶碗蒸し)ですか」
「凄く美味しかった。うちのパパも大好物だったわ」
「よろしいですよ」
「ケランチムはまだ早いよ。フローラは無理」
「では簡単なものから」
「それならお弁当はどう?ランチのお弁当。たくさん覚えられる」
「いいですね」
「もしかして食べるのは僕?」
「もちろん」

9月になるといつものようにコロンビア大学に多くの新入生が入学してきた。その中で密かに話題になっている新入生がいた。その風体は少しばかり変わっていた。背中まで伸びた長い髪に黒の帽子と黒のサングラス。講義の時にはサッとやや薄めのサングラスに変える。一瞬の横顔を見た者によると相当の美男だそうだ。まともに顔を見た者はいない。目が弱いのか、それとも何処か身体が悪いのか、時々急にテーブルに突っ伏す。病状を届けているらしく教授たちはそれを認めている。イ・ジュンサンと名乗るその男は、クラスメートとはサラリと話し、いつの間にかいなくなる。あとに残るのはフワリといい香り。イ・ジュンサンが現れるのは主に夕方から。夜の講義を中心にカリキュラムを組んでいるようだ。

そんな彼は時々キャンパスで遅いランチをとる。持ってくるのはランチボックス。誰かが言っていた。
「彼って美男のエイリアンよね」

次回:第688話.月の雫

(風月)